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23 心配性な兄妹

この章からようやく話が、皇太子の誕生日パーティーの日に戻ります。

「兄上、何故今日のパーティーに婚約者を同伴させなかったのですか?」

 

 と俺は尋ねた。

 

 そもそも、姉ミニストーリアの婚約者のアーグスや、弟セブオンの婚約者のサンエットをあてにしなくても、兄ザーグルの婚約者のアルビーさえいてくれたらそれで十分だったのである。

 

 何故なら彼女は頭も良く、しっかり者の常識人で、誰からも尊敬されている聖女様なのだから。

 彼女がいたら俺が下手に動かなくてもなんとかなった筈なのだ。

 

 

 三年前の城内での癒しの魔剣事件は、箝口令が出たおかげで、表面上は人の口に(のぼ)る事はなかった。

 そのおかげで、俺と兄貴とアルビーの三位一体の例の能力については、一般的には知られてはいない。

 しかし、市井で起こった事は人の口に戸は立てられない。

 

 贖罪の日、レストー=グラリス教会で癒され体調が改善された者達によって、あっという間にアルビーが聖女だという噂が広まった。

 

 アルビーに病気を治して欲しい人々が殺到したら大変な事になるので、まずアルビーとサンティア家に護衛を付けるように俺は進言した。

 これはすぐに実行された。まあサンティア家は城の騎士なんだから当然だ。

 

 次に教会には直ぐ様、このようなお触れを出してくれるように依頼した。

 

「聖女様による癒しの恩恵は、年に一度だけである。なぜなら、聖女様によって癒しの魔剣が力を出せるのが、贖罪の日の限定だからである」

 

 勿論これは嘘だが、アルビーが毎日人々の懇願に応えるわけにはいかない。

 嘘をつくことに、教会は最初のうち難色を示したが、教会にアルビーを守れるのかと問うと、しぶしぶそれに応じた。

 

 人間の欲望はきりがないし、その貪欲さは寧ろ悪である。さすがに教会も、それを押さえる自信がなかったのだろう。

 それにそもそも、癒しの魔剣の紛失を長年隠しておいて、今更じゃないか。

 

 そしてこのお触れには、ありがたい事に効力があった。

 贖罪の日でないと治してもらえないとわかると、人々はあっさりとアルビーを追いかけ回す事を諦めたのである。

 

 アルビーやサンティア家、そして兄のザーグルがほっとしたのは当然だが、この事に一番安堵したのは俺だったと思う。

 

 贖罪の日の計画を立てたのは俺だったのだから。

 まさかアルビーの歌声に、魔人だけでなく、人間の体調まで良くする能力があるとは思いもしなかった。しかし、それは言い訳にはならない。

 

 俺のせいでアルビーの人生が聖女として祭り上げられて、制限付きの不自由なものになっていたら、と考えると、俺は今でも震えがくる。

 アルビー自身はサンティア家の問題に俺を巻き込んで悪い事をした、と思っているようだったが。

 

 俺はあれ以降反省し、もう余計な事に首を突っ込むのは自重していたのだ。

 そう、昨日までは。

 

 

「アルビー様は体調がお悪いのですか?」

 

 ベルークが心配そうに尋ねた。しかし、兄はいや、と否定した。では余程の用事でもあったのかと尋ねると、こう答えた。

 

「間も無く結婚式だろう? 今何かあると大変だから、外へはなるべく出ないように言ってある。」

 

「「・・・・・」」

 

 俺とベルークは唖然とした。結婚式までまだ三ヶ月もあるぞ。その間屋敷に缶詰めにする気か?

 

「アルビー嬢は納得したのか?」

 

「さあ? お義父上にお願いした」

 

 俺は頭痛が起こりそうになって、額に手をあてた。

 

「それはまずいと思います。ザーグル様」

 

 珍しくベルークが兄に意見をした。

 

「何故?」

 

「何故って、アルビー様と婚約してから既に三年も経つのですから、ザーグル様もおわかりでしょう?

 アルビー様はご自分の意志をちゃんと持っていらっしゃるお方です。たとえ夫になる人であろうと、一方的な指示に従うことを()としないでしょう」

 

「ええと。彼女の為に良かれと思ってしたんだけど」

 

「ですから、それをお二人でご相談してお決めになられたのなら問題はありません。しかし、その過程が抜けている事が問題なんです」

 

「・・・・・」

 

「俺達男は結果が良ければいいじゃん、と思いがちだけど、女性は違うって事、いい加減学習すべきだよ、兄上。今まで似たような喧嘩を何回しているんだよ。さすがにこのままだと破談になるかもな」

 

 俺の言葉に兄は信じられないという顔をした。そんなつまらない事で破談になるわけないと。だから俺はこのままじゃ本当に駄目だと思った。

 

「普通、余程の事がない限り女性からは破談できない。特に爵位が下の者からは。でも、アルビー嬢は違うよ。聖女様と同等の方だからね。彼女が結婚したくないと言ったら破談できるよ」

 

「え?」

 

「今まで直さなかったという事は直す気が無いんだわ。それがわかった以上、そんな人と結婚しても仕方ないわ、って思うかもよ」

 

「彼女にとって大事なのは答えではなくて、その過程。兄上と一緒に考えて話し合う事なんだよ」

 

 兄はようやく事態の大きさを理解したらしかった。焦っている素振りで右往左往し始めた。

 だからこう提案してやった。

 

「この時間ならまだ会いに行っても失礼にはならないんじゃないですか。善は急げですよ、兄上。

 それと、今日のパーティーの件をお話しして、解決策もお聞きしておいて下さいね」

 

 兄は大慌てで俺の部屋を出て行った。

 

 その姿を見送りながら、俺は思った。兄上って、姿形だけでなく父にそっくりだなあ、と。

 クールな外見とは違い、ホント好きな人に対して過保護過ぎ。ほどほどにしないとウザいと思われるよ!

 

 それから俺はベルークを振り返って言った。

 

「それにしても意外だな。お前が女心にそんなに詳しいとはね」

 

「いや、そんなことは・・・・・」

 

 とベルークが口ごもった時、

 

「え? 今まで気付かなかったんですか? お兄様って、案外、いえ大分鈍いですわね。そんなところも大好きですが」

 

 そんな言葉と共に、ピンクモンスター、妹のイズミンがベッドの下から顔を出した。

 

「いつも言っているだろう? 立派なレディが勝手に人の部屋の中に入って、かくれんぼなんかしてはいけないよと」

 

 俺は苦笑いしながら腰を落としてイズミンを抱き上げた。

 すると妹はすまし顔でこう言った。


「お兄様が突然襲われないか心配だから見張っているんです」

 

「俺の部屋でかい?

 大体心配するなら、それは俺の方だろう? かわいいイズミン!」

 

 今年六歳になった妹は益々かわいらしく、愛しらしくなっている。

 俺の前では相変わらずやりたい放題のピンクモンスターだが、その他ではちゃんとレディとして振る舞えるようになっている。そのせいで妹の評判は諸外国にも伝わっている程で、既に見合い話まで来ているくらいだ。

 勿論父が全て即却下しているが、不埒な者が現れたりしないかが、我が家最大の悩みだ。

 

 もっとも、彼女のお守り役や護衛の者を煙に巻いて、俺の部屋に侵入して来れるくらいなのだから、あまり心配しなくてもいいのかも知れないが・・・


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