2 二人の王子
前世の部分が多すぎですかね?
すみません!
我がコーンビニア王国には二人の王子がいる。
長男のセブイレーブ皇太子殿下は金髪碧眼の、テンプレイケメン王子。
その上かなり強い攻撃魔力を持ち、頭も性格もそこそこいい。
だが、俺に言わせりゃ、こういう人間が一番、後々面倒な事を起こすタイプ。前世の姉と同じだ。
元々初めての子供で、みんなの期待が大きかったところに、望み通り優秀な子供とくりゃ、もう、周りの期待値はうなぎ登り。
子供にとっちゃいい迷惑。出来て当たり前。失敗は許されず、もっともっとと要求される。
しかし、この世に失敗しない人間なんているか? いや、失敗しないと人は成長しないだろう。何故それがわからないんだ。己れを振り返れ!
つい、興奮してしまった。
前々からアップアップしているのが見て取れて、若輩の身ながら心配はしていたんだ。無理をしすぎて、皇太子殿下は今にも限界に達しそうだったから。
ほら、コップにたまった水が、表面張力で膨らんでて、今にも溢れ出そうな瞬間、ってやつ。
しかし、コップの水ならまだしも、この最大攻撃魔力持ちの皇子殿下が溢れ出したら、ダムが決壊するようなもんだぞ! どうすんだよ!!
で、次男のローソナー王子殿下はというと、こっちは兄とは対称的に地味な王子だ。
この世界じゃ一番多いブルネットヘアに濃紺の瞳。そこそこ強い攻撃魔力を持ち、頭もそこそこいい。
性格も、兄と比較されて嫌な思いもしているだろうに、僻むこともなく、ひねくれもせず、俺からすると、最高の弟だと思う。
前世でも、こんないい弟いないんじゃないかと思う。
俺と姉貴は男女の差があったから、そう僻まなかったし妬みはしなかったけど、同性だったらめちゃくちゃ反抗して、多分ぐれていた気がする。
まあ、家族に誕生日すら忘れられている事には、さすがに俺も凹んでいたが、毎年幼馴染みが覚えててくれていたから、それで救われていた。
あっ、話がずれた!
とにかく、次男のローソナー王子殿下はいい奴だ。これは異世界転生物のテンプレじゃない。
普通なら、主役に敵対する弟の設定といえば、無能な奴か、でなければ、黒魔術を使えるとか、魔王だとか、ダークホース的な存在が多いのだろうが・・・
この世界にこんな地味なキャラってホント珍しいと思う。
彼は兄思いで、なんとか手助けをしたいと思っているようだ。しかし、現在いっぱいいっぱい状態の兄に、自分が何を言っても素直に受け取ってはもらえないのではないか、と躊躇っているのが伺える。
まあ、その通りだろうな。却って悪くとられる恐れがあるよな。
こういう場合、誰が忠告するのがベストなのかというと、やはり恋人だ。しかし、こちらの方はまさしくテンプレだ。
僅か五歳で皇太子の婚約者になったのは、公爵家の長女で強力な癒しの魔力持ち、エミリア=イオヌーン。
プラチナブロンドヘアに淡い水色の瞳、そして、透き通るような白い肌をしている。
そう、典型的なクール美人。その薄い眉毛を吊りあげたら、今流行りの悪役令嬢様だ。
しかし、今のところ、悪役令嬢と呼ばれる一歩手前の状態だ。
彼女は頭がよく、何をやっても卒がなく完璧で、性格だって決して悪くない。
そんな彼女を一声で言い表すならば、ズバリ『糞真面目』!!
彼女自身もいっぱいいっぱいなので、限界に到達している婚約者をフォローできてない。
いや、水の中で絡み合って、二人一緒に溺れる寸前?
よく、ベテラン教師が親に向かってこう言うじゃないか。
「悪さをする子より、むしろ真面目な子の方が心配なんですよ。大人になって、同窓会に呼ばれて行くと、だいたい立場が逆転しているものですよ」
って。あれ、結構言い当ててると思う。
俺は早生まれだったんで、まだ二十歳前だったが、成人式の後で、中学の同窓会をやったんだよね。
その会をまとめてたのは、昔悪さばっかりして、みんなに迷惑かけていた奴ら。その詫びにって、自ら幹事を引き受けたらしい。
かつての苛められっ子も、ヒッキーも何人か参加してたけど、奴らが引っ張り出してきたらしい。そして、そんな彼らにもちゃんと配慮していたので、彼らも楽しそうにしてた。
悪さをしている連中の方が、経験値が高い分、人間関係が上手になって、大人になって成功するらしい。
それに比べて一流高校、一流大学へ進んだ奴ら(途中で一流コースから外れた奴らは当然ほとんど参加していない!)は、ほとんどパッとしなかったね。
いや、本人達は勝ち組だと思って自慢話ばかりしていたけど、卒業した今更、誰もそんなの聞きたかないよ。そんな事すらわからんようじゃ、社会に出ても、駄目なんじゃないのか、と思ったよ。
挫折を知らないただの優等生は、融通がきかないし、プライドだけは高くなりがち。上から目線になるから、人から避けられる。
でも、自分じゃ、悪い事しているつもりがないから、何故上手くいかないかわからない。それで空回りする・・・らしい。
俺の姉貴はまさしくこれだったよ。
だけど、全員が全員そうなるって訳じゃない。
同窓会の時、クラス委員やってた優等生の女子が、みんなにチューハイの水割作ってやってるのを見た時は驚きだった。
いつもなにかというと、
「それ、女性差別よ!」
「それ、モラハラよ! セクハラよ!」
って、いちいち喚いていた女子がだぞ。
昔は一度もしゃべった事のなかった彼女に、俺は初めて話しかけた。
「なあ、委員長、どうして、そんなに変わったんだ?」
俺の直球の質問に、彼女はさらっと答えてくれた。
「私、子供の頃、ずっと楽しくなかったんだよね。
ある日何故つまらないんだろうって考えたのよ。そしたらさ、なんかどうでもいい事に、ただこだわってたんだな、って、ふと思ったんだよね」
「理屈っぽかった委員長の割に、大分抽象的な理由だね」
近くにいた奴がそう言った。昔、委員長にいつも言い負かされていた男だった。彼女もそれを覚えていたのだろう、昔はごめん、と笑った。
「正論ばかりが正しい訳じゃない。それに、人の評価なんて無意味なんだって、ようやく気付いたら、ホント楽になったよ」
彼女の笑顔はとても素敵だった。稀にこんな優等生もいる・・・・・
だから、俺は、悪役令嬢になりかけているエミリアにも、こだわりを捨てて、もっと楽になって欲しいんだ。
こう見えて、一応公爵令嬢と俺は従姉弟同士だし、幼馴染みだからな。