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17 ロイホト神父

16章の「執事カスムート」の編集を失敗してしまいました。この章を読まれる前に、一つ前に戻って頂けたら幸いです。申し訳ありません。

 贖罪の日の朝。

 

 この日は祝日《人々の罪が消え去る日とされているので・・・》だったが、兄のザーグルは軍隊学校の制服を着てサンティア家へと向かった。

 俺は家を出る兄の耳元でこう呟いた。

 

「兄貴、今日どんなに意外な人にあっても、どんなに意外な事があっても平常心でいてくれよ。間違っても顔に出したり、話しかけたりしないでくれよ。後でいくらでもゆっくり話せるからさ」

 

「? ? ?」

 

 兄は不思議そうな顔をしながらも頷いてくれた。

 

 そう。今日の主役とヒロインは、兄貴とアルビー嬢になるはずだ。

 

 

 

 ドラドッド家で癒しの魔剣らしき物が見つかったという話は、多分外へ流出している。

 子供達に口止めしなかったのだから。

 

 普通なら、『魔力のないただの剣で残念でしたね』、というただのつまらない愚痴話に過ぎない。

 

 しかし、癒しの魔剣の効力を知っている者、しかもそれが行方不明だと知っている人にとっては、もしかして?と疑う話である。

 

 俺がそれを示唆した事で親父は即に動いた。親父は軍のトップという訳じゃないが、冷静沈着な頭脳派で、影の司令塔と渾名されている。

 

 しかも義弟は宰相を務めるイオヌーン公爵。

 その上叔父は癒しの公爵で、レストー=グラリス教会を事実上支配下に置いているのである。《世間的には知られていないが・・・》

 

 そしてそもそもエミストラの父はバリバリの軍人。アルビーの父は王城の騎士だ。

 息子と娘から例のレポート用紙を読まされた二人は、真っ青になったが、事の重大さをすぐに認識し、俺の父親と連携を図ったのだった。

 

 兄を見送った後、俺とベルークはレストー=グラリス教会へ向かった。俺は聖歌隊のメンバーに紛れ込んで、アルビーの護衛をするつもりだ。

 

 元々贖罪の日は、聖歌隊に護衛が付く。これは大昔からのしきたりだが、近年比較的平和になってからはそれは形骸化していて、本当の軍人や騎士が付く訳ではなく、軍人学校の学生だったり、騎士見習いがそれにあたっている。

 

 だから、アルビーの護衛には兄貴が付く事ができたのだが、歌っている時は側にはいられない。そこで、その間の護衛は俺がする事にしたのだ。

 

 俺は軍人学校の生徒じゃないが、兄と一緒に訓練は受けている。それに内緒だが攻撃魔力持ちなんで、いざとなればその場しのぎぐらいにはなれるだろう。

 

 そしてエミストラも聖歌隊のエキストラ要員だ。当然ベルークもそれをやりたがったが、俺は今度ばかりは断固拒否した。

 

 彼は恨めしい目で俺を見たが、ベルークは目立つ。やせマッチョで強いが、美形過ぎてかなり目立つ。

 怪しまれる要素はできるだけ排除だ。勿論排除なんて言葉は、ベルークに限らず人に向けて言ってはいけない言葉だから言わないが。

 

 レストー=グラリス教会に着くと、そこには既に早々と人々が集まっていた。みんな贖罪の為に集まっているはずなんだが、まるでお祭りの前夜祭のように頬を紅潮させてざわめいている。

 

 教会の控室に入ると、顔見知りの教会長がいきなり俺に頭を下げたので、俺は慌てた。止めてくれ! と目で訴えた。

 国で一番尊敬されている尊い教会長に人前で頭を下げられるなんて、身の置き所がなくなるし、目立っちまう。

 

 それにまだ、あの剣が本物かどうか確証はないんだから。

 そう。感謝された後で、間違いでしたとか、確認できませんでした、って事になったら辛いから止めて!

 

 俺とベルークはこそこそとロイホト副教会長の側へ行った。彼は俺達に例の聖なる本を見せてくれた神父さんだ。

 

「まさか、こんな事になるとはね。これも天の思し召しですかね? それとも貴方のおかげでしょうか?」

 

 ロイホト副教会長が微笑みながら小声でこう言ったので、俺も笑みを浮かべてこう答えた。

 

「天と、屋根裏部屋で宝探しをしてくれた子供達のおかげだと思います。でも、まだ確証はないので、後でがっかりしないでくださいね。」

 

「もちろん、わかっているとも」

 

 ロイホト神父は頷きながらこう聞いてきた。

 

「ところで君は歌の方はどうかね? 練習してきましたか?」

 

 そりゃそうだよね。歌い手のエリート揃いの聖歌隊に、歌の下手な奴がまじってたら怪しすぎるもんね。

 来る途中でも、ベルークから

 

「絶対歌わないでくださいね。口パクしてくださいよ!」

 

 と何度も念を押された。大丈夫だって。上手に口パク出来るように、夕べ、ちゃんと楽譜を見て歌詞を覚えたから。

 それに、実は俺には生前持っていた絶対音感が引き継がれている。

 

 俺は幼い時に、姉の音楽教室におまけで連れて行かれてた。

 元から耳が良かったのか、いつしか絶対音感が身に付き、一度聞いた歌はすぐに覚えて歌えたし、それを楽譜なしで即電子楽器で演奏が出来るようになっていた。

 しかし、姉の方はいくら練習しても電子楽器の演奏がなかなか上達しなかった。

 そのせいでやたらと姉に嫉妬されて面倒だったので、俺は次第に音楽から遠ざかっていった。 

 

 まあ、その記憶があったので、俺は今世では人前で歌ったり、楽器を演奏した事がない。姉や妹に嫉妬されるのは嫌だから。

 

 だから、俺の事は大抵の事は把握しているベルークだが、魔法と音楽が得意だという事は知らないのだ。

 

 俺は思い切りニンマリと笑ってロイホト神父に言った。

 

「心配いりません。歌詞と曲はすっかり覚えた上で、しっかりと口パクの練習をしてきたので」

 

 すると、神父は苦笑いをしたのだった。

 

 そして俺とベルークがロイホト神父とこんなやり取りをしていると、エミストラとアルビーがやってきた。

 アルビーは見るからにいつもと違って顔をこわばらせ、緊張していた。

 神父達は心配そうな顔で彼女を見た。少女一人に重責を負わせる事に申し訳なさを覚えているようだった。

 

 しかし、俺とベルークと、そしてエミストラはわかっていた。これはこれから起こるかもしれない事の緊張感からではなく、ついさっき起こった事に興奮しているだけだと。

 案の定、アルビーは俺に向かってこう言った。

 

「後で、聞きたい事があるんどけど・・・・・」

 

 だから俺は笑って頷いた。

 

 

 やがて時間になり、教会副会長が高らかに贖罪の日の始まりを告げた。

 そしてそれに続いて、教会長が静かに優しく、この日の意味や意義を説明した。

 

 その後、聖歌隊に合図が送られたので、指揮者の指揮のもと、静かに讃美歌が歌い出された。

 

 俺は口パクをしながら舞台の上の左端から、教会の中を出来るだけ顔や目を動かさずに観察した。

 老若男女、身分の上下関係なく、自分にとって正装と思われる服装をして、みんな手を合わせ、頭を垂れて、一心に祈っている。その厳かな姿勢に、本当は信仰心など全くない俺でも、何故が身が引き締まる思いがした。

 

 兄を含め聖歌隊を守ってきた若い軍人及び騎士見習い達は、一番後ろに整列しながら、厳しい表情を変えなかった。

 

 ふと、ベルークに目をやると、彼もまた他の礼拝者同様に真剣に祈っていた。その姿は本当に何かを懺悔してるようで、何故か俺の心が痛んだ。

 辛い事があるのなら、俺に打ち明けて欲しい。どんな相談にも乗るから。俺達は一番の親友だろ?

 

 贖罪の日の礼拝は希望者が多いので、午前中三回に分けて行われる。そして昼食をとってから、城内へと移動する。

 

 いよいよ一回目の礼拝の最後の曲となった。

 指揮者が指揮棒を振り上げた瞬間、最後尾にいた護衛の若者達が一斉に、腰ベルトにつけていたホルダーから剣を取り出した。そしてそれを胸の前で両手で握った。

 それらの剣の形状は様々だったが、どれも剣にしては珍しい緑色をしていた。濃淡の差はあったが。

 

 そして指揮棒が振り下ろされると、静かに聖歌隊は『ソーズスミスソング』を歌い出した。

 懺悔や贖罪とは何ら関係もなさそうな、例の刀鍛冶を讃える歌を・・・・・

 

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