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16 執事カスムート

16と17章を編集するとき、失敗をしてしまいました。

もう一度この2章を読み直して頂けたら幸いです。

申し訳ありませんでした。


「確かその贖罪の儀式って、レストー=グラリス教会だけじゃなくて、牢獄でもやるよね?」

 

 俺はアルビーにこう尋ねた。すると、彼女はよく知ってるわね、という顔をして頷いた。

 

「その時歌う歌は決まっている?」

 

「ええ、もちろん」

 

「もしそれ以外の歌を歌ったらどうなるかな?」

 

「どうなるかって、やってみないとわからないけど、間違いなく叱責ものだわね。何故?」

 

「まさか、重く罰せられるということはないよね?」

 

 俺が連続して尋ねたので、勘の良さそうなアルビーは、何かやらされそうと察したらしく、嫌そうな顔をした。

 

「歌にもよるわね。何を唄わせる気? まさか冗談でラブソングでも歌えと? それともお祭りの歌とか? それ、囚人に対する虐めよ!」

 

「まさか! そんなふざけた事をさせるわけないでしょ。俺をなんだと思ってるんですか?」

 

「「何をするか全く予想が出来ないやつ!」」

 

 ベルークとエミストラが口を揃えて言った。

 

 

 

 その後、俺はある計画を三人に話した。

 エミストラはびびっていたが、

 

「正直に話して罰せられるつもりだったんだろ? これくらいできるよな? 乗りかかった船で、俺達も一蓮托生なんだぞ。わかってるな?」

 

 俺がわざと恩着せがましくこう言うと、エミストラは自棄糞気味に切れて言った。

 

「わかってるよ。出来るよ。というより一番負担が大きいのはアルビーじゃないか! それを心配しているだけだ。俺達は側に付いているだけで、 何もしてやれないんだから」

 

「私なら大丈夫。そもそも今回の件はうちのせいだもの。でも、成功するとはとても思えないけどね。」

 

 アルビーはため息まじりに言ったが、俺には結構自信があった。

 これで俺に課せられた課題を二つ同時に仕上げられそうで、珍しくわくわくしたのだった。

 

 

 

 家へ帰った俺達は、夕食後に父と兄に大切な話があると告げた。

 

「実は父上と兄上にお願いがあります」

 

 父の書斎で俺はいきなりこう言った。

 

「お前が願い事とは珍しいね。言ってごらん。出来る限り叶えよう」

 

 ちゃらんぽらんに見えてこの俺は、自分の事は自分でなんでもやってしまうタイプ。

 だから、親からも兄や姉からも、いつももっと甘えて~という視線を送られている。

 

 そして、侍従であるベルークからは時折悲しげな表情をされる。

 彼は実は大変な世話好き、いや、俺限定で世話をしたがるからだ。

 

 俺が侍従任せでダメダメな奴に思われているのは、俺が意図的に外ではなるべく自分では何もやらないようにしているからだ。ベルークのために。甚だ不本意ながら。

 

 我がジェイド家の執事カスムート男爵は息子達に非常に厳しい人だ。特に次男のベルークには厳しいというか冷たいというか。

 

 最初に弟のセブオンと上手くいかなかった事で、ベルークは父親から執事の資格無しの烙印を押されてしまったようだ。しかし、あの弟相手だぞ。無理言うな! 

 

 いいじゃん、俺とは上手くいっているんだから!と俺は思うのだが、何代も執事をしている家系の父親のプライドは鋼のように強く、冷たい。

 

 どんな主であろうとそれに従い尽くすのがプロの執事であるのに、主から用なしと言われるとは、カスムート家の恥!と考えているようだ。

 

 故に俺が自分の事を自分でしてしまうと、それはベルークが気がきかないせいだ、と思われてしまうらしい。

 仕方なく、執事がいる前ではなるべく自分では何もしないようにしているのだが、これがかえって辛い・・・

 

 これって生前の貧乏性だった記憶のせい? いや、記憶を取り戻す前からなんだから、持って生まれた性格なんだろう。

 

 

 まあそれはともかく、珍しい俺のお願いにわくわくしていた彼らだが、実際に俺が話し始めると二人は困惑して腕を組み、左足の爪先を上下させた。

 さすが父子だな。仕草が全く同じだ・・・・・

 

「ええと、それは本当に癒しの剣なのかね?」

 

 と父。

 

「だからそれを確めたいんです。ご協力お願いできませんか?」

 

 と俺。

 

「もし、違っていたら・・・」

 

「別に何も問題ないでしょ。違っていたら、なーんにも起こらないですから。」

 

「・・・・・」

 

「問題になるとすれば、聖歌隊が勝手に歌う歌を変えた事と、兄上が癒しの剣を持っているのがばれた時、どうやって見つけたのか、問われる事ですかね?

 でも、もし見つかったその時は、弟とその友人達が見つけたと正直におっしゃって頂ければいいと思います。後は俺達が説明しますよ。これで。

 

 読まれますか?」

 

 俺は二人の前に、この一週間で纏めた

 『癒し魔剣の誕生から現在に至るまでの過程とその効力』

 と題したレポート用紙の束を差し出した。

 

 しかし、父と兄はその分厚いレポートの束を手に取ろうとはしなかった。

 

 

「お前達の話を聞く限り、確かにそれは癒しの剣であると思えるのだが、それを聖歌隊で本当に証明出来るのか?」

 

 兄のザークルが眉間に皺を寄せながら、疑わしそうに言った。

 

「そりゃ絶対わかるとは断言は出来ませんよ。でも、これでわからなかったら、かえって他にどうすればいいのか俺にはわかりませんね。

 国内で歌うまコンテストでも開催します? その会場に魔人も連れてって。

 まさか牢獄に歌うまさんを一人一人連れて行って、そこで歌わせる訳にもいかないですよね? しかも秘密が駄々漏れになりますよ?」

 

 その気の遠くなるような方法を想像して、父と兄はげんなりした。

 

「ですから、とりあえず聖歌隊の皆さんに贖罪の日の行事の一貫として歌って頂くのが一番手っ取り早いし、大事にならない方法だと思われます。

 レストー=グラリス教会の聖歌隊は、国中から歌の上手な方々を引き抜いていらっしゃいますから」

 

 引き抜き! ベルークも言うじゃないかと俺は感心した。説得力のある言葉だ。

 二人はなるほどという顔をした。

 

 書斎を出る直前、俺は父親から腕を取られて振り返った。すると、父は少し厳しい顔で俺にこう尋ねてきた。

 

「城内に魔人化した冒険者がいると何故わかった? それも増えすぎて困っている事を? 国のトップシークレットで、上層部しか知らない情報だぞ。」

 

 だから、俺はすっとぼけた顔でこう答えた。

 

「何故って、犯罪件数が増えている訳じゃないし、城内で騒動があったとも聞いてないのに、新しい牢獄が出来たら不審に思って当然じゃないですかね?」

 

 父の顔がさらに厳しくなった。この俺が不審に思うくらいなら、他にも気付いている者が居てもおかしくないと不安が増したのだろう。

 

「まあ、俺が気付いたのは、たまたま癒しの魔剣が紛失していたという事を知ったからですが・・・・・」

 

 俺は一度言葉を切り、父の顔を見て言った。

 

「もし、魔剣が紛失している事を知っていて、さらに城内の現状を察せる人物がいたとしたら・・・

 しかも、それが良からぬ事を考えている人物だったとしたなら、どんな騒動を起こすか心配ですよね?」

 

「・・・・・」

 

「だからこそ、贖罪の日の件は、信頼できる少数の人物だけで、秘密裏に事を進めなければいけないんです。ご協力お願いします」

 

 再度俺は頭を下げた。

 

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