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14 アルビー

ブックマークをつけて読んで下さっている皆さま、ありがとうございます。

これからも頑張りますので、是非ともこれからもよろしくお願いします。

 三人に頼まれ、俺は仕方なく元の位置に戻ってこう言った。

 

「ドラドッド家が代々意図的にこの癒しの魔剣を隠していたわけじゃないのは明白だ。屋根裏部屋で埃被っていたわけだから。

 ドラドッド家は信心深い家だろう? 癒しの魔剣と知っていて放置しておく筈がない。」

 

 エミストラが大きく頷いた。


「それに、そもそもこの癒しの魔剣は母から娘へと渡る場合が多いと聖なる本に記されている。一番可能性が高いのは、何代か前にドラドッド家へ嫁いできた女性が持ち込んだという考えだ」

 

「ああ、そうか!」

 

 エミストラが納得したように頷いた。

 

「しかし、もしそうだとすると、多分その女性は突然何らかの不幸に襲われたんだと思う」

 

 俺の言葉にアルビーはハッとした顔をした。

 

「つまり、魔剣の事を家族に伝える前に亡くなってしまって、そのまましまわれていたと・・・」

 

「それ以外に、例えば持ち主の女性が亡くなり、魔剣の意味を知らずに売りに出された物を、ドラドッド家のご先祖がたまたま購入したとか、人から譲り受けたとか色々なパターンが考えられるね」

 

「ああー!」

 

 俺の言葉にアルビーとエミストラとベルークは大きなため息をついた。自分達の視野の狭さにようやく気付いたようだ。

 

「事実を証明出来るがどうかはわからないが、取り敢えず調べてみよう」

 

「どうやって?」

 

「貴族の家にはどこにでも私文書があるだろう? 家系図や家の起こりや業績、出来事をまとめた物が。

 それをそうだな、取り敢えず50年前くらいから遡って、何か大きな事、変わった事、不幸な出来事など、気になる事があるかどうか調べるんだ。」

 

「なるほど。わかった!」

 

「できたら、アルビーさんにもサンティア家の方を調べて欲しい。長年隣人で親しくしていたということだから、もしかしたら、ドラドッド家に関する事もあるかもしれないから」

 

「わかりました」

 

 エミストラに続きアルビーも頷いたのだった。

 

 

 

 そして、俺の勘はズバリ当たっていたのだった。

 

 なんと癒しの魔剣の持ち主は、ドラドッド家ではなくサンティア家の方だったのである。

 

 

 先先代王の頃、サンティア子爵家に聖女と呼ばれる歌姫が嫁いできた。癒しの魔剣とともに。

 しかし、もちろんその剣は秘密にされていた事だろう。盗難にでもあったら大変な事になってしまうのだから。

 

 ところがある日事件が起こった。サンティア家が落雷による火災に見舞われたのだ。全焼は免れたがかなりの被害を受け、大規模な修理を余儀なくされ、その間別の場所に住む事になった。

 

 そこで、サンティア家では、かさがあって持ち運びが難しい貴重な品々を隣家のドラドッド家に預かってもらうことにした。

 それほど隣家を信頼していたのだろう。多分、その中に癒しの魔剣も含まれていたに違いない。

 

 しかし、その後、サンティア家に更なる不幸が起こった。

 屋敷の修理が終わる前に、サンティア一家の乗っていた馬車が事故に遭い、子爵夫婦が亡くなってしまったのだ。ただ、二人の子どもは怪我はしたものの命をとりとめたのだが。

 

 これは近代サンティア家の最大の悲劇として私文書に記されていた。

 

 結局サンティア子爵家は、残された子ども達に後見人がついて継続され、今に至っている。

 もちろん、ドラドッド家で預かってもらっていた荷物はサンティア家が引き取ったのだろうが、たまたま癒しの魔剣が入った魔法封じの箱は忘れられてしまったのだろう。

 両家ともそんな大切なものがあったなんて思いもよらなかっただろうから。

 

 これが、エミストラとアルビーがそれぞれの私文書を精査した事によって導かれた結論だった。

 多分この仮定は間違いないだろう。

 

 サンティア家の先代の当主、つまりアルビーの亡くなった祖父が大人になって記した回顧録に、こんな一文があった。

 

『両親の葬儀は、我が家の通っているアイヤー教会ではなく、レストー=グラリス教会だったのは何故だったのか、と今もふと思う時がある。

 しかも、不幸続きのこのサンティア家のお祓いをすると、こちらが頼みもしないのに、多くの神父と変装はしていたが騎士と思われる人達が、屋敷中を歩き回っていた事を思い出すたびに、両親の死に疑問を抱いてしまう。

 あれは本当に単なる馬車の事故だったのだろうか? もしかしたら何らかの陰謀に巻き込まれたのではないのか?』

 

「教会も国も必死で癒しの魔剣を探したのでしょうね。まさか、お隣に預けられているとも思わずに。」

 

 アルビーがため息をついた。

 

「そりゃそうだ。普通そんな大事な物を隣家に預ける人なんかいないよ」

 

「そうそう。特に貴族様はな」

 

 俺も賛同した。この両家の結びつきは本当に凄い!

 

「現在もサンティア家がレストー=グラリス教会に通ってらっしゃるのは、その時のご縁なのですか?」

 

 ベルークがこう尋ねると、アルビーは小首を傾げた。

 

「サンティア家は昔も今もドラドッド家と同じくアイヤー教会ですわ。私は聖歌隊で歌を歌う為だけにレストー=グラリス教会へ行っているのよ」

 

「アルビー姉さんは、レストー=グラリス教会の聖歌隊のソロにスカウトされたんだよ。ねっ! 憧れの黒髪の騎士に」

 

 エミストラがからかうようにこう言うと、アルビーは真っ赤になった。

 

「黒髪の騎士?」

 

 照れているアルビーに代わり、その場に一緒にいたエミストラが一年前の出来事を話してくれた。

 

 実は約一年ほど前に、北側の国境近くにグリフィンが数十頭現れて、家畜の牛や山羊や豚を襲ったことがあった。

 

 グリフィンは上半身は猛禽類で、下半身は獅子に似た魔物だ。

 空を自由に飛び回って、その前足の鉤爪で柵の中の牛さえも掴んで舞い上がってしまうので、普通の人ではとても対処できない。

 

 そこで、最初は国の北部を守る傭兵部隊がその討伐に当たったのだが、所詮は報酬目的の雇われ兵。牛をもその鋭い鉤爪で共に空中に舞い上げる様子を目の当たりにしては、みんな腰が引けてしまった。

 

 仕方なく、王都から空中戦が得意な軍の先鋭部隊が派遣された。

 しかし、正確な状況判断が出来る者がいなかったのか、正しい情報が軍に届いていなかった。

 

 グリフィンとは空を飛ぶだけではなく、地上を走るスピードも半端じゃないのだ。獅子の足を持っているのだから。

 

 ところがその情報を知らなかった軍は、空中戦が得意なものばかりで、地上戦に強い者や防衛を得意とする者を連れていかなかった。

 

 その結果、どうにかグリフィンは討伐できたが、軍の被害も相当で、三人の尊い兵士の命を失ってしまった。

 

 彼らの葬儀告別式は個別に各教会で執り行われた後、国家統一教会であるリストー=グラリス教会で追悼礼拝が盛大に催された。

 

 この不幸にも亡くなってしまった兵士三人のうちの一人が、アイヤー教会に所属していた。

 その葬儀告別式の時、追悼の為のレクイエムを独唱したのがアルビーだった。

 

 アルビーの歌声はどこまでも澄み渡り、その美しく優しい調べは、間違いなく死者の魂を慰め、称え、天へと導いてくれると感じられた。

 

 式が終わった後、軍人学校の制服を着た、一人の若者がアルビーの元にやって来た。

 彼はアルビーに深々と頭を下げてからこう言った。

 

「貴女の歌はとても素晴らしかった。貴女の歌のおかげで、私の友人の魂は鎮められ、慰められ、きっと皆の尊敬や感謝の思いを受け入れられただろう。そして、間違う事なく、天へ戻れるだろう。本当にありがとう」

 

 そして、その美しい黒髪をした軍人見習いの若者は、こう言葉を続けて再び頭を下げたのだった。

 

「亡くなった他の二人も貴女の歌声で天へ送りたい。どうか追悼礼拝でも歌ってください。上の者には私が掛け合ってなんとかしますので。どうかお願いします」

 

 と・・・・・

 

王子がまだ出てきませんが、登場するまで是非とも読んで頂ければ、と思います。

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