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13 癒しの魔剣

 東西南北の刀鍛冶達は出来上がった癒しの魔剣を、それぞれが住む場所の王に手渡した。

  

 東の刀鍛冶ウーミンが作った癒しの魔剣は、海と空をイメージした青い剣。

 

 西の刀鍛冶クーザが作った癒しの魔剣は、草花をイメージした若草色の剣。

 

 南の刀鍛冶ミズーラが作った癒しの魔剣は、太陽をイメージした薄いオレンジ色の剣。

 

 北の刀鍛冶モーリーが作った癒しの魔剣は、雪をイメージした白く輝く剣。


 

 四つの癒しの魔剣はどれもそれはそれは美しい剣だった。そして、その剣は人も魔物も殺せなかった。

 その代わり、魔剣に入り込む邪悪さを祓う力を持っていた。ただし・・・

 

「ごめんなさい。私勘違いしていたのね。もっとちゃんと読んでれば良かったのに」

 

 教会通い七日後、ようやく俺達は聖なる本を読み終えて、エミストラの家に集まった。

 そこで、アルビー嬢が申し訳なさそうに言った。

 

「いやいや、こんな分厚い本、研究目的でもなきゃ全部読まないですよ。内容の細部までなんかわかるわけないです」

 

 と俺は言った。

 

 癒しの魔剣は持ち手を選ぶのではなく、ある一定の条件の整った場合のみに発動するという事がわかったのだ。

 つまり、例の刀鍛冶を讃える歌『ソーズスミスソング』が流れている間のみ効力が発せられるらしい。しかも、誰の歌でもいいという訳ではない。それこそ、その歌い手が選ばれし者なのだ。そして、それは女性限定のようだ。

 

 故に、昔はその歌い手は聖女のような扱いを受け、大切にされていたという。

 

 声質というものは同性の親子で似るものらしく、歌い手は男系ではなく母系で引き継がれる事が多かったという。癒しの魔剣とともに・・・・・

 

「しかし、癒しの魔剣の発祥の地と呼べる我が国のみ、癒しの魔剣を紛失したとは、何の因果なのでしょう」

 

 ベルークが言った。

 

「そうなんだよ。この剣がうちにあったということは、国や教会はこの剣の所在がわからずにいたということだろう? 

 その間、癒しの魔剣が必要になっていたらどうしたんだろう。俺、ゾッとするよ」

 

 エミストラも眉を顰めた。

 

「そうだよな。まさか他国に他の癒しの魔剣を貸して貰うわけにもいかなかったろうし。それやったら、こちらの弱味見せる事になっちまう」

 

 と、俺も言った。そして、ふと思い出した事があった。

 

「そういや、親父と兄貴が前に話してた事思い出したんだけど・・・」

 

 俺が声を潜めたので、他の三人が顔を寄せてきた。

 

「ここにいるメンバーは軍とか騎士、防衛の関係者だけだから話すけど、最近、王都の外れに新しく大きな牢獄ができたろう? あれって、以前の牢獄が古くなったからという理由だったけど、本当は城内の牢屋が一杯になったからだって」

 

「罪人が増えているということ?」

 

 アルビー嬢が疑問符を浮かべながら言った。

 

 このコーンビニア王国は現国王になってから、小さな小競り合いは度々あるが大きな戦争はないし、大きな災害も起きてない。たまに魔物が暴れるくらいだ。

 故に豊か過ぎるわけではないが、そこそこ皆さん平穏に暮らせているため、治安がとても良い。犯罪者が増えているという話は全く聞かないのだ。

 

「城内の牢屋が一杯ということは、かなり罪状が重いという事ですよね。つまり政敵者が反乱を起こそうとして、集団で捕獲されたとか?」

 

 ベルークが物騒な例えを出してきたので、アルビー嬢が顔をしかめた。

 

「いくらなんでもそんな事が起きてたなら、少しは噂に上がるんじゃないか?」

 

 エミストラがそれを否定するように言った。そりゃそうだ。

 しかし、罪状という言葉に俺の頭は反応した。そして俺は閃いた。

 

「なあ、城内の牢獄に増えているのって、騎士や冒険者なんじゃねぇ?」

 

「「「えっ?」」」

 

「だってさ、長いこと癒しの魔剣がなかったということは、魔人化した騎士や冒険者は元に戻して貰えなかったという事だろう。

 まだ魔人化する前だったら、公爵家の癒し魔法で治せるかも知れないが。

 まさか国の為に戦った者達を処分する訳にはいかない。新たに騎士や冒険者の成り手がいなくなっちまうし、そもそも国民から恨みをかうことになるだろう。

 だけど、まさか癒しの魔剣がないから治せないとは言えないし。」

 

 俺の推理に三人も納得したようだ。しかしそれと同時に、エミストラの顔色がすうっと青くなった。

 

「エミストラ、どうしたの? 体調でも悪くなったの?」

 

 エミストラはぶるぶると震えだしながら、やっとの思いでこう言った。

 

「そんな大切な物を国や教会へ返さず持っていたなんて、ばれたら我が家は終わりかな・・・」

 

「「「・・・・・」」」

 

「子爵家の断絶、領地没収・・・ですむのかな?」

 

「そんな・・・

 うちの弟達のせいよね。そんなことになったらどうしましょう!」

 

 アルビーも真っ青になった。

 

「ばれなきゃいいんじゃね?」

 

「そんなわけにはいかないよ。だって、このまま隠しておいたら、魔人化した人達が牢獄から出られないじゃないか!」

 

 さすがエミストラ、崇高だ!

 

「何て事おっしゃるんですか、貴方は!」

 

 ベルークとアルビーも軽蔑したような目で見たよ。本当に糞真面目だな、こいつら。

 でも、馬鹿正直に剣を持っていって謝罪し、その結果、地位や名誉や財産をなくしたら、どうやって暮らして行くつもりなんだろう。所詮こいつら生まれながらのお貴族様だな。

 

 反省するどころか、反対にがっかりして、呆れた顔をした俺に三人は驚き、戸惑いを隠せない様子だった。

 俺は心の中で笑った。俺をお前等のようなあまちゃんのガキ共と一緒にすんなよな。

 

 正直俺は腹を立てていたが、そこは精神的には二十歳の大人だ。同じ土俵に立つわけにはいかない。

 

「俺は何も剣を元の屋根裏部屋へ戻せって言ってる訳じゃない。そもそももう隠しておけないだろう。話を聞いてると、お前らの両親も弟、妹達もとっくに周りの人間にしゃべってるんじゃないの? 口止めされてるわけでもなさそうだし?」

 

「「あっ!!」」

 

「ばれなきゃいいと言ったのは、別に名乗らないで、こっそり置いてくるとか、拾ったとか、言えばいんじゃね?って事だよ。というか、作戦を練ろ、って言いたかっただけ」

 

「でも、それくらいの嘘も嫌だというなら、処罰されようとどうなろうと、もう勝手にしなよ」

 

 俺は立ち上がり部屋を出ようとした。すると、ベルークが俺の左手にすがり付き、泣きそうな顔で言った。

 

「分もわきまえず、失礼な態度をとりました。本当に申し訳ありません。」

 

「・・・・・」

 

「僕の考えは子ども過ぎました。お許し下さい。どうか・・・・・」

 

 俺達の関係にエミストラは驚いた様子だった。多分周りからは、しっかり者の従僕がダメダメな年上主を嫌々世話していると思っているのだろう。

 しかし、その当時俺達の関係は実はその反対だった。

 

 自分達より青ざめたベルークの為にエミストラが言った。

 

「俺もごめん。ユーリ、さすがだな。そんな事考えもつかなかった。子どもの俺達に呆れたかもしれないが、最後まで手を貸して欲しい。頼むよ」

 

「私もすみませんでした。年上なのに現実を直視出来ずに恥ずかしいわ。子ども達を路頭に迷わす訳にはいきません。どうか私達を見捨てないで具体的な対策を教えて下さい」

 

 アルビーも頭を下げた。

 こいつら、本当に糞真面目だな。

 

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