1 婚約破棄フラグ
話を書き進めるうちに、細かな齟齬が出てきたので、大事だ点を修正しました。
常々俺は思っていた。
世の中馬鹿な奴が多すぎると。
ちょっと我慢したり、ちょっと諦めたり、ちょっと黙っていれば、面倒なく事は進むというのに。
そんなちょっとが出来ないために、ちょっとじゃ済まない、えらい目に遭うのだ!
社交界において、大概の連中はそのちょっとを少しずつ我慢しながら、なんとかその場をやり過ごしている。
それなのに、どこにでもそれが出来ず、考え無しに、人の迷惑考えず、己れの感情や欲望のままに発言し、行動をする輩がいる。主に高位貴族の連中に。
客観的に見てこのままでは、皇太子殿下とその婚約者である公爵令嬢の間に、破滅フラグが立つことは必須だ。
何故なら皇太子殿下が自分の誕生日パーティーで、ファーストのダンスの相手として、男爵令嬢の手を取ろうとしたからである。彼には公爵家令嬢という立派な婚約者がいるのにも関わらずだ。
そしてこの二人が破滅したら、なし崩し的に、将来このコーンビニア皇国も破滅の道をたどるだろう。
何故なら、大国に囲まれたこの国は、皇家の偉大な攻撃魔力と、公爵家の癒し回復魔力のおかげで、どうにかこうにか保たれているのだから。
そんな事は市井の子供でもわかるというのに、国のトップにいて、頭がいいと自惚れている連中が、さっぱり忘れている。
実際のところ俺は、この国がどうなろうが知った事じゃない。というか、どうこう出来る立場じゃない。ただのしがない伯爵家の二男坊なんだから。
しかし家族にも話した事はないが、俺は攻撃魔力と、癒しの魔力の両方を持っている。そう、自慢じゃないが、ハイブリッドのハイスペックホルダーなのだ。
故にたとえこの国がなくなったとしても、引き受け先はいくらでもあるだろう。仮にもしなかったとしても、冒険者にでもなれば、最低どこででも生きてはいけるだろう。
まあそれほど生には執着していないが、大切で守りたい人がいるから、それなりにこの世界で頑張るつもりではいる。
しかし、俺みたいに生に執着しない人間なんて、この世界では希少な存在なんだろうな。
何故俺がこんな感じなのかと言えば、俺には一度あっさり命を落とした前世の記憶があるからだろう。
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前世はこの世界とは比べられないくらい、文化が進んでいた。
誰も攻撃魔力なんて持ち合わせていなかったが、どの国も科学の力で他国の一つや二つぶっ飛ばすくらいの爆弾を持っていた。
そして癒し魔力で治してもらわなくても、高性能のモデルスーツを着れば、例え四肢のどこかを無くしても、日常生活は難なく過ごせた。
それなのに何故か、人々は絶えず怒り、不安、恐怖に苛まれ、自ら生を絶つ者が多かった。
まあ、俺が死んだのは、自殺なんかじゃなく、コンビニ強盗に襲われたせいだが。
俺の国は他国と比べ治安が良かったから、当然一般庶民は防衛の為の装備なんかしていなかった。まあ、俺の場合は運が悪かったとしか言えない。
しかし、あの当時の俺は、中間子として姉や弟に振り回され、両親に上手く使われるお人好しだったので、人生に嫌気がさしていたのも事実。それほど生には執着していなかった。
ただ、最後に目にした、幼馴染みの泣き顔だけは心残りだが・・・・
俺は大学生だった二十歳の誕生日に、バイト先のコンビニで強盗に襲われ、三ヶ月後に意識が戻らないまま人生を終えた。
そして、この世界に転生したのだ。代々軍人の家柄のジェイド伯爵家の次男として。
上に兄と姉、下に弟と妹がいるまたしても中間子だった。しかも、上下ともに数が増えていた!
十歳の時、末っ子の妹が生まれた朝に、突然俺は前世の記憶を思い出し、思わず、「ゲッ!!!」と叫び、周りの顰蹙をかった。
思い出した当時の俺は、中間子として、やはりこ面倒くさい立ち位置にいた。
しかし、前世とは違い、一応貴族の子供だったので、共働きの親に代わって飯を作ることも、姉に命令されて買い物に行かされる事も、ヒッキーな弟の相手をさせられる事もなかった。
中間子として、周りの様子を窺う能力だけはそこそこあったので、まあ、要領よくとまではいかないが、それなりに日々をこなしている。
俺ん家、ジェイド伯爵家は、貴族社会での立ち位地は、前世でいう、中間管理職? 的なポジションだろう。軍人といっても事務系なので、戦争が起きても前線へは行かずに済む。
我が家は何故か代々魔力持ちがあまり出ないので、この役職に定着したんだろう。その代わり、おつむの方はそこそこいいし、真面目で堅物が多い。祖父も、父も、兄貴もそうだ。
ところがなんと現在の我が家は、その父親と兄貴以外は皆魔力持ちだという、今までになかった状態にある。というのも俺の母親が、例の癒しの公爵家の出だったからである。姉と妹、そして内緒にしているが俺もその血を引き継いでいる。
そして、弟は運悪く、父方の祖母の攻撃魔力の血を僅かばかり継いでしまった。
まあ、こちらも内緒にしているのだが、俺はそこそこに強い攻撃魔力も持っている。
しかし、弟が持っている攻撃魔力は微々たるもので、戦場において役にたつレベルじゃない。せいぜいその場しのぎが出来る程度で、そんな力なら、いっそない方がましだ。
それなのに弟は、一家の中で唯一攻撃魔力を使えると、鼻高々で偉そうにしている。
家族に白い目で見られても、自分は妬まれているんだと思って、かえって、家族を憐れんでいる。
こういう空気が読めないだけじゃなく、身の程知らずの奴って、ホントどうしようもない。いつの世でもこういう人間いるよなあ。
ホント迷惑だなあ。
そもそも最初の場面。皇太子殿下と公爵令嬢の破滅フラグ、それを立てようとしている面子の中に、俺の姉と弟が含まれているのだ。敵同士として。
ホント参るよなあ。
兄貴は皇太子殿下の幼馴染みで同級生。側近の一人だが、堅い軍人気質で出世意欲がないので、どこの派閥にも属していない。
そんな関係で俺も皇太子殿下や弟殿下とも顔馴染みで、弟キャラポジションで可愛がられている。しかし今までは、勢力争いには無縁の立場でただ静観していた。
それなのに、いざフラグが立ちそうな切羽詰まったこの状態になって、突如、ここ数年ずっと隠していた俺の中間子としてのお節介の血が、またムズムズとしてしまったのである。
ホント失敗したなあ。勝手に体が動いてしまった!
あとちょっとうまくやれば、事態は改善される!
あとちょっとだけ、冷静になって人の話を聞けば、誤解が解ける!
あとちょっとだけ、なんて思ってしまったのが運の尽きだった!
一作目が少し重くなってしまったので、気分を変えようと、二作目の話を作ってみました。
今度は、口語で軽いテンポで表現してみました。
読んで頂けたら嬉しいです。