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カノジョが遺した彼女(仮)  作者: 平川コウ
はじまり
9/15

DAY-02-06

 その後、上林は二人を呼び戻し、大まかに経緯を説明する。光貴は突然のことに判断ができないということ、期限は短いが考える時間を設けてほしいということ、もし断るなら相当の理由をちゃんと話すことを伝えた。一つ目は事実だが、二つ目は上林の配慮でもあり、三つ目は光貴に覚悟を持って考えてほしいという表れだった。

 更に、期間中に光貴と上林、そして道正の三人で話し合う場を設けることを決めた。涼夏を入れなかったのは、『難しい話をするため』としてだった。

「ああ……そうだ」

 光貴は最後にふと気付いて、道正からメモ用紙とペンを借りた。自宅と携帯の番号、住所を書いて上林に渡す。

「すみません。本来なら名刺を渡すべきでしたが、持ち合わせていなくて。……自宅と携帯の番号です。連絡はここにおねがいします。後日、必ず持っていきますので」

「いえ、一度も連絡せずにこのような場になってしまったので、お気になさらず」

 結局、出してもらったお茶は口にすることなく、光貴は靴を履いた。

 約一週間の猶予を与えられたものの、肩の荷は全く下りてない。

 涼夏はまだ一人立ちできる歳ではない。未成年として保護を受けなければならない身だ。本来担うべき親がいなくなり、頼る先が定まっていない状況で、夕季に選ばれた自分が簡単に放棄するのはあってはならない。

 胸奥のざわつきが収まらない。自分の判断が、彼女の運命を決める。自分の決断が、彼女の生き方を決める。……でも、それが事実だ。創作物でしか覚えのない景色が、これほどに重苦しいのかと痛感した。

 光貴が「送りは大丈夫なので」と伝えると、道正と、彼に添った妻は玄関で一礼する。だが上林――それと涼夏は玄関の先、石塀との中間までついて来た。

 外は閑散として、揺れる草木が耳を覆い、冷ややかな風が首を沿う。

「豊本様。……ご納得頂ける結果にできますよう、ご協力させて頂きます」

 上林の言葉に応えて振り向こうとする時、彼の一歩後ろに立つ涼夏を見た。

 客間で俯いていた彼女は、真っ直ぐな視線を光貴に向けていた。小さく唇を噛んで、合わせた両手はブレザーの裾を小さく掴み、今の自分以上に肩を強張らせている。頑なで淀みない瞳は、心の内を留めているかに感じるほど、綺麗だった。

 光貴は覚えている中での――彼女と同じ頃の夕季の姿を重ねた。

 今一番苦しんでいて、現実に抗いたくて、助けを求めているのは彼女のはずだ。自分に課せられたものと比にはなれないはずだ。自分が苦しんでいてどうする。それなのに、彼女の姿を見て痛みを覚える事しか、今の自分にはできなかった。

「……失礼、……します」

 せめてできたことは、背を丸めず、彼女に一礼することだけだった。


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