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カノジョが遺した彼女(仮)  作者: 平川コウ
はじまり
4/15

DAY-02-01

 平日の通勤時間帯を過ぎた電車の中は、線路の音が綺麗に届いている。

 今の服装は、所謂フォーマルスーツ。上下黒に単色のネクタイ。コンパートメントの座席に一人で座り、外の情景を流し見ている。

 こんな身形なのは、先日届いた牧野夕季の告別式だから……ではない。

 母からの連絡から日を空けて、見知らぬ相手からの着信があった。出るとその相手は『ヒライ』と名乗り、牧野夕季の叔父だと言っていた。何処か慎重で強張った声色は、適度に解放されていた身体を一瞬に構えさせた。

 彼は実家経由の連絡となってしまった事を詫びて、本題を話した。葬式は身内だけで済ますことと、告別式は後日設けるということ。母からの伝言と同じ内容を話した後、言い淀みながらこう続けた。

 ――葬式の前に話しておきたいことがある。

 突然そう言われ、気の抜けた言葉を出してしまった。

 葬儀は身内で行うと言ったばかりなのに、それよりも話しておきたいこととは何だろうか。告別式の後でも……と思ったが、耳に入ったのは、焦りか戸惑いか、切羽詰まった感じの声になっていた。

 そんな空気を断れず、今に至る。スーツに関しては服装に悩むならと選んだ。日中に着て歩き回るのは就活以来だった。

 乗車してから三十分近くして、目的の駅に降りた。ホームの南口を出ると、すぐ前には広いバスロータリー。ここから県営バスに乗って、教えられた停留所へ向かう。駅前のビル群を過ぎて河川を跨ぐと、アパートや住宅地が多くなっていった。更に進むと、雑木林や田んぼが点在する場所へと移った。

 揺れること十分。下車して少し歩いた先に『平井』の表札を見つけた。

 周辺の空気に馴染んでいる瓦屋根の二階建て。広めの敷地に、石塀の奥には芝生と花壇。車庫には軽自動車と青色の原付、無造作に積まれている黄色のプラケースと、小さな農具やビニール袋の端が映った。

 気持ちを正してインターホンを鳴らすと、足を擦る音の後に、引き戸の玄関が開いた。

 現れたのは白髪交じりの男性だった。多分、携帯に電話をしてきた叔父だろう。垂れ目に緩やかな猫背。会って数秒だが、大人しめというか、気弱な感じの風貌だ。

「お、お電話頂いた……豊本です」

「遠方から来て頂いて、ありがとうございます。お電話させて頂いた、平井道正です」

「……こ、この度は、こ、心よりお悔やみ申し上げます」

「そう畏まらないでください。急に来て欲しいと申し出たのはこちらですから」

 電話を受けた後に、「……弔意の挨拶って何だっけ」と焦ってネットで確認した結果、こうして言葉に詰まってしまい、心の中で悔やんだ。


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