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カノジョが遺した彼女(仮)  作者: 平川コウ
はじまり
3/15

DAY-01-03

 豊本光貴、三十代にして、職業……記者。といっても、有名雑誌の一コーナーを持っているとか、何万人のファンがいるウェブライターではない。

 一言でいうならば、「派遣記者」だ。

 勤め先の会社はライターに特化した派遣会社で、様々な会社や個人からの依頼に沿って取材して記事を作成する。観光地、グルメにグッズ、施設、季節のイベント、時事ネタとジャンルは幅広く扱う。会社の方針としてはスキャンダルやゴシップ記事は扱わず、世の中を豊かにできるコンテンツの作成と提供をする、というものだ。

 そんな会社に入って七年くらいになる。記事を書いて、雑誌に載って、次の作成に移って。時に遠方へ取材に行って、あれこれと調べて、決められたページいっぱいに情報を並べる。難しいのだが、それが好きになって、長々と続けるようになった。

 派遣と聞くと正社員よりは……と想像しがちだが、実際はそうでもなかった。休日や福利厚生が整っていて、事務所の方でも派遣先でも、適度な交友は作れている。仕事から世間話まで、気張らずに話せている。出来高な部分もあるが、給料もそれなり。今のところは不備なく暮らせている。

 ……そんな中で届いた、訃報の電話。

 覚えている中で、身内以外で亡くなった連絡を受けたのは初めてだった。祖父母や親の兄弟の情報なら怪我したとか入院したとか入って来るが、同級生との連絡なんてとうに途絶えている。仕事の調子だとか、わざわざ話すこともない。

 その根本には、自分の人付き合いの悪さがある。時に飲み会の雰囲気が苦手で、誘われては適当に断り、勧誘ビラは受け取っては折りこんで鞄に入れ、卒業後の打ち上げにも参加しなかった。簡単に言ってしまえば、ぼっちだった。

 そんな中で唯一、信頼を持っていたのが、「牧野夕季」だった。

 最初の印象としては、彼女は別の空間を挟んだ先にいるのだと思っていた。互いに見えて、触れることができるのに、その間には蜃気楼のような揺らぎがあって、決して交えない節理みたいなのが、そこにはあった。

 でも、……少なくとも好意は持っていた。付き合いたいとか恋愛したいとかの感情は生まれていたが、それを実行しなかったのは、そんな見えない壁があったからだ。

 彼女は、似た気持ちを持っている事をちゃんと話してくれていた。それを思うと、いかに自分が自信のない小心者だと情けなくなるが、実際そうだった。その関係になること、一線を越えることに臆病になっていた。

 そして、彼女との関わりは突如途絶え、数年前に一度だけ再開した。そこから更に数年を挟んで、彼女は亡くなった。

 寂しさはあっても、涙は出なかった。

 三十年生きていても、そんな部分だけは変われていない。

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