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第一話です。



――――速報です。逃亡を続けている連続殺人犯『藤崎勤ふじさきつとむ』容疑者がこのN市内に潜伏している可能性があると発表されました。容疑者は整形を重ね――――



 ニュースには、8年間逃亡を続ける連続殺人犯の顔が映し出されている。

 犯人は現場に戻ってくるものだ、とは言うが8年越しに戻ってくるとはマメな犯人である。


 父は警察官だった。母の話では若くして地元を含むこの地域一帯を守るお偉いさんだったんだとか。そして8年前、連続殺人犯『藤崎勤』に殺され殉職した。一人目の被害者だ。


「父さん、行ってきます」


 僕は仏壇に置かれた遺影につぶやくと、外に飛び出した。






 自己紹介から始めよう。僕の名前は『橘正一』、『たちばなせいいち』だ。健全な男子高校生である。


 夏休み終盤、カラカラの喉を潤すために自販機の前に立っていた。4段に仕切られたラインナップを眺めながら、僕は一枚ずつ、小さな穴に硬貨を入れる。そしてすべて入れ切る。


「えいっ!」


 後ろから唐突に声がした。瞬間―――――ピッ、ゴトンッ。

 どうやら僕の代わりに自販機のボタンを押してくれた親切な人がいただけだったらしかった。僕はその親切な人に礼を言う前に自販機から吐き出された飲み物を手に取る。


・・・ああ、やっぱりはずれだな


「ねねっ、どうだった??」

「ああ、はずれだ」


 聞きなれた無邪気でかわいらしい声にいつもの調子でぼくは返事をする。このレベルならもう慣れっこだった。


「あーん、ざんねーん・・・」

「この暑い日にブラックコーヒー飲めってのか、こら」

「いてっ」


 悪びれもしない彼女に軽くげんこつをくらわす。


 彼女は幼馴染の『桜こはる』。顔はかわいいし、こう見えて案外、頭もいい。僕の好きな人だ。もちろんチキンな僕は付き合ってなどいないが。


「ふっふっふ、男はそうやって大人の階段を上っていくのだよ」

「うら若きJKが男を語るな」


 彼女は無理して渋い声を繕ってかっこをつける。僕はしぶしぶ缶コーヒーを開ける。『つめた~い』でよかった。


「おまえは暑い日でも長袖なんだな」

「はあ・・・男子はいいよねえ。日焼けしたくないんだもん」

「へえ、お前でも気にするんだな」

「ちょっ、どゆことー!?てか・・・ゃんが色白が好きって言・・・じゃん」

「んえ?なんかいった??」

「なんでもないっ!せいちゃんのばか!」


 暑さのせいだろうか、彼女は真っ赤な顔をしてそっぽを向く。すると向こうから30代くらいだろうか、男がこちらに向かって歩いてくる。そして僕らに向かって話しかけてきた。


「あのー、ごめんね。道を聞いてもいいかな?」

「ん、あ、いいですよ。」


 ジンベイを着こなし、暑苦しい長髪を後ろにまとめた男は、顔は整っていて、いかにも怪しげな格好がむしろ味になっていた。すると幼馴染のこはるが何かを思い出したように耳元で僕に伝える。


「ごめん、部活だからあたしもう行くね。」

「お、おう」


 彼女は話しかけてきた男に一礼すると、走り去ってしまった。


「邪魔、しちゃったかな?」

「いえ!そんなことないっすよ!」

「君の彼女じゃないのかい??」

「かか、か、彼女なんて、滅相もないでございます!!」

「ははは!君、面白いねえ」


 男に冗談っぽい調子で聞かれ、真に受けてしまった僕は顔を真っ赤にして答えてしまった。おかげで男には笑われる始末だ。まあ、威圧感のない人でよかった。


「え、えっと道案内でしたよね?どこに行きたいんです??」

「ああ、ちょっと今日泊まる宿を探していてね」

「んー、それならここから・・・」


 そういって僕は口頭で説明し始めるのだが、こういうのに慣れていないぼくの説明はうまく伝わらないようだった。



 結局、ひまだったので一緒に同行することにしたのだった。そしてこはるが走り去っていったのとは逆方向に僕らは歩を進めた。道中、社交辞令だろう。彼のほうから自己紹介をしてもらった。


 名前は『東條信介とうじょうしんすけ』。元警察官で今は探偵をしているんだとか。なんとなく胡散臭い。


 近くの旅館に案内し終えると、東條さんが一杯おごるよ、といって近くの喫茶店に入店した。

 なかはクーラーが効いていて快適そのものだ。僕たちはおしゃれなテーブルをはさんで席に着く。さっきのコーヒーのせいで口が苦いままだった僕は、本命だった炭酸を食い気味に頼んだのだった。


「さっきも言ったが、私は探偵をしていてね」


 そう言って、背負っていた小さなバッグから皮のパスケースのようなものを取り出す。そして、そこから手のひらサイズの紙きれを外に出すと、テーブルの上を滑らせてこちらによこす。


「名刺は初めてかい?高校生だものね」

「ええ、はじめてもらいました」


 人生初名刺を僕は手に取る。そこには『東條探偵事務所』と大きく書かれ、東條さんの名前が印刷されていた。

 僕がまじまじとその名刺を眺めていると、東條さんが話し始める。


「ここには調査に来ていてね。君にも良ければ協力してほしいんだ。だめかな?」

「え?僕にですか?」

「そうそう、どうやら君は小さいころからここに住んでいるようだしね、重要参考人というやつだね」

「僕にできることなら・・・」

「本当かい?ありがとう!助かるよ!」


 僕は探偵という名前の物珍しさと夏休みの暇への恐怖心で首を縦に振ってしまった。好奇心とは恐ろしいものだ。

 振ってしまった後に僕は思い出す。テレビとかでやっている探偵ってのは浮気調査がメインで、イメージしてるようなものじゃないことを。


「あっ、でももしかして浮気調査・・・とかじゃ・・・?」

「いや今回は違うんだよねえ。もちろんそういうのもやるけど、そっちがいいのかい?」


 ぶるぶると僕は大きく首を振る。それを見て東條さんは笑っている。

 どうやら話を聞く限り、8年前の今頃、この町で起きた殺人事件を調査しているらしい。おそらくまだ捕まっていない連続殺人犯の情報を集めているのだろうか。


「カウボーイみたいなこともするんですね」

「ん?・・・っはは!ちがうちがう!そんな危険なことはしないさっ」

「え?ち、ちがうんですか」

「そういうのは警察の仕事。私たちはあくまで個人の依頼をこなすんだ」


 どうやら的を大きく外れた質問をしてしまったようだ。しかし、普段は平和そのもののこの町で、8年前の夏に起きた事件といえば連続殺人の『3回目』の犯行くらいなものだった。


「でも殺人事件の調査って・・・」

「調査だからね、調査。犯人を見つけ出して現行犯逮捕、は目的じゃないんだ」

「あ、そうなんですね」

「うん。そこで君には町の案内を頼みたい。何せ土地勘がないのでね」

「わかりまs・・・え、お話だけじゃないんですか?」

「もちろん。あ、バイト代も出すよ。貴重な時間をいただくんだからね」

「え、ええ・・・」


 運命のような気がした。ここで協力すれば、父のことも少しはわかるのでは、と。


 それに浮気調査じゃないならおもしろそうだし、なんだかシャーロック・ホームズの助手、ワトソンになった気分だ。調査対象はかなり危険な気もするが、男はスリルを求めてしまう生き物なのである。しかもバイト代もうまうまだったので、首を縦に振らない理由はなかった。




 かくして、流れの探偵とただの高校生の事件簿が始まったのだった。



つづきます。

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