プロローグ
ーーそこは広大な草原だった。
以前は青々とした草が生い茂り、一面緑一色だった草原は今、勇者軍の兵士達の血によって赤と黒の混沌で埋め尽くされていた。
数々の屍が積み重なるーー
そこに立つ者は誰も、いや、一人しか居ない。
そこに立つ一人の青年ーー
ーー人々に紅き彗星と呼ばれ救世主としてこの世に降り立った。
ーーーーその青年は勇者と呼ばれていた。
この世界はアラナリアーー
この世界とは別の、いわば異世界での物語だ。この世界には今現在、人間族、火精族、水精族、土精族、魔族の5種族が存在し、数十にも及ぶ国が存在している。
その世界のある場所では今、世界で最も多く存在し、最も残酷で、最も戦争好きな人間族と、世界で最も少なく、魔法を生活の基礎とし、人間族に『邪敵』とされる魔族とで、種の存亡を賭けた戦争が勃発していた。
〜魔王城〜
「今だッ! 海烈斬‼︎」
勇者の腕にある勇者の紋章を光り輝くと大地が揺れるような音が魔王城に響いた。
魔族の最後の砦である魔王城では、勇者と聖女、魔王による最後の戦いが繰り広げられてた。
「勇者様!あと少し、あと少しですよ‼︎」
勇者の剣撃が魔王に直撃し、緊迫しながらも嬉しそうな声を上げたのは、サンクリッド聖国の王女であり、ー聖国の聖女ーと呼ばれている、聖女エルリットだ。
この世界で今、勇者と聖女エルリットは勇者軍を率いて、『人間の町村を襲い、虐殺する魔族の撲滅』を掲げて魔族領に攻め入った。
現時点で他の3種族は今、我関せずとばかりに無視を決め込み、この戦争を偵察および監視しているだけである。
今、戦場では、勇者軍は、その数を生かし、魔族の各村や町、都市を襲撃し、1対多数の状況を作り出すことで、圧倒的に優勢に立っている。
魔族の軍が勇者軍に近づこうものなら、勇者軍の象徴であり、最強戦力である勇者が返り討ちにしてきている。
そして今、勇者軍は魔族の最後の砦であり、魔族最強の戦士である魔王が住んでいる魔王城に突入している。
現在勇者と聖女は魔王に対し、苦戦しながらも優勢に立っている。
「ぐはっ…この程度で魔王である私を倒せると思うな…‼︎」
勇者による神速の剣撃を受け、かつては、ー時憶の魔王ーと呼ばれ、その力は天地を揺るがすとされ、その魔法は、全てを止めるとし、その姿は神をも畏れるとされていた魔王の姿も、今や見る影もない。
しかし、何度勇者の剣撃を受けながらも、魔王は立ち続ける。その姿は反撃のチャンスを虎視眈々と狙い続ける野獣の様だ。
魔王は勇者の剣撃の終わりを見計らい、時間を操り、勇者の時間を止めようとするが、勇者の加護に守られている勇者を止めることは出来ない。
だが魔王はこの行動で勇者に隙を与えてしまった。
「決めるぞ、エルリット!」
「ハイ、行きます! ハイ・アバンダンド‼︎」
聖女の魔法により、攻撃力を最大限に強化された勇者は、必殺の一撃を放つ。
「これで最後だッ!天地空烈斬‼︎‼︎」
勇者の一撃が魔王の身体に吸い込まれるーーその瞬間、
「今だ!………サファリングディストラクション‼︎」
この瞬間を待ち望んでいたかの様に、魔王に必殺の一撃を放ち、油断していた勇者の胴体に、魔王の全身全霊の一撃は吸い込まれる。
「なっ⁈ ぐぁああぁッ…………あれ?」
魔王は勇者の一撃を避けることが出来ずに跡形もなく吹き飛ばされたが、勇者は魔王の一撃を避けることが出来なかったにもかかわらず、身体には一切傷が見当たらなかった。
「やりました…! やりましたよ勇者様‼︎」
「やった……やったぞ、俺は勝ったんだ‼︎」
聖女と勇者は喜びを爆発させる。
「勇者軍に帰ろう! 凱旋だ……あ…あれ?
な、なんで…身体が……?」
勇者の身体は突然機能を失ったかのように、動きを止める。筋肉は千切れるような痛みを発し、身体中が軋む様だ。
「エル…リット…か…回復…してくれ…」
途切れそうになる意識の中、勇者は聖女に回復を頼む、しかし
「………………」
聖女は勇者の言葉を無視し、懐から見覚えのあるナイフを取り出すと、勇者に近づく。聖女の持っているナイフは旅の最中、勇者がプレゼントしたものだった。
そして、聖女は溜息をつきながら言い放つ。
「…呆気ないですね。当代の勇者であろうものが、たった一つの魔法で死ぬ事になろうとは。」
すると彼女は少し間を置いてから背筋が凍る様な冷たい視線を勇者に向け、言った。
「勇者は魔王城で魔王と一騎打ちになり、相打ちになったーーと、聖国では処理されます。 ではさようなら、ユウシャサマ」
ーー途切れる意識の中、勇者が最後に見たものは自身に振り下ろされるナイフと、
ーーーー聖女の笑顔だった。
初めての投稿です!
誤字脱字、表現の誤り、描写の矛盾がありましたら、優しく作者に教えて下さい。
作者はメンタルが豆腐以下なので、くれぐれも優しい感想等をよろしくお願いします。