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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
三年目前期
99/150

第29話-5 秘めた心



「…んがが……あれ?」


 自分のいびきで目が覚めたリュリュの眼前に広がるのは、アベルの匂いが染み付いた外套の裏地だった。



「うぇええっ、もう効果切れてる?! 精製してないからっていっても早すぎだってば!!」


 すっかりいつもの大きさに戻ったリュリュは、慌てて外套から飛び出した。振り返ると、アベルはゆったりと穏やかな寝息を立てている。



「アベルは…うん、もう大丈夫みたい」


 もう体の震えも無く、顔色もいつもどおりだ。リュリュはほうっと安堵した。



 見上げれば、入り口から光が差し込み灰となった石を優しく照らしていた。山の天気は移ろいやすいというが、今度はその気まぐれさに救われたようにリュリュには思えた。



「大分日が昇ってるみたいだなぁ…っと、それどころじゃないって。はやく着替えなくちゃ…」


 今の自分たちは素っ裸だ。さすがにこの状態を見られては恥ずかしいどころの騒ぎではない。



 そそくさと服を着たところで、アベルの方から身動きする音がした。どうやらリュリュの気配で起きたらしい。



「ん…リュリュ、おはよう」


「うん、おはよう」


 目を擦りながら身を起こすアベルを見て、リュリュはもう大丈夫だと確信した。



「あれ…僕、昨日あの後そのまま寝込んじゃった…?」


「うん。すっごく疲れてたみたいだし、仕方ないよ」


 そういわれ、アベルは辺りを見渡す。



「そっか。火も熾さないで寝たせいで、迷惑かけたみたいだね。ごめん」


「ううん、そんなこと気にしないで。大体ボクの方こそ迷惑掛け倒しだったんだから…過ぎたこと言い合ってもしょうがないし、ご飯食べてこれからどうするか考えよう?」


「…そうだね、うん…あれ? あれ?!」


 そう言って起き上がろうとしたアベルはぶるっと大きく身を震わせる。


 その寒さに視線を下したアベルは仰天した。



「何で僕服着てないの!?」


 慌てて外套に包まるアベルに、リュリュが視線を反らしたまま早口で説明する。



「ぬ、濡れてたからボクが脱がせたんだよ。そこ、火に当たるとこに運んだけど、畳めなかったから乾ききれなかった場所があるかも知れないのは勘弁してね」


「ああ、そういう…いや、助かったよ、ありがとう。…けど、ちょっと恥ずかしいから、しばらくこちら見ないでもらえると助かるんだけど」


「も、もちろんだよ!」


 言われなくてもリュリュは背を向けるつもりだった。 疚しいところは無いのだが、改めて考えた途端、自分のしたことが気恥ずかしくなって顔が赤くなる。



「…そういえば、さ」


 衣擦れの音だけが響く中、ふと思い出したようにアベルが尋ねた。



「な、なに?」


「昨日、誰か他に来た?」


「……なんで?」


 意表外の質問に驚いたリュリュは振り返る。アベルはすでに着替え終わり、腕組みして首をしきりにひねっていた。



「いやぁ、なんか明け方ごろ幾分冷え込んだときに目が覚めたような気がしたんだけどさ。そのときに、すごく綺麗な子が一緒に寝てたみたいな気がするんだ」


「え、あ…うぁ」


 へどもどするリュリュの様子に、記憶を手繰るのに集中していたアベルは気づかなかった。



「でもその後のことが思い出せないし…もしかしたら夢なのかもね」


 しばらく記憶を整理しようと頑張っていたアベルだが、結局気のせいという迷いは払拭し切れなかったようだ。


 慌ててリュリュも同意する。



「そ、そうだよもう、いやだなぁアベルったら~。そんな美少女、見てみたかったけど! 来てたらボクも気づくし、大体表の雪に足跡だって付くでしょ!」


 そう言われ、アベルは首を伸ばして入り口を確かめる。確かに外には足跡は見えず、これでようやくアベルも見間違いだということで納得したようだった。



「…ねぇ、アベル。もし、もしもだよ? アベルは…」


 その子が自分だったらどう思う?



 喉まで出掛かった言葉を結局リュリュは飲み込み、代わりに別の質問を投げかけた。



「そんな子が本当にきていたとしたら、その子に、また会いたい?」


「うぅん、そうだなぁ…」


 上目遣いに見上げるリュリュの表情に気づかず、アベルは答えた。



「本当にいたならやっぱり会いたいかな。お礼を言いたいからね」


「お礼?」


「うん」


 アベルは頷いた。



「彼女のおかげで元気になれた気がするんだ」」


 彼の言葉に、リュリュは万感の気持ちを込めて微笑んだ。



「なるほどねっ。アベルらしいよ!」


 彼女の様子に、アベルはもう一度首をひねった。



「…なんだぁ? 今日はまたえらくご機嫌だなぁ、リュリュは。まあ、気持ちが沈んだままでいるよりは良いけどさ」


「まあねっ。この後ご飯食べたらまた転送球探し頑張らないと!」


 それから二人が遅い朝餉の支度をしていると、聞き馴染みのある声が山に木霊した。



 聞き間違いかと思ったが、それからもう一度、自分たちの名前を呼んでいることに気づき二人はもう一度顔を見合わせた。



 戻ってこない二人を心配したアルキュス先生が、天気が好転したことを確認して送り込んだのだろう。



「救助だ!」


「ボクたち、助かったんだ!」


「「やったあ!!」」


 思わず二人は感激の余り抱きつき、そこを発見した仲間たちに笑われることとなる。



 こうしてアベルとリュリュは、どうにか無事に学府に戻ることができたのだった。


グリザの実:ここ数年他種族との接点を持たないのに生産されるグリザの実。

なら前回のを使えばいーじゃん?と言いたいところだが、もともと純粋な魔素の塊なため需要が他にも色々あり、前のときに残したものは粗方使われてしまっていてそれだけでは儀式に不十分なのです。

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