第28話-2 おかしなムクロ
翌朝、薄明の中。
こんこん…と控えめに扉を叩く音でアベルは目を覚ました。
「んんー…誰だよ、こんな朝早くに…ふぁあぁ…」
寝ぼけ眼をこすりながら扉を開けたアベルは来訪者の顔をみて驚いた。
「ムクロじゃないか!」
何故か以前見慣れていた格好ではなく、ゆったりだぼついた小袖を纏ったムクロは所在無げにそわそわしている。
「あ、ああ…お前を呼びに…」
何か言いかけたが、それより早くアベルが問い詰めた。
「今までどうしていたんだ? 何で部屋に戻ってこないのさ」
「それはその…色々あって、な」
緊張しているのかけして大きいとはいえないムクロの声は、普段と同じ声色に関わらず何故か音域が高い…のだが、アベルはそうと気づかず矢継ぎ早に質問をぶつけた。
「色々って何だよ? というか普段どこで寝てるのさ? 心配してたんだぞ?」
アベルの勢いに押されているためか、ムクロの受け答えは微妙に勢いが弱い。
「そ、外でだが…」
そしてその分、アベルの質問攻めが激しさを増していく。無論心配からであって彼に悪気は一切無い。
「外?! この時期まだ冷え込むだろ? 部屋に戻ってくればいいじゃないか」
「それは、そうなんだが、その…今はちょっと困るというかなんというかだな…」
矢継ぎ早の質問に対し、ムクロの答えはまったく要領を得ない。かつて知るムクロとは似つかわしくない優柔不断な態度にアベルが段々苛々してきたところで、助け舟が現れた。
「おーぅ、アベル」
のんびりと声を掛けてきたのはネクロだった。こちらもムクロと色違いの小袖を纏っているが、彼のほうは小粋に着崩している。
「おや、ネクロじゃないか、久しぶり。どうしたんだ?」
そう尋ねると、ネクロは何故かムクロをちらと見た。ムクロは顔をうつむかせたままだ。
「ああ…いや、お前を呼びにくるように言われてな。デッガニヒのジジィから命令だ」
それを聞いてアベルがはっと顔を引き締めた。
「じゃあ…?」
「ああ」
ネクロがにやり、と笑った。
「予定が決まったそうだぜ…って、ムクロからまだ聞いてなかったのかよ?」




