第27話-2 それぞれの仕事(女性陣)
「あいたっ!」
一週間が経ったにも関わらず、何度目とも判らぬレニーの悲鳴にクゥレルが呆れたように頭を抱えた。
「お前、幾らなんでも不器用すぎるだろ。他の連中だってもっとましだぜ」
「ふぉふなほふぉいふぁれふぇも…」
人差し指を咥えながらもごもご弁解するレニーに、リュリュも発破を掛けた。
「向き不向きはしょうがないけどさ。もう少し、急がないと間に合わないかもしれないよ?」
そう言って、膝に掛けてある服を見る。
そこにあるのはほんのり青みがかった衣で、上品な透け具合が見て取れる。美しい光沢と反し、硬い風合いを持つため使い慣れない針仕事を一層困難にしているようだ。
最初にもっと他のにしたらどうかとリュリュたちは薦めたのだが、どうしてもひと目ぼれしたからと言って聞かなかった結果がこれである。
「それ、やっぱり省かない?」
そういって指差したのは、裾辺りの刺繍だ。白い糸でさざれ波を象ったもので、裾全体をぐるりと縫い進めないとならないため、ただでさえ遅れがちなレニーの進行が更に遅れる要因となっている。
「うぅ…」
「まあまあ、本人が拘るならそれはそれでいいんじゃないの」
レニーは助け舟を出してくれたユーリィンを感謝の面持ちで振り返る。
「あ、でも手助けは無しね」
助力を求めようとした先手を打たれ、レニーは口を尖らせた。
「当たり前でしょ、あたしだって自分ので手一杯なのよ」
そう言って自分の作品を軽く持ち上げて見せた。
ユーリィンのは濃緑の衣装だ。余分な手を掛けていないが、腰周りをはじめ全体的にかなり絞った形状をしている。時間と技術が足りないと自覚しているからこその選択だ。
「レニーもユーリィンを見習ったら? 技術が追いつかないなら、適度に刺繍を省いてみてはどうかしら」
リティアナも、縢っていた手元から顔を上げて雑談に加わった。
黄色い衣装の想定より大きくなってしまった首元をすぼめていたようだが、いい加減目が疲れたので視線を上げたかったのだ。
「懲りすぎなのよ。はじめてなのだから、余り気負うもんじゃないわ」
そう言いながら、首を回して強張った筋をほぐしている。
「だって…折角、はじめて自分で作った衣装を着るのですもの。こだわりたいじゃありませんの」
口を尖らせるレニーに、リティアナが首を振った。
「気持ちは判らないではないけど、二度と作れないわけじゃないでしょ。重要なのは間に合わせることよ。刺繍にこだわって、結局貸衣装を着ることになったらムクロもさぞやがっかりすると思うわ」
そういわれ、レニーはしばらくじっと見つめていたが、やがてはぁとため息を吐くと別のところに針をあてがった。
「逆に考えましょ。来年に備えて予行演習できると考えれば悪くないわ」
「そうですわね…」
ユーリィンにそう励まされ、レニーは針を持つ手に力を込めた。
「あいったあ!」
「またかぁ…」
遠巻きにして仲間たちの行動を見守っていたリュリュは大きく嘆息すると、遅れがちになっていた自分の赤い装束を縫う作業に没入した。




