第26話-2 アリウス王子
「それは余が答えよう」
いつの間にか目を覚まして机上に身を起こしたアリウスへ視線が集まる。
「王子…いつお目覚めに?」
「つい先ほどな」
ムクロの手を借りて起き上がったアリウスはゆっくりと視線を巡らせるが、そこに探す人物がいないことを確かめ哀しそうに目を伏せた。
「王子…」
「よい、分かっておる。あれはラシュバーンなりに決めたことであろう……」
気丈に答えたが、その言葉は震えていた。
「そういえば喉が渇いたのぅ」
唐突に、暢気な声でデッガニヒが独り言ちた。だが、どうみても他の人物にも丸聞こえな声量の大きさである。
「少し、長話が過ぎたようじゃ、喉が渇いた。すまぬが誰か茶を淹れてくれんか。それで王子、すまぬがその準備が出来る間、少しお待ちいただきたい。手洗いはここを出てすぐのところにあるし、もし王子さえ良ければ用を足して来られてはいかがかの」
王子は答える代わりにこくりと頷いた。
「よし、ならばムクロよ。王子をご案内しとくれ」
「ああ」
ムクロに促された王子が退出してすぐ、ネクロが「ありがとよ爺さん」と静かな声で礼を言った。
「王子にとって将軍は剣術の師範だが、放任気味の実の親父と違って私生活でも色々と構ってくれていてな。俺らにとってもだが、あいつは特に実の親父のように感じていたんだ」
デッガニヒは一つ欠伸をすると、でっぷりと突き出た腹をぽりぽり掻きながら言った。
「はてさて、何のことやら。ところで弟子や、お茶はまだかのう」
「もう、たったいま注いだとこでしょうが…はい、みんなも受け取って」
全員にお茶が行き渡ったところで、王子たちが戻ってきた。
「いらぬ気遣いをさせたようだが、もう大丈夫だ」
少し目が赤く腫れているようだが、これなら大丈夫だろうとデッガニヒはかすかに頷いた。
「さて。起き抜けのところ悪いが王子が起きたのなら、先に厳しいことを言わねばならんのぅ。まず、わしらは『どこまで協力するか』という前提から議論せねばならん」
「デッガニヒさん?!」
すでに全面協力するつもりでいたアベルが腰を浮かすのを手で制し、デッガニヒは冷たい声でつづけた。
「確かに、フューリラウド大陸全体を大きく揺さぶる事件である以上それを止めるのは重要なことじゃ。だが、その一方でアリウス王子の要請は非常な危険を生徒たちに強いるものである。それをただの一校長であるわしや教員たちが生徒たちへ強制させることはできん――ここは軍学府であって軍ではないからの。そこは理解できておろうな?」
アリウスは頷いた。
「分かっている。故に、戦乱を終えた暁にはその覚悟への見返りに余にできることは何でもすると約束しよう。首を差し出せというならそれも良い」
だが、デッガニヒはひらひらと手を振った。
「いらぬよ、そんな物。ただでさえ校長なんて面倒な肩書きだけで閉口してるんじゃ、それ以上重いもんはいらんわい」
「なるほどな」
アリウスも苦笑する。
「余も肩書きを下ろせるものなら下ろしたい。まあ…実際にはまだ背負ってもおらぬがな。それはとにかく、余にできることは何でもすると誓おう」
「これこれ、あまりそういうことを王となるものが軽々と誓うでない。その辺りの駆け引きはまだまだと言ったところじゃの。まあ、何を条件にするかはいずれ決めるとしよう。ともあれ、おいそれとわしらは動けん。下手に動くと、他国の思惑が絡んで大混乱になるからな」
「では…」
「早まるでない。わしらは動けなくても、生徒たちが個人で動く分には構わんじゃろうて」
そういうと、デッガニヒがアベルに視線を向けた。彼の言わんとすることをようやく察し、アベルは憮然とした面持ちになった。
「つまり、僕らが中心になって動けと?」
そういうアベルに、デッガニヒは面白そうに目を煌かせふざけ半分で腕組みしてみせた。
「無理にとは言わんよ。いずれこの件は掲示板を通して生徒たちにも参加を募るであろうが、君らは先んじて受けることができるし受けないこともできる。ま、知り合いの苦境に心が痛まなければじゃが…しかし、わしの知るハルトネク隊とはそんな冷たい連中じゃなかった気がしたがのぅ」
「判っててやってるくせに…この老いぼれじじぃ!」
ユーリィンの腹立たしげな声にもデッガニヒはかかと笑っただけだった。
「…すまん、アベル」
ムクロが済まなさそうに謝ってくるがアベルは間髪入れず返した。
「気にするなよ、大体命を助けてくれたのは君の方が先じゃないか。ドゥルガンと戦っていたときにムクロが助けてくれていなかったら僕だけじゃない、リティアナとベルティナもどうなっていたことやら。その恩を返せるんだ、元々僕一人でも手伝うつもりだったさ。みんなは?」
真っ先にリティアナが同意を示した。
「もちろんわたしも手伝うわ。アベルの言うとおりだし、何より戦争を終わらせられるならそれに越したことは無いもの」
「放って置くわけにいかないのは事実ですしね」
「アベルが手伝うならボクも協力する!」
「あたしも。託宣がこのことを指してる可能性は高そうだし、手伝うわ」
アベルのみならず、他の仲間たちも続々と賛意を示したことにアリウスが目に見えてほっとした。
「すまぬ、恩に着る」
「あ、でもお礼は別にちゃんと頂戴ね!」
リュリュのちゃっかりした言葉にアリウスが苦笑したのを見計らい、アルキュスが口を差し挟んできた。
「校長代理はああ言ったけどあたしらも可能な限り協力するからね、無茶はするんじゃないよ」
「ですーね。生徒たちだけに働かせてーは、示しがつきませーん」
「…アルキュス先生はともかく、メロサー先生は頼りになるの?」
「酒飲んで酔いつぶれたりしないでよね」
白眼視する生徒たちの視線にいたたまれなくなったのか、メロサーが話題を反らしたが。
「そっ、そのようなこーと、心配無用でーす! だいたーい、それをいうならアルキュス先生のほうーが…」
「お、喧嘩売る気かい? 買うよ? 買うよ? 飲みでも殴りでもどっちでもいいぞ?」
「そ、そういうつもりでーは…」
のりのりなアルキュスの反応に、メロサーは目を白黒させた。
先生と生徒たちとの心温まる?やりとりを優しい眼差しで見つめていたデッガニヒだが、すぐにまじめな面持ちに戻ってアリウスに向き直った。
「じゃがの王子。個人や少数の人間が頑張ってどうこうなるものでもないこともある。状況によっては…」
アリウスはこくりと頷いた。
「…無論、ディル皇国の兵たちにも犠牲が出るだろう事は覚悟している。そしてそなたたちも…」
誰もが無傷で、というのは所詮夢物語に過ぎない。
「それでも僕らは僕らのできることを精一杯やるだけさ。フューリラウドの人々が助かるなら儲け物、くらいに考えよう」
「大分欲張りだとは思うけどね!」
リュリュがそういうと、何人かが違いないと笑った。
「さて、そろそろ本音で話すべきときが来た様だ」
落ち着いたところでアリウスがそういうと、室内は静まり返った。
「余が隠棲の道を選ばず、それなりに力を持つ者を選んで身を寄せた理由だが…率直に言おう。そなたらに、この戦争を終わらす手伝いをしてほしいのだ」
部屋は驚く者と驚かない者とに分かれた。後者はある程度想像がついていたらしい。
「ルークに言伝するときにも言ってたそうだけど…具体的にはどうするつもり?」
その一人であるユーリィンが質問をぶつけると、アリウスは迷わず答えた。
「そなたたちには、余がディル皇国の皇位を簒するのを手助けしてもらいたい」
「はぁ?!」
何を言っているか判らずぽかんとする者、驚く者、そして驚かなかった者。今度は聞いていた者たちが三様に分かれた。
「そ、そのようなこと、到底許されることではありませんわ!」
真っ先に異論を唱えたのはレニーだ。それにネクロが真っ向から反論する。
「どうして?」
「どうしてって、それは勿論…」
言い返すレニーをネクロがさえぎる。
「先王は正気を失いセプテクトの言いなりだ。このままでは戦争の拡大をとめる手立てはねぇ。だったらまともな跡継ぎに代わってもらう。そのどこが問題なんだ、言ってみろ。肉親の情とかそういう問題じゃねぇ、そうしなけりゃ無用な人死にがこれからも続々増えるんだぜ。それでも許されねぇことか、あ?」
「う…」
レニーが返答に詰まる。他に口を挟む者がいないことを見て取り、アリウスは再び口を開いた。
「よい。確かに、本来ならば親殺しなど褒められたことではないのは余も理解しておる。だが、そうすることが大勢の人々――特にディル皇国の民の命を救うことになると信じておるし、そのためなら余は如何様なる謗りも甘んじて受けるつもりだ」
「そのために、わざわざ…?」
リティアナが尋ねると、アリウスはうむと頷いた。
「だが話はそれで終わりではない。ただ乗り込んでいくのでは、戦火は止まらぬ。まずはそれを止めなくてはならぬ。その助力を頼みたい」
「というと?」
「まずは、戦争の拡大から止めねばなるまいて。そうなると、早急に周辺国と協力関係を結ばなくてはならんじゃろうな」
デッガニヒがリュリュの問いにそう答えると、アリウスがまた頷いた。
「そのとおりだ、ご老人。今ディル皇国に起きていることを伝えた上で、戦線を膠着する動きに変えるよう願いに行く。そのときの侍衛として、信の置ける者たちに付いてきてもらいたい」
そういうと、じっとアベルを見つめた。
「どうやら察するに、そなたこそがムクロが最も信頼する者であろう? なれば、余にとっても信頼するに能う」
「へ…?」
何を言われているか良く判らないアベルに、リティアナがそっと耳打ちした。
「ムクロが信じているから、自分も信じると言ってるのよ」
「は、はぁ…わかった、でありまする」
なんと答えたら良いか判らず目を白黒していると、アリウスが笑った。
「よいよい、堅苦しく答えずともよい。ここでは余が余所人だ。そなたらには、今後も他の者同様余にも接してもらいたい」
そのように言われてはアベルとしても従う他は無い。
「は、はぁ…。そういうことなら…判りました」
「うむ。それはさておき、先ほど言ったとおりだ。余は戦争を始めたディル皇国の王族として、繰り返しになるがまずは戦争の拡大化を止めなくてはならぬ。また、それは余が父上の下へ乗り込むためにも必要な手順となろう」
「どういうこと?」
首を傾げるアベルに、アリウスは教え諭すように言った。
「アベル、いかにそちたちの武が優れていようと、国を挙げた全軍がてぐすねを引いて待っている中へ考えなしに飛び込むのはいささか浅慮というものであろう? 命が幾らあっても足りはせぬ」
「まあ…確かに」
「かといって、大量の兵士を連れて行けば戦火が拡大するのは避けられぬ。なれば…」
「他にひきつけておいてから突撃する…?」
アベルの回答に、アリウスがにっこり微笑んだ。
「その通り。そなたには将としての素質があるようだ」
「そのためには布石として、他国の協力が絶対条件じゃな」
デッガニヒは引き出しから地図を取り出し机の上に広げると、ごつごつした短い指をフューリラウド大陸のやや中央左下よりの一点に置いた。
「まずはルトヴィネアの隣に位置するオルデン公国じゃな。本来ならルトヴィネアの方が拮抗させるには都合が良かったが、落とされてしまった以上無いものねだりにしかならん。今は隣国が落とされて気が立っておるじゃろうから、本格的な反攻作戦を開始する前に急いで事情を説明せねばなるまいて」
つづいてアルキュスとメロサーも地図を覗き込み、口を挟んだ。
「それから、少し離れているけれどハルネザルバ共和国かねぇ。立地的に見て直接戦争に踏み切ることはまだ当分ないだろうけど、商業都市を擁する強みを生かして近隣の国々へ資金援助と言う形であらかじめ侵攻を防がせようとするだろうね。周辺国より、先に話を通しておくほうが良いんじゃないかい?」
「いーえ、それは直接的な動きではないから火急ではないでーす。むしろ少しはなれていてーも、小さいスティキュルドの方がいいかもしれませーん。狙われーる可能性が高そうですーよ」
二人の意見にも、アリウスは頷きながら真摯に耳を傾ける。
「いずれの意見ももっとも。可能ならば、平行して使者を送るほうが良かろうな。後はモラディエの動向だが、それについては先生方はいかがお思いか?」
「モラディエに関してはルークが見た援軍がなんだったのか気になるんだよねぇ。先遣隊がディル皇国に襲われて成りすまされた、くらいならまだいいんだけど…いずれにせよ、もう少し情報がほしいねぇ」
「時間が足りないのでーは? 確認している間に小競り合いーが、別の場所ではじまるかも知れませーん」
「うむ。その可能性は十分あろうな。モラディエへはひとまず余が書いた親書を持たせた生徒に向かってもらい、戦いが始まっていたなら即刻戻ってもらうというのではどうだろうか。渡せた場合は他のところが終わり次第、余が直々に出向けば角も立つまい」
「いや、それはまずかろう。人に化けている化獣だと危険じゃ。やはり情報を精査する時間は必要じゃな」
ああでもない、こうでもないと王子の意見を交えた四者の議論が小一時間ほど過ぎたところで、ようやく意見がまとまったようだ。
この間、ハルトネク隊はぼんやり窓外を見やったり、茶を入れなおしたりして蚊帳の外である。
「それでは、まずはハルトネク隊の諸君には王子を連れてオルデンへ向かってもらうこととしよう。残りは他の班に王子の親書を持っていくことになる」
「それはいいけど、いきなり行ったら攻撃されちゃわない? ディル皇国からの使者なんて名乗った日には問答無用で攻撃されそうで怖いんだけど」
リュリュのもっともな疑問に、デッガニヒが頷く。
「大丈夫、その辺は抜かりないわい。まず、伝令を前もって送り事情を伝えておく。アグストヤラナに出資していない国でも、出資している国を通して連絡は付けられる。そうやって根回しをしておけば、いきなり攻撃される危険性は大きく減るはずじゃ。諸君らはその連絡が戻り次第、王子と共に和平交渉へ向かってもらう。それで異存は無いかの?」
異論の声は無かった。早速、教師たちが親書を書くため部屋を後にする。
「うむ、よろしい。モラディエに関してはその間併せて調査するとしよう」
残ったデッガニヒがぐるりと見渡すと、
「その役は俺に任せてくれ」
そう言ってネクロが挙手した。
「俺は元々そういう単身での任務の方がやりなれてるからな」
「確かに、アグストヤラナにもちょくちょくいらしてたみたいですしね」
レニーが白眼視すると、自慢げに言っていたネクロはにやりと笑った。
「勘弁してくれよ、仕事だったからさ。あんたらだって働いてるならこの辛さ、判るだろ?」
「そうじゃな。わしも『今後の』仕事ぶりには期待しておるよ」
一先ず不法侵入の責任については言及することを避けたデッガニヒが決断を下した。
「そう言うことで、彼に任せておいて問題無いじゃろ」
「ああ、任せておきな。今夜にでも出発しよう」
そういうと、素早く立ち上がったネウロは小さく飛び上がると、足元の影に音も無く潜り込んだ。
「それから、諸君らにもう一つ任務を言いつける」
突然真剣な表情に戻ったデッガニヒに、アベルたちは気を引き締めた。
「はい、なんでしょうか」
「今月末…あと二週間後か。そのとき、学府は舞踏会を行うことにする」
「はい、ぶとうかい……ん? ぶとうかい、とは?」
アベルが仲間たちを見渡す…が、リティアナすら知らない単語だ。
「あの…今まで聞いたこと無いんですけど、わたしも」
「当たり前じゃ。ついさっき決めたことなんじゃからな」
真面目くさった顔でデッガニヒは答えた。
「公式の場を模した夜会じゃ。諸君らはそれに参加してもらう」
「はあああ?!」
六人が一斉に叫んだ。
「え、何でまた突然そんなことを?! 幾らなんでも、その…折りが悪いのではなくて?」
真っ先に立ち直ったのは貴族の慣習に一番詳しいレニーだった。
まさか戦争が起こるかもしれないときに呑気に踊っている場合ではないだろう、そう思っての質問だったが。
「ああ…すまぬ。それを頼んだのは、余だ」
アリウスが一歩前に出て答えた。
「確かに時間が無いが、それでもそなたらには使節としてのいろはを教え込む必要があると思ってな」
「アベル、お前さん先ほど王子の応対でへどもどしておったじゃろう」とデッガニヒ。
「ここでは構わんが、和平交渉で失礼な対応を取られては困る。無礼な振る舞いをしでかして、結べたはずの和平が決裂したら泣くに泣けんからのぅ。じゃから、付け焼刃ではあるが上流階級の雰囲気や最低限の礼儀を学んでもらうんじゃ」
「そんなぁ?!」
訓練とはいえ、何の因果で山育ちの自分が社交界?!
必要なことだろう、それは判る。しかし、感情が理屈に反攻することはままあるものだ。
残酷な宣告に、アベルたちは非難めいた視線を向ける。
「そんな、捨てられた子犬が助けを求めるような目をしたところで駄目じゃ。これは決定事項じゃからな。尚、舞踏会は三年生は必須じゃ。班員同士で行動するもよし、他班とでもよし。それから、衣服は礼服を着てもらう。着こなすのも訓練のうちじゃ」
そこまで聞いたところで、レニーが顔を青ざめさせる。
「あの…持っていない人は……?」
デッガニヒは、真面目くさった顔を崩さず答えた。
「我が校では普段、どうしているかね?」
アベルたちも遅ればせながらレニーの質問の意図を悟った。
自作しろ、と言うのだ。
いや、購入、或いは貸し出しはあるのかもしれない。しかし、その場合目玉の飛び出るほどの出費は覚悟しないとならないだろう。
「まあ、今日から任務は無いから心積もりだけはしっかりしておくんじゃな」
「この…、糞爺!」
仲間たちの心中を代表したユーリィンの罵声で、デッガニヒはとうとう顔をほころばせた。
「ま、今回は急じゃからな。幾つか同時に任務も提示し、その報酬の先払いも提示する予定じゃ。それで上手く遣り繰りすればなんとかなるじゃろう。何事も、良い経験じゃよ」
そして窓外を見やった。
「よし、今日はもう遅い…どころか、もう朝じゃの」
デッガニヒにつられアベルたちも見ると、暁闇の中、ちらちらと白いものが舞い降りてきているのが見えた。
いつの間にか、雪が降ってきていたのだ。
「アベルたちも色々あって疲れておるじゃろう。部屋へ戻って寝ておくが良い」
促された仲間たちも立ち上がり、各々部屋の外へ出て行く。
最後に退去しようとしたアベルは、もう一度窓の外を見やった。先ほどは気付かなかったが、雪が結構な勢いで積もりつつある。数時間もすればかなり冷え込むだろう。
アリウス:第一王位継承権を持つ皇子が何故セプテクトに狙われなかったかというと、実は他国へ遊学していたためです。
ディル皇国の蜂起を他国で知った皇子は慌てて帰国しようとしますが、当然混乱しているため結構な時間のロスが生まれてしまいました。
それが結果としてラシュバーンが動けるだけの猶予となったわけです。
尚、他に数人兄弟姉妹は居ましたが、残念ながら彼らはいずれもすでに捕らえられセプテクトによる『処置』を施されてしまっています。




