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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
二年目
73/150

第23話-1 ドゥルガン



 ドゥルガンが転送先に選んだところは白一色の丈高い城壁に囲まれた広場らしき一区画だった。



 短く刈り揃えられた芝生の中を両脇に常緑樹の植わった広い舗装路がずっと先まで伸びているだけで、人の気配が無い。出迎えの無いことをいぶかしんだドゥルガンだったが、周囲を確認することはできなかった。



 地に足がついたと見るや否や、何者かに殴られたのだ。



 吹っ飛んでリティアナたちを手放した彼は、自分を攻撃した者を認識して驚きの声をあげた。



「アベル、どうしてお前がここにいる!?」


 眼前に、アベルが殴り飛ばした右手を突き出したまま立っている。その左手にはたった今奪い返したベルティナが抱きかかえられていた。



 アベルもまた、ガンドルスが戦闘不能になったことになんらの衝撃を受けなかったわけではない。



 だが、彼の場合それよりもドゥルガンの変化の方――ブレイアを滅ぼした化獣たちを髣髴とさせた形相によって掻きたてられた敵愾心の方が激しかったのだ。


 そのおかげで一人だけ先に立ち直ったアベルはドゥルガンの視線がリティアナに向けられたのを見たのを切欠にとっさに飛び出し、その結果転送に間に合ったのである。



「僕は誓ったんだ…今度こそ、リティアナを護ってみせると! ドゥルガン! お前の好きにはさせない!!」



 油断無く対手を見張りながら、リティアナの傍にベルティナを下ろすとアベルは剣を構えた。二人の前に立ち、ドゥルガンの行く手を阻むがその際に周囲を見渡すことも忘れない。



 辺りの光景は先刻まで彼らがいた遺跡とはまったく違う。肌を弄る風の冷たさは、学府の外にいたときより冷たく感じる。



 仲間たちは他におらず、完全に孤立無援の状態だ。



「ほぅ?」


 むくりと身を起こしたドゥルガンの口が歪む。



「今も昔も、校長に助けてもらった分際で…良いでしょう、ちょろちょろといい加減目障りに感じていたところだ。お前はこの場で私自らが殺してあげましょう」


 アベルはゆっくり息を吸い込み、よく通る声で答えた。



「お断りだ」


「あなたに選択権は無いのですよ!」


 素早い動きで飛び掛ると四本の腕を突き込んでくるが、それをアベルは冷静に右に弾き、左で払い、かわし、そして受け止めた。



「ほう、今のが見えましたか」


 攻撃を防ぎきられたドゥルガンは、しかし余裕の態度を崩さない。



「…お前に鍛えられたからな」


 ぶっきらぼうに答えるアベルに今度ははっきり、ドゥルガンは微笑んだ。



「まったく、実に惜しい話だ。その気迫、執念、そして過去。…君ならば、きっと校長…いや、私の後継となれたでしょうに……」


 その言葉は、やけに寂しげだった。



 校長の話では、彼は戦によって故郷を、家族を喪っている。



 そういう点ではアベルやリティアナと彼とは非常に近しい存在だと言えよう。グリューの当て馬という目的こそあったが、普段から生徒とは不必要に親しくしない彼がアベルの個人教授を申し出たのにはそういった理由が少なからずあったのかも知れない……



「あなたが、あの化獣を殺してさえいれば…それこそがあの修行の到達点だったんですよ。強い憎しみ、恐怖、哀しみ、そういった感情を糧にして立ちふさがる者すべてを切り伏せる。校長ではなく、私と同じ剣の使い手になれる素質があっただけに……実に残念です」



 ドゥルガンの気持ちが一部なりと理解できるだけに、アベルは首を振らざるを得ない。


「それでも…僕は僕だ」



 ドゥルガンは一つ大きなため息を吐くとやがて頷いた。


「…そうですね。未練、か」


 おしゃべりはここまでだった。



 ドゥルガンが動く。



 素早く突きを繰り出してくる。しかも一、二撃ではない。



 本来人族が持ち得ない腕も滑らかに操り、鋭い攻撃を繰り出していく。 かろうじて急所である左胸、喉を狙った攻撃は防ぎ、眉間への攻撃はかわすことができたものの。



「うぐっ!」


 右胸を狙った攻撃は跳ね上げが遅れ、鎖骨の上の肉がこそぎ取られてしまう。歯を食いしばって痛みを堪えながらも剣を大きく振り、ドゥルガンを突き放す。



「アベル?!」


 剣戟の音でようやく目を覚ましたリティアナが叫んだ。



「よかった、目を覚ましたんだねリティアナ」


 どうやら彼女に怪我は無いようだ。



「アベル、大丈夫?!」


「ああ、僕は大丈夫。だけど」


 油断無くドゥルガンの追撃を裁きながらアベルは手短に頼んだ。



「リティアナ、ベルティナを連れてどこかに避難していてくれ!」


 眼前の化獣化したドゥルガンを見てリティアナは一瞬驚きに顔をこわばらせるが、すぐに状況を察しこくりと頷く。



 今の彼女は武器を持っていない。このままでは足手まといだと理解していた。



「判ったわ、任せて」


 素早くベルティナを抱きかかえたリティアナが背後へ向けて駆け出していく足音を聞きながら、アベルは両手でしっかり剣を握り締めなおした。



「やれやれ、手間の掛かる…ならさっさとあなたを殺して彼女を追いかけるとしましょう。どうせ子供連れの女の足、そう遠くまで逃げられないでしょうからね」


 無論、それをアベルが許すはずも無い。



「そうはいかない。ブレイアのみんなの仇として、あんたはここで僕に倒されるんだ」


 剣を突きつけ断言すると、ドゥルガンは首を振った。



「やれやれ、教師に対する態度がなってませんね。仕方がありません…たっぷり後悔するがいい、あの世でな!」


 次の瞬間、ドゥルガンが大きく一足を踏み出した。



「でやあっ」


 そのときとったアベルの行動は、練達者からすれば見事と言って差し支えないものだった。



 ドゥルガンの踏み込みの鋭さに、相対したのが並みの生徒であったならまず守りに入っていただろう。



 だが、アベルは守りに入らず自らも踏み込んでいた。先に校長との戦いで垣間見た素早い動きで、受けに回っていたら怒涛の攻めに押し切られると判断したためだ。



「ほう、なかなかの思い切り。だが、まだまだ!」


 攻撃を二度三度と防がれたドゥルガンだが、まだ攻めが終わったわけではない。



 足をめぐらせ、体を入れ替えるように見せかけては払うように横殴りにしてくる。それをかわされたかと思うとガンドルスの鍛え抜かれた胸板をぶち抜いた貫手を繰り出す。



 いまだ未熟なアベルにとって、一瞬も気の抜けない厳しい攻防であることに変わりはない。



「ふふっ、中々やりますね」


 必死に防ぐアベルと違い、ドゥルガンは余裕綽々といった風だ。



「校長の稽古のおかげですか、いままで致命傷を受けていないのは」


 アベルは答えない。否、答えられない。激しい攻撃を受けつづけ、アベルも息が上がってきている。そして、この戦いの均衡はほんのちょっとしたことで破られた。



「しまっ…」


 アベルの体勢が崩れた。



 ほんのわずか、体勢を整えるために半歩後ろに引いた足が小石を踏みつけたのである。足元がすべり、どうにかその攻撃は防げたが握りが甘かったせいで剣を弾き飛ばされてしまう。



 たたらを踏んで片膝を付いたところで、眼前にドゥルガンが立った。



「どうやらここまでのようですね。名残惜しいですが、そろそろ飽きたところですし丁度いい頃合でしょう」


「くっ…」


 ほんのわずかなしくじりに歯噛みするがもう遅い。



 剣は幸い手を伸ばせばすぐ傍のところにある…が、その隙を見逃すドゥルガンではない。このまま背を向けようものなら、剣に手が触れるより先に背中から鋭い爪でぶち抜かれるだろう。



「なぁに…痛いのはほんの一瞬のことです。それに、すぐあなたの仲間たちもそちらに送ってあげますから安心してください。あの世はすぐに溢れかえりますから寂しくないでしょう」


 勝利を確信したドゥルガンは先の割れた長い舌をちろりと伸ばし口元を嘗め回すと、左手をごきりと鳴らした。



「それでは…死ね!」


 左手が頭蓋を砕かんと振り下ろされる。



 だがアベルが脳漿をぶちまける直前、後ろから飛来した白光がドゥルガンの脇腹に突き刺さった。



「な、なにぃ?! これはぁっ」


 予期せぬ痛みと驚きに、一瞬ドゥルガンの視線がアベルから外れた。



 その隙を逃さず、アベルは剣に飛びつく。



 そして、体をひねると次の一撃にすべてを賭けた。



 今を逃せば、立て直す機会はもはや無かろう。ならば、と渾身の力を込め下から剣を突き上げる――ドゥルガンの脇に突き立っている、見覚えのある短刀の根元へ吸い込まれるように。



 ぞぶり、と肉を割り絶つ鈍い感触が伝った。



 そのまま、しばらく固まっていた二人だが。


「ごばぁあっ」


 口を開いたのはドゥルガンだった。



 何かを言おうとしたが、代わりにどす黒い血の塊を吐き出した。



 上体を身二つにした長躯がぐらりと折れ、どうとその場に倒れる。そこまでを、傍でへたり込んでいるアベルは別の世界の出来事のようにぼんやりただ黙って見つめていた。



「危な、かった…」


 短刀の援けが無ければ、地に伏していたのは自分だったと断言できる。



 死なばもろともと遮二無二剣を突き出していたが、こうして助かった今になって死が間近にあったことに今更身体が震えてきた。



「アベル!」


 そんなアベルを我に返したのは、後ろから抱き着いてきたリティアナのぬくもりだった。



「ぱぁぱ、だいじょうぶ? いたいの? だいじょうぶ?!」


 ベルティナの方も、ドゥルガンが斃されたからか動けるようになったらしい。足元にすがりついた彼女に言われてみてようやくアベルは体のあちこちに傷がついていることに気付いた。体中をずきずきと痛みが襲うが、そうも言っていられない。



「ああ、僕は大丈夫だ。二人は? 怪我は無い?」


「ええ、わたしたちも大丈夫」


 二人ともこくりと頷いたのをみて、アベルはほっと安堵した。



 だが、まだこれですべて終わったわけではない。



 ひとまずお互いの無事が確認できて最大の懸念が解消されたところで、次はこの場から移動したいところだ。



 だが今では、前後に伸びる道の先から、戦っているときには届かなかったあわただしい足音と喧騒がこちらへ向かってきているのが聞こえている。まだ遠くに聞こえるが、このままでは何れ新手がここへ来るのも時間の問題だろう。



 もしここがドゥルガンの狙い通りディル皇国だとしたら、 見つかった後ろくでもないことになるのは明白だ。 どうしたらいいと周囲を見渡しつつ、アベルはやり過ごす方策を見つけようと必死に頭をめぐらすがいい考えは浮かばなかった。



 周りの潅木はまばらで隠れるには不向きだし、周囲の壁は高く滑らかで乗り越えることなど出来そうにも無い。もしやドゥルガンが転送石を余らせていないかと死体の方にも視線を向けたが、化獣化した際に衣服のほとんどを失っていて、到底どこかに隠し持っているようには見えない…



 そこまで考えたとき、アベルははっとした。



「転送球…?」



 転送球は、簡潔な転送命令を吹き込まれた核鋼に、少量の魔素を凝縮させて作成された素体を組み込ませて造られた、使い捨ての道具である。



 使うと消滅するのは、転送用の魔素へと変化する素体が小さすぎてすべてを使い切ってしまうためと錬金術の授業で習ったが…ならば、もっと能力の高い両者の組み合わせ――つまり、高結晶体であるというベルティナ――なら、消滅せずに遂行できるのではないか?



 そこまで考えたが、すぐに頭を振って打ち消す。



 果たして転送能力を持っていなくても転送することはできるのか?



 いや何より、ベルティナにとって危険すぎる。



 彼女が無事でいられる確証は無く、むしろ既存の転送球同様消滅する危険の方が高い。そんな博打を、ベルティナに強要する真似はアベルにはできなかった。



「ぱぁぱ」


 そこまで考えていたアベルは裾を引かれた。



 振り返ると、見上げるベルティナが自分の目を覗き込んでいる。


「ぱぁぱ」


 もう一度自分を呼ぶベルティナの顔は、真剣だった。



「かえりたいの? おうちへ」


 一瞬何のことかと思ったが、すぐに転送のことを言っていると気づいたアベルは慌てた。



「駄目よ、そんなことになったらベルティナ、あなたが…」


 リティアナもすでに同じ推論を組み立てていたらしい。二人揃って首を振るが。



「だいじょうぶ」


 はじめてベルティナが強い自分の意志を示した。



「べる、だいじょうぶだから」


 なんと思いとどまらせるかとしばし彼女の目を見つめていたアベルだが。


「だいじょうぶ、べるにおてつだいさせて」


 何度もそう言うベルティナの覚悟は硬いようで、とうとうアベルも折れた。



「…判った。僕らはどうすればいい?」


「アベル?!」


「ここで議論している時間は無いんだ。それなら…ベルティナの意志に賭けよう」


 覚悟を決めたアベルを説得するのを諦めたリティアナは、大粒の涙を浮かべながらベルティナの手を握り締める。



「お願いだから約束して。決して無茶はしないこと。あなたが消えてなくなるくらいなら、学府に戻れなくて良い。きっと、わたしたち二人でここから脱出する術を見つけてみせるから」


 ベルティナは首を振った。



「ううん、だいじょうぶ。ぱぱ、べるとまままもるためがんばってた。こんどはべるのばんだから…ままも、しんじて」


 最後まで不安そうにしていたリティアナも、ついには折れざるを得なかった。



「…判ったわ。確かに、他に手は無いものね…」


 リティアナの覚悟も決まったことを見て取ったベルティナが、アベルを見上げて言った。



「ぱぁぱ。まぁまといっしょに、べるのくびにさわって、めいれいして」


 言われるがまま頷き、細い首に手を伸ばし掛けたアベルだったが。



「ごめんベルティナ、ちょっと待って」


「うん」


 同じ姿勢のまま、アベルはその場にいる者に聞こえる程度の声で言った。



「ありがとう、助けてくれて! そして、僕は…僕たちは待ってる! 君が帰ってくる日を!!」


 それだけ言うと、アベルはベルティナに向き直り首筋にそっと手を宛がった。空いている手でリティアナの手を握り締める。リティアナも、しっかり握り返した。



「お待たせ。さあ、”帰ろう。アグストヤラナへ”」


「うん」



 ベルティナも頷く。手を胸の前で組みそのまま軽く目を閉じると、幼い体が光の粒子に包まれる。光の粒子は握っている手を伝ってアベルとリティアナの体をも包み込んだかと思うと、次の瞬間ぱぁっと消え失せた。



 アベルたちの姿が完全に見えなくなったところで。


「…聞いたか? あいつ、待ってるってよ」


「ああ」


 すぐ傍の木陰からそれまで様子を伺っていた二人が姿を現した。ネクロとムクロだ。



「本気、だろうかね」


 ムクロは答えない。



「まあ何にせよ、ああまで言ってくれるのは珍しいな、人族にしてはよ」


「ああ」


 そっけなく答えたムクロだが、ネクロは気付いていた。そう答えているムクロの口元がほころんでいることに。



「やれやれ、ぞっこんだねぇ」


 ネクロは相手に聞こえないよう小声で軽口を叩きながら周囲を注意深く見渡す。その間、ムクロは投げつけた短刀を回収するため斃れ臥したままのドゥルガンの元へ近寄った。



「こうなると、人も獣も無い。哀れなものだ…」


 ドゥルガンの身体はすでに手足の先のほうからぐずぐずと溶け始めて青黒い液体を撒き散らしている。あわせて獣の死臭を数十倍に濃縮したような強烈な臭いだ。



 化獣化した肉体が制御を失い、崩壊をはじめているのだ。


「げぅ…」


 しかし、死んだと思っていたドゥルガンが、短刀を抜いた途端うめき声を上げたのをムクロは確かに聞いた。



「まだ生きている?! …いや…」


 反射的に後ろに跳び退った…が、ドゥルガンの瞳孔は広がったままになっている。もう長くないと見たムクロは、警戒を怠ることなく再び近寄った。



 かなり近づいたことで、ドゥルガンが力なく口を動かしているのが見て取れる。


「…何か、言い残すことでも?」



 ムクロにしてみれば彼はアグストヤラナでの諜報活動における管理者ではあったが、一方で教師と生徒という関わりのあった相手でもある。末期の言葉を聞きとるだけの情けはあった。



「言葉にしなくていい。伝えたいことがあるなら、口を動かせ」


 暗闇に紛れての仕事を生業としてきたため、唇の動きだけで言葉を読み取れる。



 もごもごとした動きから、幾つかの聞き覚えのある単語が読み取れた。


『…校長……戦場を駆ける…また……見たか……た…』



 それだけ囁いた後、ドゥルガンの瞳から何かが消え、一点を見つめたまま虚ろになる。そして、ドゥルガンだったものは瞬く間に緑の汚泥へ変じた。



「…終わったか。つくづく酔狂な奴だぜお前」


 少し離れたところから興味無さ気に見下ろしていたネクロがつまらなそうに呟く。



「見下してきたいけすかない野郎でしかないのによ」


 ネクロの非難を、ムクロはどこ吹く風で聞き流す。



「所詮は中継ぎでしかない。あいつも俺たちと同じ、体のいい道具だっただけの話だ。道具を見下したり、馬鹿にしても無駄でしかない」


「へぇへぇ。さようでござんすね」


 ムクロと違い、ドゥルガンに対していい感情を持たないネクロは苦虫を噛み潰したような顔になる…が、すぐに真剣な表情に戻った。



「しかし…こいつはちと不味いことになったな。あの学府に潜り込ませていた間者が無くなれば、あいつも本格的に動き出すぜきっと」


「…まだ大丈夫のはずだ」


 ムクロが淡々と応じる。



「今しばらくは学府側の目を誤魔化すため出来うる限り接点を持たないことになっている。その間に消息不明になったとして、探す手立ては無いはずだ」


 それが希望的観測に基づく願望でしかないことはネクロも知っている。そんな願望にすがろうとしているほど、ムクロがアグストヤラナに残した仲間たちに入れあげていることも。



「ま、あんまり目立つ真似はするなよ」


 だからネクロは軽く注意をするに留めておいた。昨今のムクロは、あの人族に影響されたせいかやけに感情的な行動をとることが増えたようだ。



 元々は暗部でムクロまでもが生きていくことに抵抗があったネクロとしては、その変化は嬉しいことでもあり、また危険を感じさせるものでもあった。



「わざわざ危険を冒してまで忠告したのは今更でもうしょうがないけどよ。『計画』がまだ残ってるんだぜ。あいつらにも迷惑が掛かるかも知れないから、あまり迂闊なことはするな」


 その忠告にも、ムクロは声の調子を変えず判っているとだけ応じた。



「ちっ…まあいいや、ここで俺らが言い争っててもらちがあかねえ。見回りの兵士が来る前にさっさと行こうぜ。というか俺はもう行くからな」



 これ以上、くどくど言ったところで意味は無い、そう判断したネクロは嘆息すると退場を促すだけ促してからムクロの返事を待たず傍の木影に沈みこむ。



 つづけて短刀を拾い上げたムクロも後を追って影に入った。



 こうしてその場には誰もいなくなった――はずだったが。


ドゥルガン:元々戦災孤児だった彼はガンドルスに拾われたのですが、実はその前に次の話で出る人物と出会っています。

その男からの命令を受け、自分でも気づかずに数々のスパイ活動を行っていたドゥルガンでした(そのため、本来なら人を見る目のあるガンドルスも無条件で信頼しきっていたのです)が、何分最初期の処置だったため色々齟齬が出ていました。

尚、齟齬の起こるきっかけはアベルですが、彼のことは自分に近い立場の存在としてそれなりに認めています。

一方で、とある理由から彼はリティアナのことを憎悪に近いレベルで嫌っていました。なるべく表に出しはしませんでしたががんドルスにはそれも気づかれていたようです。


さて、彼の起こした行動は、今後アグストヤラナへどのような影響を与えるのでしょうか。

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