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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
二年目
68/150

第21話-2 幼女、襲来



「アベルーっ、いるーっ?! …って、あれ」



 普段よりもはやく飛び、教室に飛び込んだリュリュを出迎えたのはユーリィンたち班の仲間でも、ましてやアベルでもなかった。



 教室のど真ん中に、素っ裸の幼女。



 年の頃は人族にして十歳位だろうか。



 ふわふわの栗毛の髪を無造作に伸ばし、鳶色の小さく丸い瞳が辺りを落ち着き無く見渡している。ふと、リュリュはその目が誰かに似ているような気がした。



「…君、誰?」



 リュリュの誰何の声にびくっとした幼女は振り返り、きょろきょろしたが声の主を見つけるとにっこり微笑む。 その様子はどこか、生まれてはじめて目を開いたばかりの子猫を想起させた。



 その笑顔の無邪気さに、思わず警戒心を解いたリュリュは身元を尋ねようと飛び寄った…


「可愛い子だね! ねえ君、どこから来たの? お父さんかお母さんはどこに…おわあ?!」


が、幼女の見た目よりはるかに素早い動きで捕らえられてしまう。もがいて離れようとするリュリュだったが、意外に力が強く逃れられない。



「え、ちょ、ちょっと何?! 何する気? え……え?」


 そのままリュリュを持ち上げ運んでいく。その先には、口が大きく開いて待っていた。



「あ~ん」


「ちょっ、ま、またぁ?! あっ、あっ、やめ…ぁあ~~~~っ」


「あぶぁえぶぇあ」


「ひっ、ひいぃ~~~~~っ! だれかぁ、たずげで~~~!!」



 制止するも虚しく、リュリュの視界が真っ暗闇に包まれた。それからたっぷり舐られ、かと思えば引っ張りまわされたり振り回さたり。よれよれのへとへとになったところでようやく救い主が現れた。



「えぇと…これは…一体…? この子は?」


「だ…、だじけで~~~…」


 レニーが部屋の中で玩具――勿論リュリュのことだ――に好き放題している幼女を見て思考停止していると、相手のほうも気がついた。



「あう? うぅ?」


「何、どうしたのレニー? 急に立ち止まったりなんかして…」


 すぐ後ろを歩いていたリティアナが、戸口で固まったまま動かないレニーに業を煮やして肩から室内を覗き込む。



 そこで丁度幼女と目が合った途端、相手は良く通る声ではっきり言った。



「ままー!」


「…………はいぃ?」


 リティアナも、レニーも、ついでにリュリュも聞き間違えたかと思った。



「ままー!」


 が、もう一度、はっきり言いながら幼女は立ち上がり、リュリュを放り捨ててまっすぐリティアナ目指して歩いてくる。



「リティアナ…」


 道を開けてやったレニーが冷ややかな眼差しで見るのに、リティアナは珍しく泡を食って弁明した。



「ちっ、違っ、わたしじゃない! 多分、他の誰かと間違えてるんだと思うの!」


 そう答え、リティアナは膝元に抱きついた幼女を離し、屈みこんで尋ねた。



「ね、ねえあなた、あなたのお名前は?」


 指を加えて少し考え込んだ幼女はたどたどしく答えた。



「べる……てぃ…な」


「ベルティナ、でいいのかな?」


 幼女はこくりと頷く。意思が通じたことでリティアナは更に勢い込んで尋ねた。



「そっか、ベルティナね。それでね、わたしはあなたのお母さんじゃないの」


「ままー」


「…どうやってここに来たの?」


「ままー」


「えー…あー…そ、そうだ、お母さんはどこにいるのかな? お姉さんに教えてくれない?」


「ままー」


 リティアナはレニーから向けられる段々と冷ややかさを増していく視線から、彼女がもはや完璧に自分の言うことを信じていないことを肌で感じていた。



「ああもう、何をどう言ったら良いの…」


 頭を抱えていると。



「あれ? 何やってるんだみんな」


 アベルと、彼の後をついてきたグリューがやってきた。 採取の手伝いをしてもらっていたようだ。



「あ、アベル。あのね、実は…」



 リティアナが事情を説明するより速く、幼女が動いた。



「ぱぱぁ!」



 数拍の後、期せずしてその場にいる全員がまったく同じ言葉を口にした。



「………はいぃ?」


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