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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
二年目
64/150

第20話-1 月下の襲撃者



どんちゃん騒ぎから解散した各班員が自分達の野営地へ戻る頃には、すでに頭上に位置どった大きな月が煌々と島を照らしていた。



 島から宴の余韻がようやく消えたのは、アベルが使った道具を手入れし終わったところだった。 川の水でざっと洗い終え、野営地に戻ってきたところでアベルはリュリュとした約束のことを思い出した。



「あ、そろそろか。良い頃合だな」



 ひとまず荷物を置き、リュリュと待ち合わせした場所に向かってのんびり歩き出す。



 少し森の中を歩いたところで、ふと眼前の段差を下っていく人影に気付いたアベルは無意識で身を隠した。



「あれは…」


 真夜中だったが、木陰の中を照らす月の光は不審な人影をしっかり照らし出していた。皮鎧を付けた長い耳を持つ人影――間違いなく、ユーリィンだ。



「…でもなんでこんな時間に?」


 アベルは奇妙に思った。



 夜中に出歩いているということもさりながら、皮鎧を身につけていることが引っかかる。あれではまるで、戦いに赴くようではないか…その違和感があったからこそ、アベルは隠れたのだ。



『排除するわ。例え、大切な仲間を相手にしたとしても』



 不意に過去ユーリィンが言ったことが脳裏に蘇った。



 天幕の中にはレニーだけが規則正しい寝息を立てている。


 嫌な予感がする。



「けど…」



 リュリュとの約束がもうすぐだ。彼女は先に約束の場所にいるのだろう。



 そちらにいくかどうか躊躇したものの、このままではすぐにユーリィンのことを見失うと判断したアベルは心中でリュリュに詫びると用心深く後を追うことにした。



 ユーリィンがどこに行ったかだけ確認してから戻れば何とかなるだろう。



「こっちに行ったはずだけど…」



 それでも夜の森の中、人を追うというのは難しい。すぐにアベルは見失ってしまった。



「こんなことなら松明でも持ってくるんだったな…」



 これだけ月明かりがあれば追跡できるだろうと考えた見込みの甘い自分が恨めしい。仕方なく、アベルは足音を立てるのも構わず急ぎ足で森を進むことにした。



 幾度か、よく見えない根に足をとられ掛けたり、張り出した枝に目を突かれそうになりながらも進むうち、枝の折れる音や葉を踏みしだく音が遠くから聞こえてくる。その音は一人によるものではない。



「あちらか?」


 その音が段々激しさを増していく。



「まさか…戦ってる?!」


 更に足を急がせるが、次第に音はアベルの足元から聞こえてくるようになっていた。よく見えないせいで、いつの間にか高台を上っていたようだ。



「くそ、なんでこんなところに?!」



 反射的に元来た道へ引き返そうとしたが、アベルの冷静な部分がかろうじてそれを押し留めた。仮に戦闘が始まっているのだとしたら、わざわざ迂回して到着するころにはすべてが終わってしまっている可能性が高い。まずは先にしっかり相手の場所を把握するべきだ。



 アベルは下を見下ろせそうな場所を見つけ、頑丈な木に腕を絡ませながらそこから身を乗り出して崖下を覗いてみた。



「あそこか!」


 ほぼ真下、約二十ディストンほど下に明かりが一つ。木々の折れる音に併せてそれが揺らめく。



 丁度差し込む月明かりと重なった刹那、アベルはユーリィンの対手が誰かはっきり見てとった。



「リティアナ!」



 ユーリィンの狙いを知って一瞬愕然としたアベルだったが、次の瞬間考えるより体が先に動いていた。


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