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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
二年目
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第16話-2 どん底気分



 翌日以降の試験はガンドルスが心配したとおり、ハルトネク隊にとっては散々な結末を迎えた。



 天幻術の試験ではリュリュが集中しきれず火球に注ぎ込む魔素の調節をしくじって部屋半分を消し飛ばす騒ぎになったし、レニーはあんなに努力した採取学の内容が試験のときには頭の中からほとんど零れ落ちてしまって見る側が気の毒に思うくらいしょげ返っている。



 これらはもちろん、ユーリィンもさることながらムクロまで離脱したことが大きく影響していた。



 人の口は封じることは出来ないもので、校長室に侵入者が入ったという噂はあっという間に学府に広まった。それに加えてムクロが姿をくらましたとあれば、誰だって関連付けて考えるのは当然のことと言えよう。



 しかもそのせいでアベルたちと親しかったクゥレルやパオリン、ウォードたちも腫れ物に触れるような態度になったことも輪を掛けた。



 そして、精神的な綻びが決定的に表れたのは最終日の集団戦技試験だった。



 アベルたちはリュリュ、レニーとの三人だけなのに対し、相手はユーリィンを加えたルークたち。


 ムーガンとファルシネは元より、ホーバイトとエルディナまで揃っていてはどうにもならない。前回の戦いを反省したルーク班に終始二対一の戦いを強いられたアベルたちは結局、ほとんど良いところなしのまま惨敗を喫したのである。



 アベルとリュリュはどの教科も幸いにして何とか及第点には達しているはずだが、それでも気が沈むのは避けられない。



 そんな中で消沈していたアベルは受ける予定だった試験をすべて終えたあと、たまり場の教室に向かうと。



「ううぅ…ひどい、ひどすぎるよ…」


 二人の先客が飲んだくれていた。



 リティアナは試験官の手伝いがあるとかで遅れてくると出掛けに言っていたことをアベルは遅まきながら思い出した。ダーダはどこかに出かけているようだ――或いは絡まれるのを恐れて逃げたのかもしれない。



「まったくですわ! まったくですわ! 悔しいったらありませんわ!!」


 柄が付いた玻璃製の小壺をぐいっと(あお)り、レニーがリュリュに激しく同意する。二人とも、口元に真っ白な泡が髭のようについていた。



「…何やってんの二人とも」


 呆れたアベルが声を掛けると、二人が振り向いた。どちらも目に大粒の涙を堪えている。口元に円形の白い輪がついてなければ、さぞや絵になったことだろう。



「だって、悔しいじゃありませんのアベル! あのルークになす術もなく負けたのですわよ!」


「そうだよ! ユーリィンなんて、表情変えずにボクたちに殴りかかってきて! あんな冷たい奴だったなんてボク知らなかったよ!!」


 そう言いながらリュリュはふらふらと流しへ飛び、新しく鍋の中身を空っぽにしたばかりの杯に注いだ。



「アベルも! 飲みなさい!」


 言いながらレニーが、わざわざ水で作った鍋敷きに載せて冷やしておいたらしい杯に櫨染(はじぞめ)色の液体を汲んで手渡してきた。



「はいはい…わかったよもう」


 有無を言わさぬ口調に押し切られ、アベルもしょうがなく二人に付き合うことにした。 「てか、学府だと酒は駄目だって話じゃ…」



 一見祖父がたまの晩酌に楽しんでいる麦酒のように見えたが。


「ん……お、これ、美味しい!」


 一口含んだアベルは、思わず大きな声をあげてしまった。



 さっぱりした味わいに、ほろ甘さを含んだ泡が交じり合い飲みやすく仕上がっている。蒸し暑い中、きんきんに冷やしているのがまた小憎らしい。



 思わず一息に飲み干したアベルは息せき切って尋ねた。


「何これ? お酒じゃないみたいだけど…」


「ユーリィンとボクとでこっそり造った! それを出してきた!!」


「い、いつの間にこんな物を…」


 造り方は、まず野薑(のはじかみ)という野草の根を摩り下ろし、甘味の強い果汁と水を混ぜておく。煮立たせてから泡だったところで汁を濾し、大き目の甕で酸味の利いた果汁と水を加え、しっかり蓋をして二週間から三週間置いたものなのだそうだ。



「ホントは今日、ルークたちに勝ってから打ち上げでみんなで飲もうと思ってたんだよ…」


 そう言われ、きっとやるせなくて飲んでいたのだろうとアベルは胸が詰まるような思いがした。



「気持ちは判らないでもないけど、あまり飲みすぎてやるなよ…」


「はぁああ?!」


 飲み干してお替りするべく立ち上がったレニーがアベルに噛み付いた。



「残してどうするんですの、飲まなきゃやっていられませんわ! ルークの奴が私に投げ掛けたあの勝ち誇ったまなざし…改めて思い出しても腸が煮えくり返りますわ!」


「クゥレルたちも遠巻きにしてて話しかけづらいし! なんだよあれ、まるでボクらまで泥棒に加担したみたいじゃんか!」


「まあまあ……」


 彼らも事情があるし、そう考え助け舟を出したのが気に入らなかったのだろう。



「ふーん、アベルは余裕あるみたいでいいよね、あんまり衝撃を受けてないみたいだし!」


 険悪な目つきで絡んでくるリュリュに、今更ながらアベルは余計な差し出口をきいたと自分の迂闊さを呪った。



「そんなことあるわけ無いだろ。僕だって落ち込んでるんだよ」


「でもアベルはちゃっかりいつもどおりの点数を採っていましてよ?」


「だから、それは…」


 普段からちゃんと勉強してるからだ、そう言おうするより早くリュリュの暴言が飛ぶ。



「アベルにとってはムクロもユーリィンも他人だし、二人がいなくなってもたいしたこと無いんでしょ!」


 その無配慮な言葉に、いい加減アベルもかちんと来た。手にしていた杯を机の上に叩き付けんばかりにして置くと、堪えてきた憤懣とともに本心が口をついて出た。



「いい加減にしろよ、そんなことあるわけないだろ!」



 二人が知らないのは仕方の無いこととは言え、アベルにとっては少しばかり無分別な言葉だった。アベルとて試験に集中するに適しているとは到底言いがたい状況ではあったが、更に加えてリティアナへの懸念があったからなおのこと辛かったのだ。


 それでも彼は黙って耐えていた…今までは。



「勝手なことを言うなよ、君たちこそ好き放題してる癖に! 僕が動揺して無いとでも思ったのか?」


「だって、アベルはちゃんと点数とってるから平気なのかと…」


 レニーが反論しようとするも、アベルの険悪な目つきに急速に尻窄んでいった。



「そんなの、我慢したに決まってるだろ? 僕が頑張ったのは、ハルトネクの班長としての責任があるからだよ! 僕だって無責任に投げ出せるものなら投げ出したいさ、けどそんなことしたらどうなると思う?」


 アベルの珍しく見せる激しい剣幕に、リュリュとレニーは顔を見合わせた。



「僕たちまで投げ出したら、ユーリィンもムクロも、自分達のせいで迷惑掛けたからって帰ってき辛くなるだろう! 二人はムクロたちが帰ってきたら言うのかよ、『君たちのせいで自分の成績がひどいことになりました』って!」


 アベルの言葉に、リュリュたちもしゅんとなる。確かに、二人とも彼らが戻ってくることをまったく考慮していなかったことに今更ながら気付いたのだ。



「…ごめんなさい」


 しばらく気まずい沈黙の中、どちらからともなく出た謝罪をアベルは受け入れた。



 アベルもまた、二人の心情が理解できているからこそ感情を爆発させてしまったことを気まずく感じていた。


「…うん。荒れたい気持ちは僕も同じだよ。だからほどほどにしてくれよ」


 アベルが謝罪に応じてくれたことでリュリュたちも安堵したのだろう。今の話題から切り替えようとレニーが言葉を選んで言った。


「アベルは、その…二人が戻ってくると、信じていますのね?」


 ちょっとアベルは考え込んだ。


「信じているというのとはちょっと違うかも知れない。多分、帰ってきて欲しいんだ。だからこそ、いつ帰ってきても迎え入れられる様にしておきたい…変かな?」


 リュリュは頭を振る。


「ううん。ボクは、アベルらしいって思うな」


「まったく、いつもあなたはそう。普段は気弱に見えるくせに、ここぞというときは頑固ですわね」


 レニーも肩をすくめた。



「でも…そう、そうですわね。留守番くらいこなせなくては呆れられてしまいますわね。それに二人がいない今だからこそ、私たちが優れていることを見せつけるいい機会でもありますわ」


 もう少しその考えに至るのが早ければ、と思ったがアベルはあえて黙った。せっかく落ち着いてくれたのだ、やる気を削ぐような真似はしないに限る。



「よぉし、やるぞぉ…って、まずは何をしよう? 試験もう終わっちゃったし…」


 リュリュがそう言ったのを聞いて、アベルは今こそが二人に協力を求める好機だと判断した。



「それなんだけど。ユーリィンはまだ彼女の目的がよく判らないからしばらく様子を見るとして。僕はまず、ムクロがどこで何をしているのか調べたいんだ」


「構いませんが…すでに校内の捜索は終わってましてよ?」


 確かに、すでにアベルたちは元より手の空いている教員、そして物見高い暇をもてあました――或いは試験に対する努力を早々に放棄した――生徒たちが学府のあちこちをくまなく探し回ったが、ムクロの行方はようとして知れていない。



「…一箇所、まだ調べられてないところがあるじゃないか」


「それって?」


 その言葉で、レニーは気付いたようだ。



「地下遺跡?」


 アベルは黙って頷く。



「そりゃあそこは確かに調べてないけど…」


「生徒は立ち入り禁止だとドゥルガン先生からきつく言われてましてよ?」


「判ってるさ。だからこそ、調べるんだ」


 そこでアベルは、ガンドルスから聞いたことを二人へ話して聞かせた。



 最初は驚いていたリュリュたちも、今回の事件が大きな企てに絡むかも知れないと知って自然と口数が少なくなる。


「なるほど…」


 話を聞き終え、まずレニーが頷いた。



「確かに地下遺跡なら隠れる場所には困らなさそうですし、教員が組んでいるなら生徒もおいそれとは入れない。隠れるにはうってつけの場所ですわね」


「でもそうなると、見回りしてる先生に見つかったら大変そうだね」


 リュリュがそう呟いたのを聞いたアベルが答えた。



「…今回の件は校長としてはあまり公にしたくないことだろうから、これまでにも増して先生に見つかったら問題になる可能性は十分あると思う」


 その言葉に、レニーが大きく頷いた。



「最悪、見つけた先生が犯人側の可能性も考えられますしね。なかなかに危険ですわ」


 アベルが頷く。



「だから僕が夜に行く」


 そう明言したのを受けて、リュリュが頓狂な声をあげた。


「一人で?!」


 リュリュの驚いた声に、言葉が足りていなかったことに気付いたアベルは慌てて訂正した。



「ああ、厳密にはダーダも連れて行くよ。あいつなら匂いを追えると思うんだ」


 いつの間にか戻っていたダーダがわうっ、と一声吼えた。任せろということらしい。



「あのさぁ…」


 呆れた、とリュリュは殊更に大きなため息を吐いた。


「ボクも行くよ?」


「そうですわね。私も置いてきぼりはごめん蒙りますわ」


 一緒に行くと言い出した二人にアベルは慌てた。



「だ、駄目だよ! 危険だって二人も言ったばかりじゃないか!」


「うん、それは聞いたよ。その上でボクたちも行くんだって言ってるの。あのさ」


 頬を膨らませたリュリュが鼻先に飛びあがり、指を突きつけてアベルの口を封じた。


「一年前にもあったけど、こんな楽しそ…じゃなかった、ここ一番ってときに大切なことを仲間抜きで行動しようとする癖はいい加減止めてよ。ボクたち仲間じゃん」


 リュリュの言葉を聞いて、ぽんと両手を打ち鳴らしたレニーが懐かしそうに呟く。


「ええ、ええ。そういえば陸王烏賊のときでしたか、あのときはじめて共闘したんでしたわね」


 そして真剣な表情に戻ったレニーが、アベルを真正面から見据えて言った。



「そのときの私の経験から言わせていただくなら、一人でやれることには限りがありましてよ」


 確かに、あのとき一人で行動していたらきっとレニー、そして自分は無事でいられなかっただろう事については納得せざるを得ない。



「…だけど二人とも、やっぱり危険だよ」


 それでもまだ迷うアベルに、レニーはふっと相好を崩した。


「まったく、まだそんな馬鹿なことを言うんですの? 危険を避けるくらいなら、もともとアグストヤラナに来やしませんわ」


「んで、どうする? まだ諦めずボクたちを説得してみる?」


 アベルは何とか反論しようとして口を開いた…が、しばらく言葉を捜した結果、代わりに出てきたのはため息だけだった。ヴァンディラのときと同じで、こうなったらどうあがいてもアベルでは二人を断念させることはできそうになかった。



「…判ったよ」


 今度こそ、アベルは両腕を上げて降参の意を示した。



「仕方ない。それじゃあ夜に決行するから、これから何を持っていくか相談しよう」


「あら、なんの相談?」


「うわっ!?」


 不意に耳元でそう言われ、驚いたアベルは思わず飛びのく。彼の後ろに立っていたのは、これまたいつの間にかやってきていたリティアナだった。



「何、そんなに慌てて」


 リュリュやレニーも驚いて腰を浮かしているのをちらりと瞥見したリティアナだったが、すぐにぴんときた。



「…あなたたち、また何か悪巧みでもしてるんじゃないでしょうね」


「そ、そんなこと無いって!」


 アベルが両手を打ち振りながら否定する。



「そっ、そうそう、ボクたちムクロを探しに地下の遺跡に忍び込もうとなんてまったく思ってないから!! …あ」


 慌ててレニーがリュリュを捕まえて後ろ手に隠そうとしたが、完全に喋りきった後だ。


 アベルは思わずこめかみを抑えた。



「なるほど」


 予想通り、リティアナが批判的な目をアベルたちに向けた。



「確かに、大したつもりじゃないんでしょうね、あなたたちにとっては」


「いや…これには事情があって」


「ふぅん? どんな事情があるのか、しっかり聞かせてもらえるんでしょうね?」


 挑みかかるような眼差しから逃げたいところだが、そうもいかない。アベルも覚悟を決めて、遺跡を探索する目的について説明した――リティアナに関する部分を除いて。



「なるほど…つまり、ムクロを探しに行くって訳ね」


「うん」


「他にも理由がありそうだけど…」


 肝要な部分をぼかされたことにリティアナも気付いているのは間違いない。



「一応聞くけど、それについて話す気は?」


 アベルは沈黙を持って応えた。


 リティアナも、すぐに聞き出すことを諦めたようだ。



「…そう。ま、それは今はいいわ。さしあたり大切なのは、遺跡へ向かうことだけど」


 手をあごに添えてしばらく考え込んでいたリティアナはやがて一度頷くと言った。



「良いわ」


「…え?!」


 一瞬アベルは「諦めなさい」と言われたのを聞き間違えたのかと耳を疑った。



「何、聞こえなかったの? 良いわ、そう言ったのよ?」


「いや、聞こえてるよ。そうじゃなくて」


「わたしが反対すると思ってた?」


 迂闊な回答をすれば気を損ねるかも知れない、そんな考えが浮かんだアベルはなんと返答したら良いか迷ってしまう。そんなアベルの表情を見て、リティアナは小さく嘆息した。



「あのね、わたしだってそれなりに付き合いがあるのよ? あなたたちがムクロのことを心配する気持ちはわかるつもり。それに、」


 一旦そこで切ったリティアナは僅かに目を細めた。



「むしろここで動かなければわたしはあなたたちのことを軽蔑してたわ。大切な同輩が行方知れずなのに動かないなんて仲間じゃないわ…でしょう?」


「じゃあ…!」


 物柔らかにリティアナは答えた。



「ええ、止めないわ。それに、わたしも一緒に行く。もし先生に見つかっても監督生のわたしがいれば多少は手助けになると思うし」


 アベルは目を見開き、口をあんぐり開けた。リュリュやレニーも、まさかリティアナ自ら同行するとは想像すらしていなかったため、驚きに固まっている。



「そんなに驚かないでよ…」


 ちょっと傷ついたようにリティアナは口を尖らせた。



「わたしを何だと思ってるのよ。わたしだって、この班の一員のつもりでいたんだけど…違うの?」


「い、いや、そんなことはないよ、勿論。ただ、その…リティアナがこういう、柔軟な対応をしてくれることに驚いたっていうかなんというか」


 リュリュが急いで補足に入ったところで、アベルもうんうんと大きく頷いて見せた。



「まあ、そういうことにしておいてあげるわ。それに、これは打算でもあるの。あなたたちから目を離して好き勝手させるよりは、わたしが一緒にいたほうが安心できるもの。それに、もしレニーたちのときのように強敵と戦うことになったなら、尚のことわたしもいたほうがいいでしょう?」


 言われて見ればその通りだ。三人では戦力に不安があるが、リティアナなら戦力としても申し分ない。



「判った。それじゃあリティアナも、今晩よろしく頼む」


「ええ」


 満足そうにリティアナも頷く。



「それじゃあ早速レニー、もう一度遺跡の詳細を聞かせてもらえる?」


 そう言ってレニーを捕まえたリティアナを尻目に、アベルは大きく嘆息していると。



「ねえ、アベル。ちょっと聞きたいんだけど」


 リュリュがふわりと目の前を舞った。


「うん? なに?」


 リュリュは席を離れたリティアナのほうをちらと見てから、声を落として尋ねた。



「なんでさっきは言わなかったの、リティアナが狙われる可能性もあるってこと。もし遺跡でリティアナのことを狙ってる相手に見つかったらまずいんじゃないの?」


「まあ…そうなんだけどさ」


 アベルもちらりとリティアナの方を確認する。



 リティアナは丁度レニーに遺跡の明るさについて確認しながら自分の杯に野薑の汁を注ぐのに注視しているところで、こちらにはまったく意識が届いていない。それを横目で見やると、アベルも小声で返した。



「もし狙われるということならどこにいても変わらないだろ? だったら、僕たちも傍にいたほうがいいと思ったんだ」


「ああ…なるほどね」


 リュリュが一瞬寂しげともつかない、何ともいえない面持ちになったがすぐに元に戻った。



「それに」


 頭を搔き掻きつづけているアベルはぎこちなくつづけた。


「今の僕が彼女を守るなんて言うのはおこがましいと思ってさ。そう思ったら…言えなかったんだ、気恥ずかしくて。いずれははっきり言えるようになりたいんだけど、ね」


「…ふぅん」


 その言葉を聞いて、リュリュの眉がぴくりとあがった。



「あっそう。そうなんだ」


「リュリュ?」


 急に冷たく、よそよそしくなったリュリュの反応にアベルは戸惑った。



「え、あれ? あの…ねえ、リュリュ、何か僕、変なこと言った?」


「ううん、別に何にも」


 そう答えるリュリュの言い方は、その実まったくそう思っていないようにしかアベルには聞こえなかった。



「そんじゃボク、あっち行くね」


 よく判らないアベルをよそにリュリュはむすっとしたままレニーの元へ飛び去っていく。



「…なんなんだよリュリュの奴、急に」


 後に残されたアベルは釈然としない気持ちを残したまま、首を捻った。


野薑のはじかみ:ショウガ科の多年草。香りが強く、根茎を野菜として食材に、或いは生薬として用いる。

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