第13話-2 <<巨大>>に<<重量>>の加速が加われば
規則的な形をした廊下の先には、また左右に規則的な形をした部屋が続いている。
それらを覗きながら――中には何も残っていなかった――細長い部屋の突き当たりを幾度と無く曲がり、道中の不規則な光の明滅とあいまって自分達がどう動いたか判らなくなりかけた頃、ようやく二人はダーダの姿を見つけた。
「ダーダ!」
小憎たらしい相手だろうと、この状況では見知った分だけまだ心強い。二人は小走りで駆け寄った。
「ん…どうしたんだお前?」
すぐそばまで来てようやくグリューたちは気付いた。
ダーダは二人に背を向けたまま、眼前の部屋の奥に向けてぐるるる…と警戒の唸り声を上げている。
「そちらに何があるんですの?」
行く手は広間のようだ。
比べ物にならないほど広いため、部屋中に道路と同様の光源があるといってもその程度の光で全体の把握をするのは難しい。それでも、じっと目を凝らすととあるものに気が付いた。
レニーたちの眼前に広がる部屋はアグストヤラナの時計塔より高い大きな丸天井に覆われていて、むしろ小さな村の中央広場と呼ぶ方が相応しい。四方にはグリューが両腕を差し渡しても尚倍以上余りある太さの円柱が立っており、天井を支えている。
中でもとりわけ目を引いたのは、正面の柱のちょうど真ん中に鎮座ましましている代物だった。
はじめは、二本の柱が並んで立っているのかと思ったが、それにしては互いの距離が近すぎる。部屋を支えているそれと比べてみて、上下に添って太さに緩急がついていることも変だ。それも当たり前の話で、よくよく見ればそれは足であり、ごつごつして見えたのは屈んでいる人を象った巨大な像だからだとわかった。
「石像…? なかなか精巧な作りだが、なんでまたこんなところに…」
興味を持ったグリューたちが見上げたまま部屋に足を踏み入れてすぐ、甲高い異音が部屋中に鳴った。同時に、しゃっと音を立てて背後の通ってきた入り口が壁に変わっていた。
「きゃっ、な、何?!」
「閉じ込められた?!」
一、二秒ほどなったかと思うと鳴り止み、またうぃーん、うぃーんと鳴り出す。三回ほど繰り返したところで、音が止んだ。
「な、何ですの一体…」
音が鳴り続けていた間、何が起こるかと身構えていたレニーたちは、結局何も起こらずそのまま不快な音が止んだことでほっと胸を撫で下ろした。
「ばうっ!!」
とそのとき、彼らの頭上の暗がりの中で巨像がゆっくりと目を見開いた。
開かれた目から放たれた光線が部屋を切り裂く。気付いていなかったレニーに触れようかというとき、すんでのところでダーダが体当たりして彼女を吹き飛ばした。
「ダーダ、何するんですの?!」
文句を言い掛けながら先ほどまで自分が立っていたところを見たレニーは言葉を呑んだ。
光が当たった床が真一文字にぐつぐつと煮溶けている。もしダーダが突き飛ばしてくれなければどうなっていたか…想像してレニーはぞっとした。
「あ、あいつ危険だぞ先輩!」
「そんなの見れば判りますわ! ともかく、ここでじっとしていたら危険です、細かく動いて相手の狙いが付けられないようにするのです!」
その指示にグリュー、そしてダーダも従う。巨像もまた、頭を動かして彼らの動きを追いながらゆっくりと立ち上がった。
「で…でけぇ…」
立ち上がると四肢だけでなく、体幹まで横に広いおかげでずんぐりむっくりした体躯に見える。だが、頭の高さが校舎より高いため威圧感が凄まじい。動きも緩慢だが、先ほどの飛び攻撃を見た後だと何の慰めにもならなかった。
「気後れしている場合ではなくてよ!」
素早く詠唱し、氷の球を作るとレニーは巨像の足元に向けて放つ。うまく命中した水球は弾けると同時に凍結し、巨像の足元をがっちり拘束した。
「よっしゃ、これなら…」
意気込んで殴りかかろうとしたグリューは我が目を疑う。巨像ががっちり捕らえたはずの氷を蹴り飛ばし、足元の拘束をあっさり吹き飛ばしたためだ。
「そんな、あっさり砕くなんて! どんな馬鹿力なんですの!?」
「は、反則だってあんなの!」
慌ててきびすを返すと、光線が飛んできた。あのまま突っ込んでいたら直撃していたかも知れない。グリューは我が身の幸運に感謝した。
その間に、ダーダがいつの間にか像の後ろに回りこんでいた。大口を開けて巨像の足に噛み付いたが、硬い音がしただけで巨像の足には罅一つ入らない。逆に噛んだダーダの方がきゃんきゃんと情けない鳴き声をあげながら引き下がる始末だった。
ダーダを追いかけるように巨像が拳を振り下ろすたび、轟音と共に硬いはずの床がべっこりくぼまされていく。その様子を上空から見ていたレニーが警告した。
「お気をつけなさいまし! あんなものをまともにもらったらただでは済みませんわよ!」
「んなこと見りゃ判るわ!!」
グリューは拳の雨を上体を屈めてかいくぐり、巨像の懐に潜って股間を狙って拳を打ち上げる。人族相手なら確実に絶命させる意気込みで放った攻撃だが、巨像にとってはわずかに凹ませるくらいしかできない。
「かぁあ、いってぇ…ちきしょう、せめて斧を持ってきておくんだったぜ」
巨像の反撃を身をそらしてかわすグリューが拳の痛みに顔をしかめながら悔しさに歯軋りした。慣れてしまえば相手の緩慢な攻撃は避けられなくもない。問題は、こちらの方も攻撃があまり通じていないことだ。
「幾ら硬いと言っても、武器さえありゃあ何とでも渡り合える自信があるのによおっ」
こうまで一方的に攻め込まれるのが腹立たしいのだろう。圧倒的不利にもかかわらず、グリューの目は闘志に燃えた。
巨像の意識が足元でちょこまか動いているグリューに向いた隙に、レニーは巨像の周囲を飛び回りながらあちこちに向けて術を放っていた。
足が駄目なら、上体に損傷を与えるつもりでいたが、巨像は多少の氷結にも動じず足元をうろちょろするグリュー目掛け拳を振り下ろし続けている。光線は自分の足を焼き切る可能性があるため使うのを控えているようだ。
「これならどうですのっ」
彼女もまた、自分の術に自信を持っているだけに拘束すらできない事実にいらだちを抑えきれない。徹底的に自分の存在を無視されていることが更に怒りを掻き立てる。
「この…」業を煮やしたレニーが意識を集中した。「一部が駄目なら、これでどう!」
これまでの小出しにしていたのとは違う、巨大な水球を作り出すと巨像の顔目掛けてぶつけてやった。
巨像は避けようともせず、もろに頭から水球を受け止める。飛散するはずの水しぶきが空中で広がりながら凍りつき、巨像の上半身を巨大な氷の網に閉じ込めた。
「うおお…こりゃ、すげえ…」
レニーの本気に、グリューも思わず感心してしまった。
「ざまあみなさい、ですわ…」
額の汗を手で拭い、レニーが誇らしげに笑うものの、すぐに引きつった。
巨像の頭が氷の中でわずかに動いたかと思うと、光線が放たれる。顔を中心にしてまとわり付いていた氷が乾いた音を立てて砕け散った。
「嘘、これでも駄目ですの?!」
驚愕するレニーを尻目に、氷を避けながらグリューが巨像をにらみあげる。
「…いや、もしかしたら…」
気付いたことの確証を求めるため、更によく見ようと大回りに巨像の周りを動くグリュー。と、彼の耳を聞きなれない、ダーダの甲高い鳴き声が突き刺した。
「ダーダ!」
グリューの目に飛び込んできたのは、先刻の氷塊の残骸に囲まれたことで逃げ場を失ったダーダに向かって巨像が拳を振り上げる光景だった。
「あのくそ犬!」
反射的に駆け出したが、今いる位置は巨像を挟んでほぼ対極にいる。間に合わないことを頭のどこかで理解していたが、それでも足はダーダに向かって動いていた。
「させるもん、ですかああっ!」
しかし、巨像の拳が振り下ろされるより先に間に合った者がいた。
槍の穂先に倍ほどもある氷の穂先を纏わせたレニーが、翼を畳んだまま突っ込むと地面に激突する寸前で翼を開いて体を捻り、勢いを殺しつつ回転してダーダの行く手を塞ぐ氷を槍先で切り飛ばす。ダーダが脱出するのにわずかに遅れて拳が氷の残骸を打ち抜き、細かい氷片に白い羽が舞い散った。
「おい、大丈夫か! 生きてるか?!」
グリューが思わず叫ぶ。
「かろうじて生きてますわ」
そう返したレニーだったが、右翼の根元を抑え顔をしかめている。
「怪我したのか?!」
一瞬迷ったものの、正直に答えることにしたようだ。
「この程度、問題ありませんわ。ただ、先ほどので少し風切り羽を失ってしまいましたの。今はちょっと、飛べそうにありませんわね」
そうきっぱり答えたということは嘘ではないのだろう。
いずれにせよ、これで状況は更に悪化してしまった。
レニーの上空からのけん制は相手の意識を逸らすのに大きな役割を担っていたからだ。自分の皮翼は小回りが出来ない以上、地面で相手を迎え撃つしかない…
「…待てよ?」
ふと、先ほどの光景がグリューの脳裏に浮かぶ。それらが過去の出来事、そして不意に浮かび出た着想と結びつき、一つの光明を為した。
「あれなら、もしかしたら…いけるかも」
そう判断したグリューの行動は素早かった。巨像の拳を避けながら、大音声に呼ばわったのである。
「先輩! 俺にいい考えがある! 手を貸してくれ! 良い考えがある!!」
「あなたがそんなこと言うとすごく不安を覚えますが…まあいいですわ。何ですの?」
すばやく近寄ったグリューが手短に作戦を説明する。意外にも、レニーはあっさり納得したようだ。
「判りましたわ。その手でいきましょう」
「…提案しておいてなんだが、いいのか?」
レニーは渋い顔をしていった。
「あなたは馬鹿で下劣で野卑で蒙昧などうしようもない愚か者ですが」
「…ありがとさんよ」
この期に及んでそこまでこき下ろすことも無かろうに…憮然とするグリューだが。
「けれど、あなたの膂力と戦いにおける姿勢に関してだけは私も一目おいていますわ。それが生かせるなら、期待する価値はあると踏んだだけのことです」
そういって微笑んだレニーに、一瞬だが毒気を抜かれて見とれてしまった。
「…お、おう」
(黙ってりゃ美人なのになぁ…)
グリューは内心で嘆息した。
「さあ、それじゃあはじめますわよ」
そう言うと、レニーは入ってきた道へ駆け戻っていく。
「よっしゃ、んじゃこちらもいくか」
その場に残されたグリューが頬を叩いて気合を入れなおすと、ダーダに向かって声を掛けた。
「おいくそ犬、もう一踏ん張りだ! 先輩があいつに気付かれないよう、俺たちであいつの気を引くんだ!」
像の拳に噛み付いて動きを止めていたダーダも、振り払われながら威勢よく吼えてその気合に応える。彼もまだまだやる気まんまんのようだ。
「へへっ、いいぜ、無事戻れたら俺が大きな骨付き肉を奢ってやる、だから死ぬんじゃねえぞ相棒!!」
グリューとダーダが大きく駆け回りながら巨像の攻撃をひきつけている間、
「後輩が頑張ってるんですから、私も頑張らなくてはなりませんわね…!」
狭い道路に隠れたレニーはすぅと大きく息を吐くと意識を集中しはじめた。
念じるのは只一つ、『大きく』のみ。
手に捧げ持った槍の穂先へありったけの魔素を集め、冷たく、硬く、大きくなるようひたすら練りこんでいく。穂先の根元に集められた魔素は、分厚くて幅の広い、重量感溢れる三日月形の刃へと形を成していった。
そうして生み出されたのが、グリューの注文した武器――巨大な半月斧だ。
「で、できたわ」
「おう、今行く!」
牽制するダーダへ意識が向いている隙にグリューが駆け足で彼女の元にやってきた。
「精一杯の力を込めて作りましたから、これっきりですわ」
今の自分に出来うる限りの魔素を込めて作ったそれを手渡し、肩で荒い息をつくレニーがへたり込んだ。
「任せろ! あんたとダーダの頑張り、決して無駄にはしねぇ!」
レニー愛用の槍がずっしりとした手ごたえを伝えてくる。しっかり武器を握り締めたグリューは皮翼を力強く羽ばたかせ、目立たないよう後ろ側からダーダに気を取られている巨像の頭上より更に高い位置まで飛び上がった。
「おい、でかぶつ。お前もいい加減暴れ飽きただろ?」
ちょうど目線の当たりを過ぎたところで巨像がグリューに気付き、体を向け直そうとするがもう遅い。
「そろそろまた眠っとけや!」
そう吐くと、前転しながら落下し巨像の頭目掛けて渾身の力で振りぬく。先ほどレニーがダーダを助けたように、遠心力を掛けて破壊力を増す――それがグリューの作戦だった。
狙い過たず、即席の半月斧がぶつかり合う力を受けて砕け散りながらも巨像の頭を真っ二つにかち割ったのを、レニーはしかと見た。
「やりましたわ!」
頭部を割られた巨像が何かきしませるような音を立てて顔を上げようとしたが、すぐに膝を付く。光を湛えていた瞳はゆっくり輝きを失い、完全に沈黙した。
「ほらよ、先輩」
そういって巨像が死んだか確認するため、ぐるっと空から確認してきたグリューが槍をレニーに返した。
「あら? 何ですのこれ?」
氷が完全に砕け散った先端部を確かめようとしたレニーが、穂先に引っかかっているものに気付いた。
掌大の黒くて四角い箱のようなものがぶら下がっている。その胴体から細長い木の枝にも似た柔らかい紐状のものが何本も伸びており、それが槍頭の付け根部分に挟まっていたのだ。
「んん? なんだこりゃ?」
手で触るのを避け、軽く槍を振り回すがしっかり食い込んでしまっているのか取れない。紐は恐ろしく柔軟な割りにやけに頑丈で、千切れる気配がまるで無い。
「さあ…少なくとも、私が術を掛けたときまではそんな物ありませんでしたわよ?」
「じゃあ、あいつの頭をぶった切ったときに引っ掛けたのかな?」
「その可能性は高そうですわね」
どこから来たかは判ったが、何なのかは依然判らないままだ。得体の知れないものを踏みつけて引き剥がすのもためらった二人は更に何度か振ってみたりしたが、どうやっても外れないので諦めて最初から見なかったことにした。
「さて、これからどうしたもんか」
腹の虫が盛大に鳴ったところで、グリューが呟いた。
考えてみれば依然自分たちを取り巻く問題は何も解決していない。どころか、疲労と空腹が加わり悪化したと言える。
「そうですわね…ん?」
腕組みして来た道を戻るかどうか悩んでいるレニーの裾を、先刻まであちこち嗅ぎまわっていたダーダが引っ張った。
「なんですの、ダーダさん。私、今思案をまとめているところですのに…あ、ちょ、ちょっと?!」
抗おうとしたところで裾がめくれそうになったため、慌てて両手で押さえつけた。
「わ、判りましたからそんなに裾を引っ張らないでくださいな! んもう、なんなんですの一体?」
半ば無理やりに引っ張られていくレニーの後ろから、グリューも怪訝な面持ちでついていく。彼の方は、ここまできたらダーダの酔狂に最後まで付き合うつもりでいた。
「ここは…あの像が座ってた場所ですわね」
ダーダの目的地は、かつて巨像が座していたところだった。
戦っていた最中は気付かなかったが、傍まで近寄るとわかる。
大理石でできただだっ広い台座のど真ん中に、今は何かの術を施したと思われる円形の陣が光を放っている。
その陣に、レニーのつま先が差し掛かった途端部屋の中に単調な女性の声が反響した。
『防衛システムが破壊されました。セキュリティの動作不能を確認。研究員は第五層プラットフォームから緊急転送陣で脱出してください。繰り返します。研究員は…』
「きゃっ?! …な、何? これ、何を言ってるのかしら?」
「さあ…なんか、そこの陣に足踏み入れてから鳴ってるみたいだけど…ああもう、うるせえな! 意味わかんねぇことごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ!」
グリューが怒鳴る…が、相手はそれを無視して同じ事を延々と繰り返し続けている。これは話にならないと、レニーとグリューは無視して陣を調べることにした。
「何の陣かしら…って、ちょっと、ダーダさん、押さないで!」
一旦遠巻きにして調べようとしたレニーを、ダーダがどんと後ろから押して陣へ戻す。それも一回二回ではなく、何度も調べるため陣から離れようとする度ダーダが邪魔をする。それを見ていたグリューはふと閃いた。
「…お前、もしかしてこの陣の中へ入れって言いたいのか?」
グリューがそう尋ねると、ダーダはわんっと勢い良く吼えた。
「…まさか、それでここから出られるとか?」
わん、ともう一声。
「…どうやらそう言ってると考えていいのかしら?」
「さあ、どうなんっすかね」
そう答えるグリューだが、その顔は返事とは裏腹に疑っていないようだ。
「まあ、どちらにしろ乗ってみたらわかるんじゃねぇすか?」
「そんな…罠かも知れなくてよ?」
尚も心配そうに言うレニーの意見を、グリューはあっさり否定した。
「罠っていうんなら、さっきの巨大な像がそれじゃねえのかな? あんな殺意高い罠を置いているんだ、殺す気なら陣なんてまどろっこしいもん置かないで落とし穴とかもっと別の罠を置くと思うぜ」
確かにと、レニーにもその意見はもっともだと思えた。
「…まあ、ここでこうしてても埒が明きませんわね。ここは全員で、同時に乗って見ましょう」
「だな。おら、クソ犬…じゃねぇな、ダーダ。お前もさっさと来い」
ダーダも一声短く吼えた。
覚悟を決め、全員揃って一斉に足を踏み入れる。中心部まで足を踏み入れたところで、陣の放つ光が一層強さを増した。
「うわあっ」
光の中、眩暈にも似た奇妙な浮遊感。レニーはそれに覚えがあった。
「…ああなるほど、これは転送陣なんですわ!」
浮遊感が最高潮に達したところで、硬かった足元の感触がこつぜんと消えうせる。レニーは体勢を崩し、その場にどしんと尻餅をついた。
「きゃうっ! うう…ここは…?」
痛さに顔をしかめながら目を数回しばたたかせる。周囲は真っ暗で、先ほどの光のせいでもしや盲いたか…とレニーは不安を覚えた。
慌ててぐるりと頭を巡らせた彼女は、背後に聳え立つものを見つけてほう、とようやく心の底からの大きな安堵の吐息を漏らした。
「やりましたわ、グリュー。私たち、助かったんですわ!」
そう言ってグリューの手を取り立ち上がった彼女の眼前には、星空を背景に見慣れたアグストヤラナの校舎が聳え立っていた。




