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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
一年目
26/150

第6話-4 作戦会議



 アベルたちが送られた先は、普段彼らが根城としている教室の倍ほども広さがあった。花崗岩を荒く削った通路は行く手に向かって真っ暗な口をぽっかり開けている。



 すばやくリュリュの《火》の天幻術によって燭台に灯りが灯された。



 薄緑の灯りに照らされる中、真っ先にユーリィンが床に耳をつける。 彼女の鋭敏な聴覚は、どこか遠く離れたところ――無論、ルークの本拠地だろう――でたむろする数十人の足音を捕らえていた。



「それって本当なの?!」


 人数を聞いてリュリュが甲高い声で尋ねるが、ユーリィンは唇を引き締め頷くだけ。



「なるほど…『班分けは六人まで』だが、この班対抗戦自体には人数制限は無い、ということか…」


 ムクロが苦々しげに吐き捨てる。班対抗戦、という名前のせいで最大人数六対六だと思い込んでいたのだ。



「相手のほうが一枚上手だったってことね」


 嘆息するユーリィンの横で、レニーも苛々と左の親指の爪を噛んでいる。



「単に虚栄心を満たすための引き抜きかと思ったら、こんなことをするなんて…なんて美意識の欠片もない!」


「奴さんの美意識が無いことには同意するけど、これはさすがに洒落にならないね…」



 ユーリィンの顔色も暗い。ここは狭い遺跡の中で、出入り口は二つだけ。力押しで進んでこられてはなす術も無い。ルークが勝ち誇っていたのも頷ける。



「リティアナがいたら、あんな奴ら物ともしないのに!」


 リュリュの憤懣やるかたない声に、アベルは小さく首を振った。



「いや、リティアナは生徒の僕たちとは立場が違うから無理だよ。でも、諦めるのはまだ早いさ」


 唯一、静かな声の主に全員が注目する。



「何か手があるのか?」


 アベルは答える代わりに燭台の灯りの届くところへ屈み込むと、懐から何かを取り出した。それは丁寧に丸められた羊皮紙で、広げた中には学府内とは違う建物の間取りが描かれている。



「これは?」


 ムクロの質問にアベルは顔を上げず答えた。



「班対抗戦の舞台になる、遺跡…つまりここの地図だよ」


「ええっ?!」


 四人の驚いた声が反響する。



「いつの間にそんな物を…?」


「昨日、別れ際にリティアナに確認したんだ。遺跡の話を聞いていて、やけに詳しかったからもしかしたら過去にも使われてたんじゃないかと思ってね。それなら地図を売ってもらえる相手がいるんじゃないかなと気がついたんだ。さすがに夜遅くだったから相手には悪いことしちゃったけど…そうも言ってられなかったからしょうがない」



 リュリュも目を丸くしている。


「でもいいの、そんなことして?!」


「いいんだ」


 アベルがきっぱり答えた。



「後でその先輩に教えてもらったけど、先輩たちの中でも目端の利く人はそうしてたそうだよ。もちろん代価は掛かったけど、相手も損にはならないし。これも『自分で考える』ってことなんだろうね」



 それに、とユーリィンが続けた。


「ルークたちにだけは文句を言われる筋合いは無いわ」



 全員の同意を得たところで、一同は地図を覗き込む。



 地図の両端に広間が描かれ(ここが各班の初期位置なのだろう)、そこから通路が延び、二股に伸びた先に部屋を経て広間に繋がっている。この構造はどちらから見ても同じだが、広間から幾つかの小部屋に通じる部屋も描かれており、これなら隠れる場所にも事欠かなさそうだ。



「まずリュリュには相手の先発まで偵察に行ってもらって、どう動いているか確認してユーリィンの情報とすり合わせしたい。音だけだとどっちからどう動くか細かいところまでは判らないからね」


 名前の上がった二人が頷く。



「後は何か、相手を足止めできる罠が欲しいところだけど…」


「俺ならばある程度はできる。狭いところにおびき出す必要があるが」


 ムクロの答えに、アベルは少し考え言った。



「いや、人数によるけど多分ムクロだけだと手が足りない。ルークの性格上ムーガンとファルシネの二手に任せ、自分は後詰めになったまま兵を送り込んでくるのは間違いないだろう。片方はムクロに任せるとしても、あともう一手が欲しいな…」


 考え込むアベルの袖を、そっと引く者がいた。



「ねえアベル。これ、使えませんこと?」


 そう言うとレニーが持ってきた袋の中身を見せ、思いついたという策を手短に語る。



「なるほど、これなら…あ、でもこの分量で足りるのかな?」


 それを聞き終えたアベルの疑問に、レニーがどんと胸を叩いて太鼓判を押した。



「大丈夫、これはいわば呼び水ですから。これくらいあればアベルが考えてることは余裕でできますわ。なんなら少し試してみて?」


 実際に試した結果、アベルは足止めが可能だろうと判断した。校庭ではまず使えない策だが、この遺跡内なら…いや、ここだからこそ十二分に発揮できるだろう。



「なるほど、これなら…よし、いけそうだ」


 大まかな構想をすばやくまとめ、地図上で指を差し戻ししつつ狙いを説明する。仲間たちからも多少補足があるも、すぐに役割を飲み込んでくれた。



「アベル、あなたよくこんなことを思いつくわね」


 作戦を聞き終え、仲間たちが感心する。珍しく素直に感嘆しているユーリィンに、アベルは鼻の頭を掻いて答えた。



「陸王烏賊との戦いがあったからね。相手の動きは常に把握し、複数が相手ならば同時に相手しないように立ち回る…あのとき目の前の陸王烏賊の動きに囚われすぎてもう一匹の動きが判らなくなってたからさ。リュリュは幸い無事だったけど、もう、あんな思いはこりごりだよ」


「…そうね。失敗は誰でもする。だけどそれをどう活かすか、よね」


 ユーリィンの言葉に、ムクロとレニー、そしてリュリュも頷く。



「よし、問題が無いようならこれで決まりだ」


 異論は無かった。



「急ごう、ここからは時間が肝になる」



 荷物を手早くまとめ、アベルが立ち上がる。


 仲間たちも、気合をみなぎらせて立ち上がった。


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