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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
三年目後期
131/150

第35話-4 急襲作戦



 翌朝、プラングウェルは、久しぶりになんともいえない落ち着かない気分で目を覚ました。



 こんな気持ちになったのは、兄夫婦をひそかに毒殺したとき以来だ。



 そういえば、その兄には一粒種の娘がいたはずだが、今はどこで何をしているのだろうか。幼い頃に一度だけ会ったことがあったが、兄嫁に似て非常に面立ちが整っていた覚えがある。



 兄の後釜に座り、王城内で自分の地盤を固めるのに奔走している間に消息がわからなくなっていたが、改めて今考えると手放したりせず飼い殺しにして、いずれ我が物としておけば良かったと少し後悔した。



「…ちっ。まあ良い、どうせ野垂れ死んでおるだろう、とっくに」


 飽きっぽいプラングウェルはすぐにいなくなった者のことなど忘れることにした。



「おい、セリラナ! 茶を持て!」


 寝床に身を起こし、胴間声を張り上げる。



 自分は勝者なのだ。いちいち敗者のことなどに気を回すことなどない。



 あの日、妙な男によって“力”を与えられて以来、冷や飯食らいとして消えていくはずだった自分はもういない。



 今はそいつの指示に従いヴァンディラの町民をささげてはいるが、所詮は雑草。雑草を処分することで大金が得られるのだからむしろありがたいことこの上ない。



 そうして得た金で、国の重鎮たちに取り入り、そして次期侯爵としての推薦を取り付けた。



 これまでも、そしてこれからも己が権勢は栄えるのだ…


 心地よい妄想は、こんこんと扉を控えめに叩く音によって中断された。



「入れ」


 その言葉に従い、家政婦長が茶器と朝食を載せた車輪付き荷台を押して部屋に入ってきた。



「ふん…相変わらず愛想のない奴だ」


 返事の無いことに気を悪くした様子も無く、プラングウェルはいやらしい視線でセリラナを上から下へと嘗め回す。



「…ん?」


 と、ふと違和感を感じ再度胸へと視線を戻す。



「…お前、そんなに小さかったか?」


 その言葉を皮切りに、セリラナはすばやい動きで杯を手に取ると中の水をプラングウェル目掛けぶちまけた。



「貴様っ…むぐっ!?」


 寝床から飛び起きるよりも先に、手足が動かないことに気付いたプラングウェルは我が身を氷が覆っていることに気付いた。今水を掛けられた際に凍らされたのだ。



「アベル! 皆! 今ですわ!」


 その隙にセリラナ――いや、彼女の女中服を着たレニーが髪飾りを放り捨てながら叫ぶ。時を置かずして、ハルトネク隊とセリラナが部屋に飛び込んできた。



「な、なんだ貴様ら…おのれえっ」


 謀られたと悟ったプラングウェルは起死回生を狙い隠していた“力”を解放することにした。



「こうなれば貴様らを皆殺しにして…」


 プラングウェルの不運は、ここで相対したのが化獣との戦闘になれているハルトネク隊だったということだ。



 飛躍的に増強した膂力で手足を拘束していた氷を吹き飛ばし、鋭くとがった爪で眼前にいる少女の喉笛をぶち抜く…はずだった。



「させん」



 しかし現実には、光の鎖と影の蔦がすばやく四肢を絡め取る。それと同時にアベルが剣先を喉元に突きつけ宣言した。



「お前の負けだ。大人しくするならそれで良し、さもなくば…」



 その落ち着いた対処に、プラングウェルは遅まきながら自分が詰んでいることにようやく気付いたのだった。


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