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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
三年目後期
123/150

第34話-5 何この茶番

ウォードに連れられ案内されたのは、メロサーの天幕だった。



「え? いいのか、ここで?!」


「ああ。まあ入れって」


 促され、天幕に入ったアベルは驚いた。



 クゥレル、ウォード、グリュー。彼らの班員は予想がついたが、パオリンの班員、そして驚いたことにムクロまでいる(ムクロは隅っこで両膝を立てて抱え座り、クゥレルたちを汚いものでも見るような目つきで眺めていた。目が合うと一瞬眉根をひそめてから哀しげに顔を背けたのが、アベルの心をひどく傷つけた)。


 そして、天幕の主であるメロサーはクゥレルと真剣な表情で何か議論していた。



「今戻ったぜ」


「ほほおーぅ、無事説得できましたーか!」


「先生まで……」


 呆れ顔のアベルに、出迎えてくれたメロサーは視線をそらした。それを見逃さなかったアベルは思い留まってくれることを信じて説得を試みた。



「というか一緒になって何やってるんですか。ウォードたちのやろうとしていることはよくないことですよ! みんなを止めましょう、一緒に!」


 その言葉にメロサーははっとする…が、黙って自分を見つめるクゥレルの冷たい視線にその細長い身を縮こまらせた。



「アベール、我輩君のその正義感にはいたく感動したのであーる。しかしながーら、彼らの難関に挑もうとする勇気にーも、我輩は敬意を示すものであーる。教師としーて、どちらかだけに肩入れすることはできなーい、と言うことは理解していただきたーい」


「……本当のところは?」


「…賭けで負けたせいで、借金で首が回らないのであーる」


 呆れた。



「ちなみにいくらなんですか」


「秘密にしてほしいのであーる」


 そういって耳元でささやかれた額に、アベルは思いっきり顔をしかめた。



 可能なら、自分がためた額で立て替えようかとも思っていたが、生憎そんなものでは到底まかなえるような額ではなかった。



 何してんだあんた先生の癖に、と頭ごなしに叱り付けてやりたい衝動を必死でこらえるアベルをよそに、メロサーはさらに吐露した。



「そして何よーり…」


「何より?」


「我輩もアルキュス先生の乳尻太ももに興味津々なのであーる」


「あんた何してんだよ!」


「だって…我輩も見たかったんだもーん…」


 教師としての面子を立ててやろうとしたアベルの我慢はあっけなく潰え去った。



 仲間になってくれるかもしれないという期待をあえなく裏切られたアベルが肩を落としたところを見計らい、クゥレルが口を開いた。



「さて、こうして最後の仲間も納得してくれたところで具体的な作戦について話していきたい。各自静聴するように!」


 それからの議論は、実に理路整然とした美しいものだった。同じ目的のために動いている、ということが一同の思考を纏め上げたが故だろう。



 作戦は実に簡単なものだ。



 この場にいる大人数で全員揃って覗きをするなど、見つけてくれといわんばかりの自殺行為でしかない。



 ならば、選りすぐった精兵を送り出し、彼らによって遠見の水晶が映像を捕捉できる距離まで近づく。後はそこに水晶だけ残して帰り、自分たちが入浴の番になったときそれを回収する。



 まさに理に適った作戦と言える。


「ただし、一つだけだと角度によって見えなかったり、あるいは設置者が辿り着けなかったりする可能性を考え、複数を用意することにした…ここへ」


 そこまで説明したクゥレルがグリューに顎をしゃくる。頷いたグリューが傍の荷物から、手のひら大の水晶球を五つ、取り出した。



「あなたたーち、物見の水晶球五つなど…かなりの高額のはずでーす! これは一体どうしたのですーか?!」


 驚きを隠せないメロサーに、ウォードが鼻を擦りながら楽しそうに言った。



「この日が来ることを信じ、俺とクゥレルの班で少しずつ貯めて買ったんです」


「それと、賭けの元締めで稼いだ金もな」


 その言葉に、メロサーは目を潤ませた。



「つまーりぃ、我輩の金ーは、無駄にはならなかったんですーね…」


 そんなメロサーに、クゥレルが爽やかに笑いかけた。



「出資してくれた先生もその資格はある…でしょう?」


「ぐずっ…我輩ーぃ、感動で目の前がみえませーん。いいでしょーう、あなたたちの覚ーぅ悟、我輩も受け取りまーした」


 目じりを拭いながら、メロサーが水晶球の一つを手にとった。



「きっと無駄にはしませーん。我輩の命に代えてーも、必ず作戦は成功させまーす」


「先生なら百人力だ。ぜひそれはお任せします」


「…いや、何この茶番…」



 力強く頷く男たち。一方で彼らを見やるアベルとムクロの視線は氷点下を下回った。



「それと、ウォードと俺とグリューも出る。これで四つだが、残り一つは…」



 他の人を指名される前に、アベルが手を挙げた。


「僕も出るよ」

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