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アグストヤラナの生徒たち  作者: Takaue_K
三年目後期
117/150

第33話-5 若い頃はやんちゃでした



「ほぉ、そんなことがねぇ…」


 校長室で、お土産を細くしなやかな指で摘みながらアルキュスが報告を受けていた。



「ま、とりあえずこれで当面の懸念は拭えたってところだね。それはよかったよ」


 そう言って手にしていた干果をむしゃりとやる。橙柿と呼ばれる実を干したものだそうで甘みが強く、なるほど爽やかな渋みのあるセイゲツの茶によく合う味をしている。



「うむ。それに今後も交換留学をできるようにすれば、色々お互いに見えなかったところが見えるじゃろうしな。生徒の成長にとってもいい機会じゃったよ」


 そう自画自賛するデッガニヒ。そんな彼に、ユーリィンが思い出したように呟いた。



「しかし、師匠強かったのねぇ。あれには驚いたわ」


「お前…見ておったというておったではないか」


「そりゃあ見てたけど、ああまで地力が違うとは思わないじゃない。鍛錬は鍛錬、実践とは別だもの」


「ああ、まあ普段のこいつを見てりゃそう思うのも仕方ないねぇ」


 口の中のものを飲み込んだアルキュスが頷いた。



「けど、元々こいつは強いからねぇ。何せ、ガンドルスとよく模擬戦してたし」


「え?!」


 アベルたちは一様に驚いた。



「前にも話さなかったっけ? こいつは、ガンドルスに宿敵と言わしめた力量の持ち主だよ。もともと敵国で従軍してたんだ。何かに気兼ねしてあまり表に出たがらなかったから名は知られてないけど…ああそうか、弟に遠慮してたんだね?」


 そういうと、デッガニヒはむっとしたように顔を背けた。



「ま、それはさておき、色々あってガンドルスがかき口説いた結果こいつはこうして学府に来たのさ。あいつとしては副校長に据えたかったらしいが、当時すでにドゥルガンがいたのと、窓口にこそちゃんとした“目”を持ってる奴を起きたいってことで船頭を担当してもらってたのさ。ちなみにあの髭達磨が元気だったころは、ちょくちょく気晴らしを兼ねて決闘もしてたっけ。わざわざ奉納してあるカタナを引っ張り出してね」



 あ、とユーリィンが小さく声を上げた。


「じゃあ、あの時師匠が武器庫に来たのは…」


「…まあ、そういうことじゃ」


 おそらく、その日も決闘するつもりでいたのだろう。



「それにしても、ガンドルスに無理やりつき合わされておったのが今回は功を奏したわい。こればっかりはあ奴に感謝してもよかろうな」


 最後の方は照れくさいのか、やや早口になって独り言ちている。そんなデッガニヒを、一同は和やかに見つめていた。



「ところで、今後はどうするつもりですの?」


 茶を飲み干したところで、そういえばとレニーが話題を切り替えた。



「うむ。まず、改めて陽動作戦に参加する国、軍の確認を行うことになるじゃろう」


 デッガニヒがあごをさすりながら説明する。



「そのため、各国や軍、また他の学府との調整に集中することになるな」


「どれくらい掛かります?」


 リティアナの疑問に、デッガニヒはしばらく暗算してから答える。



「そうじゃな…ざっと一週間といったところか」


「短いような、長いような…中途半端な時間だね」


 リュリュの言葉に、デッガニヒは頷いた。



「まあ仕方あるまいて。ある程度は転送陣などを駆使することで緩和できるじゃろうが、それでも不測の事態は十分あり得る。この計算は、長くなることはあっても短くなることは無い、その程度に把握しておいてくれ」


 つまるところ、最低でも一週間の空きが生まれることになるわけだ。



「そうなんだ…それじゃあ、その間どうしてようかな?」


 アベルの呟きに、アルキュスが答えた。



「これは元から決まってたことだけど、あんたたちに限らず三年の生徒で今回の作戦に出る予定の班は、代休としてこの一週間各自に休暇が与えられることになってるよ。その間は国許へ帰るなり、大切な奴と過ごすなりのんびりしてきな。伸びたらまたそのときに考えたらいいさ」


 つまり、その間に戦いに向けて覚悟を決めろということなのだろう。



「アベル、そして諸君。君たちは今言われたように、悔いの無いように休暇をすごすとええ」


 最後にデッガニヒが締めくくり、こうして報告会はお開きとなった。


橙柿:カキノキ科の1種の落葉樹、及びその実の名称。果実は渋みを多く含むためそのままでは食べられず、熟すまで干すことで甘みを得ることができる。セイゲツにおける貴重な甘味であり、それだけアグストヤラナ生徒に対し敬意を表していることの現れでもある。

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