第29話-8 気遣いができる女(自称)
話は再び入浴中の二人に戻る。
「…ということがあったのよ。だからあんたもうかうかしてらんないわよ」
「ふ~ん、なるほどねぇ…ん?」
黙って聞いていたリュリュはふと気づいた。
「あれ、でも今の話にユーリィンぜんぜん絡んでないよね? 何でそこまで詳しく知ってるのさ?」
その問いに、ユーリィンはにたりと笑った。
「いやぁ、たまさか保健室の外を歩いていたら聞こえてしまいましてね? ほら、あたくし耳がいいもんでございましょ?」
「……うわぁ…」
自慢げに答えるユーリィンに、さすがのリュリュもどん引きした。
「…あ、でも今の話は内緒にしてるんだよね? ボクら以外には誰にも話してないよね?」
「もちろん」
ユーリィンは胸を張った。
「こんな面白い話、黙ってるわけないじゃない! 微にいり細にいり、クゥレルやウォードたちにも教えてあげたわ! あ、もちろんはじめての恋心についてだけはさすがに伏せたけど。気遣いができる女って、素敵だと思わない?」
「うわぁ…こいつ、人として最低だ」
リュリュはつい先刻、彼女を最高の親友だと思った自分の不明を恥じた。
「なぁに言ってんの、こういうことはばらさないと駄目なのよ」
「何でさ! ムクロすごい悩んでたんじゃん?!」
あっけらかんと、ユーリィンはリュリュの主張を否定する。
「だからよ。当人にとっては悩んでることだからこそ、周りのあたしらが気にしてどうすんの。気にしないで以前どおり受け入れる、それが大切なのよ」
そう答えるとユーリィンは湯船から立ち上がった。
話の終わりに併せて出るつもりなのだろう。
「はぁ……そういうもん…なのかなぁ……」
まだ釈然としない面持ちのリュリュに、ユーリィンがきっぱり答える。
「そういうもんなの。お姉さんのことを信じなさいってね」
「でも、実のところ面白半分でしょ?」
「違うわよ!」
ユーリィンが即答する。
「全部興味本位!」
満面の笑みのユーリィンに、これまた同じく満面の笑みを浮かべリュリュも返した。
「うん、知ってた」




