表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メガデレラ!  作者: れんか
2/7

2.グレイビーソースは和風でした






 ようやくお継姉さま方のダンスの相手を無事に見繕えて、ほっとひと安心。どこからも死角になるような場所はないかしらと探しつつ、つかの間の休息に庭に出た。

 優雅に流れるワルツを聴きながら、パーティで出されていた料理をお皿にこんもり盛りつけて、ホクホクと舌鼓を打つ。

 まぁ、美味しいわ。生ハムで作ったユッケなんですって。

 

 ほら、生肉って色々と危険じゃない? 昔はそれでも生肉でユッケを出していたみたいなんだけど。でも食べたい欲はどうしようもない。ってことで、生ハムで作ってみたんですって!

 ちょっと厚めの生ハムを短冊に切って、ごま油とコチュジャン、ゴマとお醤油で和えてるの。こっそりレシピを聞いてきたのよ。あとはキュウリやカイワレや玉ねぎなんかと合わせて食べると、すっごく美味しい。

 

「玉子の黄身がまた合うわねぇ」

 

 モグモグ食べながら、社交パーティーの裏の部分をひっそり眺める。

 

「例のブツはいつ届く」なんて物騒な会話とか。

「ああ。貴女にお会いできて夢のようだ」なんて膝を着く男性とか。

「あんな男に気を許すなんて、お嬢様にはまだまだ躾が必要ですね」とか言って酷薄に笑う男性とか。

 

 死角に座って、モグモグ食べてるわたしに気付かず時折訪れる、人を観察する。『例のブツ』が実はハゲの特効薬だったり、こないだは別の人を口説いていた男のセリフが毎回同じだったり。執事と令嬢の秘められた恋なんかも、このぐるぐる眼鏡でまるっとお見通しよ。

 

 今度は子羊の香草焼きにかぶり付きながら、それらを眺めるのがわたしの密かな楽しみだった。ぐるぐる眼鏡で色んなものを見ながら、お母様はどうしてこれを使わなかったんだろうって思う。

 だって相手の本音が見えていたら、悪い奴らに騙される事なんて無かったのに。

 

『愛する人に出会える眼鏡よ』

 

 弾けるような笑顔でこれを渡してくれたお母様を思い出す。眼鏡を外して、そのグルグルとした渦巻きをみつめた。

 

「お母様、これが何なのか知らなかったのかな……」

 

 本音が見える眼鏡なのに、恋のおまじないアイテム的なものだと思ってたのかも。多分、通販で騙されて買ったんだろうと思う。ふと月を眺める。綺麗な満月ではなくて、これから欠けてゆく十六夜の月。

 

「……」

 

 お母様が病気になって心細くて見上げた夜空にも、浮かんでいた大っ嫌いな月の形だ。

 

「綺麗な月夜ですね」

 

「!!」

 

 うわっ! びっくりした。不意に掛けられた声に、心臓が飛び出しそうなほどに驚いて慌てて眼鏡を掛けて声の主の方を見る。トウモロコシの髭のような金の巻き毛に、すらりと高い背の男性。所作を見るところによると、そこそこの身分の人ね。

 

「欠け行く月に想い馳せながら、僕とワルツでも踊りませんか」

 

「申し訳ありません。踊りません」

 

 付け合わせのジャガイモをもぐもぐもぐもぐぐとしながら、口に手を当てて答えた。

 艶やかな声で謳う様にダンスを申し込むその男性はーーチョビ髭の鼻眼鏡をつけていた。しばらくその男性は思案した後、チョビ髭をフルフルさせながらこう告げた。

 

「そうですか。ではここで僕に押し倒されて処女を失うのと、ワルツを踊るのと。どちらになさいますか」

 

「ひっ!」

 

 “ハンバーガーセットにナゲットはいかがですか”

 そんな口調でその鼻眼鏡は、恐ろしい事を言ってのけた。しかも何が怖いってこの人、ぐるぐる眼鏡で見ても彼の本音が見えないのよ。こんなこと初めてだわっ!

 

 ーー変態さんだわ!

 

 ぐるぐる眼鏡で見なくても、きっと同じ感想を持つと思うの。変態には近寄るな、そう自分の本能が告げている。

 今度はもごもごとローストビーフを頬張る。柔らかくて美味しい。この付け合わせの緑のものは、クレソンじゃなくて空豆の豆苗なんですって。空豆の豆苗って初めて食べたけど美味しいわね。今度ウチの菜園でも試してみましょう。なんて考えつつ、どうしたものかと考える。

 

「……グレイビーソースが和風なので、ご飯ものが欲しくなりますわね」

 

 口から出たのはそんなセリフだった。

 

「貴女の望みのままに」

 

 そんなことを言ってどこかに行ってしまった彼は、パラパラレタス炒飯を持ってきてくれた。

 

「まぁ、ありがとう」

 

「こちらは熱いので気を付けてください」

 

 なんとそのチョビ髭鼻眼鏡紳士は、フカヒレ入りの玉子スープも一緒に持ってきてくれた。

 なるべく彼を刺激しないようにひたすら食べ続け、食べ終わる前に他の料理を持って来させる案で、対処した。継母達の帰宅の時間になったので、お礼を言って別れたのだけれど。

 

 なぜか社交界のパーティの都度、その鼻眼鏡と出会ってしまっていたのだった。

 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ