9話 『ネーア、空を舞う』
―前回までのあらすじ―
モ〇ハン始まった
===[ミネルバの町]入口前===
「どおおらァ!!!」
「うおおおおおおお!!!」
神殿から直線距離でおよそ500m。
傭兵、冒険者、休暇中の兵士など町の戦える者ほぼ全員が、降りてきたドラゴンと交戦している。
戦況はほぼ互角・・・しかし、総出でなんとか拮抗しているという状態だった。
「クソ……このままでは長く持たん!誰か救援要請を!」
メルオンは、誰かを伝令に向かわせようと後ろを振り向く。
瞬間、その光景が、メルオンの目を丸くさせた。
「……はっ?!」
とてつもなく大きな半透明の青い物体が視界を覆いつくし……
――町の4分の1が消えてなくなった。
「ちょ!?は!?どうなってんの!!???」
ネーアは遥か上空を落下中。一体なぜ?
それはわずか数十秒前、意気込み新たにドラゴンに向かっていった時のこと。
「一狩り行こうぜ!!!」
ネーアがそう叫んだ瞬間、頭の上にいたスマが勢いよく飛び上がる。
『シャー――ッ!!』
スマは目を赤くして飛び上がると、もりもりとその体を大きくしていく。
そして大きくなっていくスマの体に、何故か吸い込まれることなく跳ね返されて今に至る。
スマはベチャッと町を溶かしながら潰れ気味に着地して、その額?部分に落ちてきたネーアがしがみつく。
「スマ!どうしちゃったのさ!?」
『シャー!なんか燃えてきたニャ―!!』
「ちょっと!気をつけろよ!?下人いるんだからな!!!」
ドラゴンの方へとぶよぶよ進んでいくスマ。
スマが近づいていくにつれて、ドラゴンと戦っていた町の人々は各々逃げていく。
「な、なんだってんだ!!」
「町がああー!」
「あれは味方なのか!?なんなんだよ!!」
「あれは………嬢ちゃん?」
メルオンはスマの上にネーアが座っているのを視認すると、その場で立ち止まって剣をしまう。
「するとこれは……嬢ちゃんといたスライムか!?なぜここにいる……」
『ニャニャニャニャニャー!!』
雄たけびを上げ、スマはドラゴンに特攻していく。
スマに触れた部分が、ジュウジュウと焼けるような音と煙を発しながら少しづつ溶ける。
「ギャガアアアアアああああ!!!」
ドラゴンが抵抗しようと左前足を振りかぶると、そのひと振りはスマの頭上をかすめるが、丁度そこにいたネーアにクリーンヒットして彼女を吹っ飛ばした。
「譲ちゃん!!!」
メルオンが飛ばされたネーアを助けに走りだす。
そしてそれと同時に、ぐいぐいと体を押し付けてドラゴンを溶かし続けていたスマに異変が現れた。
ブルブルと震えながら見る見るうちにスマは小さなっていく。
そして元の大きさに戻ったスマは、ドラゴンに踏みつぶされてしまった。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
次にドラゴンはその大きな口を開くと、走っているメルオンめがけて何発もブレスを吐く。
メルオンはそれを巧みによけながら、落下してくるネーアを間一髪で抱きかかえた。
「嬢ちゃん!!大丈夫か!?」
ネーアは頭から血を流していて、骨もいくつか折れているようだった。
無論、意識もない。
そして止まって抱きかかえたところに、ドラゴンが踏みつぶそうとその足を向けてくる。
―ガキン!!
寸でのところで、スマの巨大化で退避してかけていた町の人間が駆けつけると、振り下ろされた足を10人がかりで受け止めている。
「オッサン!早くその子を!!!」
「……ああ!すまない!!」
メルオンは一言短く言って町の方へとひた駆けていく。
ひとまず近場の物陰にネーアを寝かせると、応急用の包帯をポーチから取り出し、彼女の額に巻き付ける。
「ん………」
ネーアの意識が戻る。
「嬢ちゃん!しっかりしろ!!」
「この…声……メルオンさん?」
「おうそうだ!!なんで出てきた!!君はまだ戦えないだろ!」
「神官さんに、頼まれちゃって……ははは」
「神官殿が!?一体なにを考えてるんだあのじいさんは……」
「スライムと話せるボクなら……ドラゴンを溶かせるって……!そうだ!!スマは!?――痛ッ!!!」
スマがいないことに気が付き飛び起きようとするネーア。
しかし直後に激しい痛みが頭を貫いて、再び横になる。
「今は寝てるんだ。あのスライムは……ドラゴンにやられた」
「な!なんでですか!?大きくなったスマの溶解液なら負けるなんて……」
メルオンは首を横に振る。
「君がドラゴンになぎ払われたすぐ後に、元の大きさに戻ってしまったんだ。そのままプチンと、やられてしまった」
「そんな…………」
「…………」
ネーアは表情を暗くすると、しばらく黙り込んで口だけを動かしている。
メルオンはそのネーアを見てせめて慰めの言葉をと、口を動かす。
「嬢ちゃん……その」
「メルオンさん」
言葉を引き出そうとした瞬間に、ネーアがはっきりとした声でその名を呼ぶ。
「ボクを、ドラゴンの背中かどこか……触れていられるところに連れて行ってもらえませんか」
「は!?何を言っているんだ!」
言葉の意味が解らないという態度を示すメルオン。
ネーアは目の前に自分の手をかざすと、手の平を見つめながらドラゴンに飛ばされた時のことを話す。
「あの時・・・あのドラゴンの手に飛ばされた瞬間。そのほんの一瞬だけなんですけど……〝声〟が聴こえた気がするんです。もし、スマと同じようにあのドラゴンと話ができたら……」
「ふざけるな!そんな体で、許せるわけないだろう!!いいか?君は戦えないんだ!このまま神殿につれていく!いいな!?」
「お願いです‥!一回、一回だけでいいんです・・!どの道このままじゃあ町は持ちません!メルオンさんもわかってることでしょう……!!」
ネーアは軋む体で必死に頼み込む。
メルオンはネーアの肩をつかみ、真剣に目を合わせて言う。
「いいかネーア。確かに俺たちだけではそのうち崩れるだろう。だが今援軍も要請している。それまで持ちこたえればいいんだ。もう一度言うが君は戦えない、招いた客人をみすみす死地へ行かすやつがあるか!」
ネーアはそれを聞いて、メルオンから目をそらす。
――が
「一回だけだ」
「!!」
「本当に君がドラゴンを相手に話せるというのなら、やってみせろ。オレが手を貸すのは一度きりだ。失敗したら、オレら全員で斬り込む」
メルオンは肩から手を放すと、立ち上がってネーアに手を差し伸べる。
ネーアはしばらく間をおいて、何とか動かせる右手で彼の手を取った。
「……ありがとうございます!」
「何、気にするな。オレたちだって、無駄な殺生はしたくないしな……期待してもいいんだな?」
「はい!!」
ネーアの返事を聞いて頷くメルオン。
そのまま彼女の肩を取り支えると、神殿の方を見て声を上げる。
「メリィ!いけるか!!」
「おっけーご主人!いつでも送れるよ!!」
メルオンの頭の中にメリィの声が響く。
「よし。譲ちゃん、乱暴になるがそのくらいは許せよ!」
「へ!?乱暴ってどういう」
「ありったけっだ!魔力送ってくれ!!」
「合点さー!<<マナセンド>>ー!!」
二人のやり取りとともに、神殿の方から一筋の光がメルオンに降り注ぐ。
メルオンはその光を腕に集中させると、背負っているネーアの腰をつかんで両腕で振りかぶる。
「え!?え!?」
嫌な予感しかしないネーアをよそに、メルオンは雄たけびをあげ……
――彼女は再び、空を舞った。
つづく