77話 『やらなければならないこと』★
お待たせしました!
先週はどうしても筆が乗らず……申し訳ない!
「願いを……」
「叶え……られない……?」
「何言ってやがるテメェ!!」
ネーアも含め、砂漠にしばしの静寂が訪れた。
レルレ以外の皆が見せるのは、全く同じ〝困惑〟の顔。
場の誰もが……ネーアでさえも、レルレの言うことを全く理解できていなかった。
「意味……わかんないよ……だって」
「わからないことはないさ。君は理解するのを拒んでいるだけだろう? だって見てきたんだからさ」
「で、でも……!!」
「じゃあ言ってあげよう。僕の願いを叶えるってことは〝世界を滅ぼす〟のと同義。君自身の〝勇者になりたい〟という願いとは対極にあるじゃあないか」
ネーアが願う勇者とは、某JRPGよろしくやがて世界を救う者。世界を壊すなどもっての外だということはわかる。
しかし違う、そうではないのだ。ネーアがレルレに対して聞きたいことはそんなシンプルな答えではない。
「そうじゃない……。あの中で……エトナが言ってたんだ。世界を壊すことは、世界を滅ぼすことと同義じゃないって。お前なら、その意味が分かるのかと思ってた……」
「……嬢ちゃん?」
こうして渦から出てきて、あらためてレルレと話して分かったことがある。
エトナとレルレ――切っても切れない、同じ記憶を所有する関係にある二人は確実に〝別人〟であるということ。
渦の中で聞いたエトナの話は正直言ってよくわからなかった。
しかし彼女の話の中には、確かな温もりというか、人間臭さというか……そんな感情を見ることができた。
対してレルレは違う。
彼女の話はどこか機械的で、そこに感情はあるのだけれど、本当のところは何も感じていない。何もかも……この世界ですらどうでもいいと思っているような、そんな気がしてならないのだ。
「レルレ……お前が何を思ってそんな願いを持ったかなんて知らない。何千年も生きて、その結果の答えだとしたら、ボクの考えなんて遠く及ばないモノなんだと思う」
「…………」
「……だからボク、決めたんだ」
「……言ってごらん?」
レルレが興味深そうにネーアの回答を待つ。
考えてみれば、決めたというのもおかしな話だった。
なぜなら、はじめから答えは一つしかないのだから。
魔大陸に来て、色々なものを見せられて……ここに来てからだけじゃない。
この世界に来てから今に至るまで……その過程で、少し難しく考えすぎていたのかもしれない。
ほとんど何も進んでいないにもかかわらず、変にこの世界の歴史に触れて……仕方がないことだったとはいえ、大事なことを忘れては本末転倒だ。
そう、最初から何一つ変わっちゃいない……やるべきこと。
「ボクは勇者になる。その中で面白いものもみつけて……世界も壊す」
「なっ……!?」
「ネーア!? 何言って―――」
「意味わかんないさー!?」
意味が分からない。
そんなことは言っているネーア自身が一番よく解っている。
それでもやるしかないのだから、やらねばならない。
「へぇ……面白いこと言うねぇ。嫌いじゃないよ、その答え」
「でも滅ぼしはしない」
「どうやって?」
「それは……これから考える」
正直そんなことができるのかはわからない。
自信がないと頭をうつむかせかけるネーアにレルレは不敵な笑みを返し、少し距離を取ってから茫然と二人の話を聞いている他の面々を見た後に、再びネーアへ向き会う。
「せっかくだ、試しに聞いてみようか」
「……何?」
「そこでただ聞いてる君たちのために説明をしよう」
「なっ……!?」
「いい加減僕を攻撃しようとしても無駄なのは分かってると思うから、おとなしく聞いてくれよ」
レルレはそう言って再びメルオンたちを見ると、右手をアレルの方へ向け、パチンと指を鳴らして見せる。
すると彼は光の縄のようなものに縛られ、身動きが取れなくなってしまった。
「オイ!! ナニしやがるテメェ!!!」
「下手に動こうとしたら彼みたいになるからね。一応言っておくけど、その縄僕の意思で爆発させることもできるから、あんまり僕の手を汚させないでほしい」
「……何を今更……!!」
グルッドが呟くとレルレも彼の方をちらっとだけ目を向けるが、すぐに正面を見て話を進めた。
「さっきの渦はね、世界の果てによく似ているけれどまったくの別物。この世の欲望と念を繋ぎ、触れた者に『真に求めるべきもの』を映し出す。簡単に言えば、今ネーアは召喚者として答えを見ていたわけさ。彼女が叶えるべき、求めるべき欲望をね」
「叶えるべき……」
「願い……さ?」
「そう、ネーアの使命は五つ。
メリィの話し相手になること。
そのスライム……スマだっけ? その子が面白いと思えるものを探すこと。
中間テストからの逃避。
彼女自身が勇者になること。
そして……世界を壊すこと……おや? どうしたんだい」
レルレがそこまで言い終わると、ふとネーアの顔を見て疑問を立てる。
ネーアはなぜか顔を両手で覆い隠すようにして、まるでなにかに耐えてるかのようであった。
「いや……だって……なんか……超恥ずかしい……」
こうしてよくよく聞いてみると、した二つの願いが場違いに思えるほどに、上三つの願いがしょうもなさすぎる。
話し相手って……テストって……下二つにしたって中二病全開かよ!!
ああ恥ずかしい……穴があったら入りたい……。
ちらりとバタシたちに目を向けてみると、どうやら隣にいるメリィも同じように顔を覆い隠しているようだった。
「アラアラメリィさん! そんなに気を落とさず二ぃ」
「慰められるとなおさら恥ずかしいさぁ……うぅぅ」
「メリィ。君の願いはもう叶えられた。というか、上三つはどうでもいい……君たちはできると思うかな? 勇者になり、世界を壊すということが」
レルレはいたって真面目な表情で、その場にいるネーア以外の面々に向けて問いかける。
しばしの静寂が場を支配し、レルレはじっと誰かが回答をするまで待っていた。
「……無理、でしょうね」
「ほう。どうしてだい?」
始めにそう言ったのはアネラ。
彼女は体を起こし立ち上がると、ちらりと戸惑い気味のネーアを見てから話をつづけた。
「勇者はそこのがきんちょがそうなんでしょ? 世界を壊すって言うのも、人一人……それもネーアみたいな子ができることじゃない……と、思う」
「アネラ……」
「フツーに無理でイイだろうがヨ!! ソイツにそンな力はねェ」
(あのアマ……後で殺ス)
「アレル」
「ふむ。若手の意見は無理だってよ」
「…………」
当然と言えば当然。
現実的な意見を言えばそうなるだろう。
普通は無理だ。言った自分にすら、やれるかどうかなんてわからないのだから。
ましてや勇者があらかじめ存在する世界でその座を奪うなど、一体どうしたらいいのかさっぱりだ……世界を壊すことよりも難しいかもしれない。
「それでも、ボクは―――」
「オレはやれると思うぞ」
「――――!!」
ネーアの声を打ち消すかのように、芯のこもった力強い男声が耳に入る。
レルレはその声の主――メルオンへ向き、立ち上がる彼に向かって表情を緩めながら言う。
「無理だって言ってるし僕も現実的に考えればそう思うけど、君は本当にできると思うのかい?」
メルオンは静かに足を動かし、レルレの目の前……ネーアを護るかのようにして立ちふさがると、レルレの目をしっかりと見て、言ったことが本気なのだと伝える。
それにレルレは同じくメルオンの目を見て応えると、穏やかなため息をついた。
「やれやれ。君のようなヤツが、世の中では英雄と呼ばれるんだろうね……かつてのレヴのように」
「……何が言いたい」
「いいや。 聞こうじゃないか、メルオン……君がそう思う理由を」
レルレはそう言いながら、もう一度じっとメルオンの目を見つめる。
メルオンはレルレとの距離を少し開けると、深く深呼吸をし――真っ赤な空を見上げながら口を開いた。
つづく
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