8話 『一狩り行こうぜ』★
―前回までのあらすじ―
世界の果てマジヤバくね
「ど、ドラゴンだと!?一体どうなっておる!」
「わ……わかりません!!報告によれば大国……東の方から飛んできたと!もう数分でこの町まで来ます!!!」
「大国がこの町に攻撃を……?一体なぜ……」
考えようとする神官を裏腹に、メルオンは急いで報告に来た男へ言う。
「考えてる時間はない!!非戦闘員は神殿に集めろ!!!戦える奴は全員、町と神殿を死守するんだ!!!いくぞメリィ!」
「合点あいさー!」
そう言い残して二人は上へと駆け抜けていく。
男もあとを追っていくが、神官は相変わらず頭を悩ませ続けていた。
ネーアはどうしたらいいかわからずオドオドしている。
「え、えっとボクは……」
「おぬしはここに居ればよい。その様子だと、戦えはせんのじゃろう?」
「で、でも……」
何かできることはないか?という思いも確かにある。
だがしかし、ネーアの頭の中はもっと単純明快な男の子だ。
――ドラゴンとかいたら絶対生で見てみたいじゃん!?
ただそれだけである。男のロマンである。
だが見てみたい一心だけで行動して、死んでしまっては元も子もない。
「ぐぬぬぬ……」
心に従うか、踏みとどまってここにいるか。
この世界に来てから一番といっても過言でないほど悩んでいると、頭の上でプルプルとスライムが震える感触が。
『ふニャあ~。よく寝た気がするのニャあ』
「お、おはよ……そういやいたっけな。完全に忘れてた」
『にょにょ!忘れてたとは失礼なのニャ!!詫びマンマを要求するのニャ!!』
「詫びマンマってなんだよ!って、おい?変なことするなよ!?」
スマは幸せそうな顔をしながら、目の前にあったネーアのアホ毛にはむはむとかじりついている。
ネーアは頭を振ったりアホ毛を手で払ったりして必死に抵抗する。
「おぬし……何をしとるんじゃ?」
二人のやりとりを目を丸くして眺めている神官。
改めてネーアの頭に乗っているものをよく見ると、それが何かようやく理解した神官は驚愕の色を見を見せた。
「おぬし!それは魔物ではないか!?何故ここに魔物がおる!!」
スマを滅しようと臨戦態勢になる神官を見て、ネーアは焦って弁解しようとする。
「待ってください!!こいつは悪い奴じゃないんです!大丈夫ですって!!」
『そうニャ!にゃあはそこのじじいにも詫びマンマを要求するのニャ!』
「ちょっとスマ!流石にじじいは失礼じゃないか!?」
神官は渋々臨戦態勢を解くと、ネーアにひとつ問いかけた。
「お、おぬし……その様子はまるで………スライムと会話をしているとでも・・・?」
「へ?」
その言葉を聞いて、ネーアは一瞬フリーズしたように静止してしまう。
この人にもスマの声は聞こえていない・・・?
ということは、普通の人には魔物の声が聞こえないのか。
自分にしか聞こえないのか、何か特殊な能力や器官が必要なのか。
いずれにせよ、人前であまりスマと話すのは控えようと心に決める。
「いえ、そのこれは……あははは」
「そのスライムと心を通わすことができるということじゃな!?」
神官がぐいぐいと押しよってくる。
「え、ええ……まあ」
ネーアが若干引き気味にそう答えると、神官はそれまで険しくしていた顔をまるで生気が宿ったかのような力強い顔つきにする。
「よし、おぬしに任せよう」
「はっ!?」
突然の抜擢に、驚きと動揺を全面に押し出して声を上げるネーア。
「戦えぬおぬしを前線に送り出すのは不本意ではあるがな……スライムの性質を生かすんじゃ。心を通わせられるおぬしにしか頼むことはできん」
スライムの体の中は、あらゆるものを溶かす溶解ジェルになっている。
スマとコミュニケーションが取れるネーアならば、確かに理論上はドラゴンを溶かすことで勝つことができるハズ。
ただしそれは、スマが力をコントロールできることを前提での話だ。
「神官さんその……こいつは力が」
「とてもではないがドラゴン相手に町の者だけでは太刀打ちできん!先程までの無礼は詫びよう・・・お願いじゃ・・・町を、救ってくれ!」
必死に頼み込む神官の目には、微かだが涙さえ浮かんでいた。
「え……ええ………」
どんどん断りにくくなってくる。
だがしかし?リスクは大きいけれど受ければドラゴンが間近に見られる。
次にいつそのような機会が訪れるかもわからない。
――そもそもそういう世界にあこがれて来たのではないか!
ネーアは次第に好奇心が膨らんで行って、半ば開き直ったような思考に陥っていた。
「わかりました……そこまで言うなら、頑張ってみます!」
ネーアはそう言って階段を駆け上がっていく。
続いて神官も部屋から出て再び鍵を閉めると、天を仰ぎ祈るように目を瞑る。
「頼んだぞ」
===[ミネルバの町]神殿前===
「ありゃあ……まだ子供なんじゃねえか!?」
メルオンは迫りくるドラゴンを遠目で見ている。
この世界において、ドラゴンは珍しいが全く見ないものではない。
運が良ければ親子で飛んでいるさまなども数年に1度は見れたりする。
今この町に向かってきているドラゴンは、そんな子供・・・成体の大よそ半分程度の大きさであった。
「だとしてもだ、この町じゃかき集めても精々100人ってとこか……キッチィ仕事だなおい!なあメリィ!!」
「ほんとだよさ、オイラあとでネーアに謝らないといけないのにさ!」
「ガッハハハハ!そりゃあ絶対に勝たねえとな!お前は魔力溜めとけ!!行ってくる!」
そう叫んでメルオンはドラゴンに向かっていった。
そしてその寸での所でネーアが神殿の外へと出てくる。
「ネーア!どうして出てきたさ!君はまだ戦え……」
「メリィ!!ドラゴンってあれか!」
ネーアが子ドラゴンを指さしてメリィに問う。
少しばかり高い位置に建てられているこの神殿からは、既に立ち向かっていっている人たちがいるのも見えた。
ネーアはそれを見て、すぐに後を追おうとする。
「ムチャだよさ!!みすみす死にに行くようなモノなのさ!」
メリィは止めようと必死になる。
彼は神殿での出来事でかなり負い目を感じていた。
自分がネーアにしてしまったことの重大さを改めて噛みしめ、謝らなければならないと必死だった。
が、ネーアはメリィの頭を軽くなでると、優しく微笑んで言う。
「メリィ、お前がさっきから負い目に感じてるのはわかってる。あとでちゃんと聞くからさ・・・今は観ててくれ。必ず戻るから」
「ネーア!でも!!」
止めようとするメリィを背中に、全力でドラゴンめがけて走っていくネーア。
策はない。スマがちゃんと力を扱えるかもわからない。
博打だらけのハズなのに、不思議と恐怖心はなかった。
そこにあったのは、昔憧れていたファンタジーへの好奇心ただ一つ。
「―――さあ!一狩り行こうぜ!!!」
直後、町の4分の1が消えてなくなった。
つづく