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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第4章:本: 始まりを告げる終わりの音
79/80

76話 『〝答え合わせ〟 その4』

「今、なんて……」


「心配せずとも聞き間違いじゃないよ。世界を壊してほしい。確かにそう言った」


 ……返す言葉が見つからない。

 理解もおいつかない。

 ボクはこれにどう答えればいい?

 どうしてエトナが最後の願いを知っている?

 ……そもそもおかしくないか?


「どうして……あなたが五つ目の願いを? そもそも、召喚魔法の術者の願いしか届かないはずですよね?」


 ボクにできる精一杯の質問。

 まだ全部理解できているわけじゃない。

 これだけは聞いておかなければならない……精一杯の質問。


「そうか、気が付かなかったんだね」


「……どういうこと?」


「僕……いや、あの子は決して部外者じゃない。むしろ、事の発端……張本人だよ。少しかみ砕いて説明しよう」


 エトナがそう言って指を鳴らす。

 すると、ボクと彼女がいるこの円の外が、みるみるうちに先ほどメリィを追っていた時の図書館に変わっていく。

 ボクが訳も分からず茫然と辺りを見回していると、エトナは先導するようにある場所を指さして言った。


「あそこだよ、ネーア」


「……え?」


 指さした先に目を向けると、そこには先ほど見た……メリィとカウンターのお姉さんが話している光景があった。


「あれがどうしたって……」


「まあまあ、カウンターのところを見ていて」


 〝話し相手が増える魔法〟を求め、メリィがあの魔法書を紹介され、すっ飛んでいく。

 ここまでは先ほど自分の目で見たものと全く同じ。しいて言うなら、先ほどよりも視点が少し遠くからだということくらい。

 特に怪しい様子もなく、しかしエトナはじっと見ていろと言うので、疑いの目を向けながらもじっと、カウンターの周辺にだけ集中する。

 カウンタ―のお姉さんは開いた窓をじっと見て、図書館マップの一角、案内した魔法書の位置を示す光が収まるのを……メリィが魔法書を手に取り、光が消えたのを確認すると、なにやら様子が変化し始める。


 お姉さんは開いている窓をすべて綺麗に閉じると、まるで帰りの支度を始めるかのようにせわしなく荷物をまとめ始めた。

 そして……。


「な……!?」


「…………」


 お姉さんが次に顔を上げたとき、それは完全に別人の……今ボクの前に座っている彼女のそれに変化していた。


「レルレが……メリィにあの本を……?」


「そういうこと。でもね、それだけじゃないよ」


 ここまでボクが回答を示すと、エトナはもう一度パチンを指を鳴らす。

 すると図書館だった風景が再び真っ暗闇に戻り、エトナは話をつづけた。


「ネーア、君は一つ重要なことを忘れていないかい?」


「……重要なこと?」


「そう。魔法を動かす……発動させるための〝魔力〟さ。ネーア、君はまさか、本当にあのメリィの力だけで召喚魔法を発動しただなんて……おもっちゃいないよね?」


 魔力……そういえば以前、ボクがこの世界に来たすぐの頃にもメルオンさんが言っていた。

 メリィがボクを召喚したのを信じていなかったとかなんとか……って。


「メリィの魔力だけでは召喚魔法を発動させる十分の一の魔力も補うことができない。そこで少しややこしくなることも致し方なしとして、〝君たち二人〟に協力してもらうことにしたのさ」


「君たち……二人?」


「そう……ネーア、君と、その頭の上のスライム猫。三人合わせて、必要分のおおよそ三割になる」


「ボクらの、魔力を……!? で、でも三割って」


「足りないね。『君たち三人』では」


 足りないじゃないかと、そう言おうとした矢先にエトナからでたそのセリフ。

 ボクたち三人では足りない……そう、足りないのだ。

 でもボクとスマはここにいる。つまり召喚魔法は発動している―――魔力は足りていたということだ。

 つまり―――。


「ボクたちのほかにも……〝術者〟がいる……!?」


「そうだね―――ネーア、君はもうわかっているはずだよ。残り七割の魔力を補ったのが誰なのか」


 決まっている。

 メリィをそそのかして魔法書まで導き、自分は影で魔力だけを供給していた、その人物。

 ボクをこの渦の中に導いた人物。

 ……グルッドさんの部下を殺し、メルオンさんに重傷を負わせた……あの人物。


「……レルレ……!」


「よくできました。 ……さあ、もうそろそろ時間だね。君がどんな答えを導き出すのか――僕は見守っているよ」


「はっ!? ちょ、ちょっと待って!! ボクはまだ―――!!!」


 あまり急に別れの言葉を言い出すエトナに対して、困惑の色が隠せない。

 まだこの渦が何なのかとか、エトナの過去とか、いろいろ聞きだしたいことがあるというのに。

 そんなボクの思いなどつゆ知らず、エトナは座っていた丸太から腰を上げ、ボクにその優しい笑顔を向けてくる。


「じゃあ最後に一つだけヒントを与えておこう。もう会うこともないだろうからね―――〝世界を壊す〟ことと〝世界を滅ぼす〟ことは必ずしもイコールとは限らない――」


「な……何を……――」


「僕は信じているよ。君が、僕たちとは違った答えを導き出してくれると……どうか、あの子を楽にしてあげてくれ――――」


「エトナ!!! ちょっと待っ――――――!!!」




 =========




「――――て!!!」


「……おかえり、ネーア」


「エトッ……いや、レルレ……? ……ボクは……」


 エトナの最後の一言の後、気がつけばそこには先ほどまでの砂漠に戻ってきていた。

 振り向くとすでに渦は消え失せており、辺りを見てみると未だに他の面々が吹き飛ばされたままの状態になっている。

 ネーアが渦に入ってから出てくるまで、そこまで時間が経過していないようだった。


「嬢ちゃん……これは一体……!?」


「消えたり出てきたり……なんなの!?」


「……ウぜェ」


 消えたり出てきたり……ということは、今までのことは外からしてみればほんの一瞬ということでいいのだろう。

 ただでさえ中での出来事もまだ整理がつかないというのに、外とのギャップがまた、ネーアの頭を混乱させた。


「さてネーア……これで僕が君をどうしたいか……理解してもらえたかな?」


「?? どういうことだ……!」


 言っている意味が分からない。


「君はこの渦の中で、願いの答えを見てきたはずだ。そして願いの当事者たちの姿もね……僕は君に願いを叶えて欲しいのさ――このくだらない世界を壊す……その夢を」


「「 !!!!??? 」」


 レルレのその言葉を聞いた瞬間、まだ倒れているメルオン達が立ち上がり、再びレルレに向かおうとする。

 しかしレルレはまあまあ待てと言わんばかりに首を横に振り、ネーアを指さして言った。


「で、どうするんだい? 君はこの願いを叶えてくれるのかな?」


「き、決まってるだろ!? そんな願いッ―――」


 そこまで言いかけて言葉が詰まる。

 そんな願い叶えるわけがないだろ―――ではネーアはどうなるのか。

 願いを叶えなければ元の世界に帰ることは叶わない。そもそもそんな願いをかなえることが可能なのか。


 ……ネーア自身の『勇者になりたい』という願いはどうなってしまうのか。



「……ボクはッ……!?」


 一歩後ずさった。

 パンク寸前の脳みそに、さらに大きな負荷がかけられていく。

 そしてどうすればいいのか分からなくなり、身体が一切言うことを効かなくなった。


「……気が付いたみたいだね」


 レルレがネーアとの距離を詰め、彼女の胸元を指さすようにすると、その決定的な一言を、確実に聞こえるように……はっきりと口を動かす。


「―――君は〝願いをかなえることができない〟 それが答え(アンサー)さ」






 つづく

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