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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第4章:本: 始まりを告げる終わりの音
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75話 『〝答え合わせ〟 その3』

 凄まじい戦闘が丸三日続いた。

 大地はえぐれ、海は荒れ狂い、紅い空は延々と灰色の涙を流し続けている。

 ボクは終始その戦いから目を離すことができなかった。

 不思議と空腹や睡魔といった生理現象が催されることはなく、ただただ自身の目と意識が、『レヴ』と『エトナ』の戦いに釘付けにされていた。


「……終わりだ。エトナ」


「…………」


 フラフラになりながらも、レヴが仰向けに倒れているエトナの喉元へと剣を突き立てる。

 しかしその手は今にも剣を下ろしてしまいそうなほどに大きく震え、動揺を隠しきれずにいた。


「やれよレヴ―――これは君の運命だ」


「…………なんでだ」


 エトナの物言いにレヴは納得がいかないとばかりに口を開く。

 そして手の震えをもう片方の手でもって抑えるようにして、涙にぬれる顔を彼女に向けた。


「どうして……君がッ……!!!」


「何を言ってるんだい。決まっているじゃないか……〝それが僕の望み〟だからだよ」


「ッッッ―――!!!!」


「どうしてそんな悲しそうな顔をする? 僕は君を裏切った。僕を殺せる勇者となる者をこの世界(フォグラード)に呼ぶよう仕向け、僕は君に近づき旅をして……その確信を得たから、今こうして君は僕にトドメを刺せる。さあ、早く殺しておくれよ……このつまらない生に、君の手で終止符を打ってくれ」


 ボロボロの体に反して、何事もないかのように流暢な口調で話すエトナ。

 レヴは彼女の言葉により一層動揺を示し、歯を食いしばる。

 そしてしばらくの沈黙が続いた後、レヴは突き立てた剣を逆手持ちに変え、彼女の左胸――心臓のあたりに移して言った。


「……いいんだな。本当に」


「何度も言わせるなよ。僕がそういうの嫌いだって、君が一番よく知っているだろう」


「…………あぁ」


 突き立てた剣に魔力を込め、剣先が黄金の光に染まっていく。

 レヴは再び震え始めた手を力でねじ伏せるようにして、最期の一言を告げようと口を開く。


「ありがとう……すまない……どうか……こんな答えしか出せなかった俺を……許してくれ」


「――――あぁ」


 次の瞬間、エトナの胸を光の剣が貫く。

 そして同時に、ボクの視界が再び黒一色に染め上げられる。

 一体今の光景は何だったのか……見た限りでは、先々代魔王レヴ・ルフィリオンの魔王になる前……まだ彼が勇者だったころの映像。

 エトナと呼ばれていた少女とあの場所で戦い、トドメを刺した―――その後は?

 エトナはレヴのことを裏切ったと言っていたが、あの話だけではまるで中身が読み取れない……彼女の望みとは? それがボクの叶えるべき願いとなんの関係があるというのか。

 そもそもなぜ、ボクはあの二人の戦いを見せられた?

 レルレとエトナが瓜二つの理由は……?

 ここにあったはずの世界の果ては……?


「謎だらけ……答え合わせじゃないの……?」


 とりあえずじっとしていても始まらない。

 レヴのその後に悶々としながらも、ボクは再び足を進め始めた。

 以前……神官さんが話していた歴史にあてはめるのであれば、魔王を倒したレヴは元の世界に帰る方法が分からず、後路頭に迷い……再びあの場所にたどり着いたところで、世界の果てを見つけるということになる。

 最後の戦いと言っていたことから、恐らく魔王というのはエトナと呼ばれていたあの少女のことなのだろう。

 聖女の名を冠する魔王……そしてそれを倒したのち、魔王となった勇者。

 エトナと同じ顔を持つ、魔人(ゴーレム)のレルレ。

 考えるだけでも頭が混乱してきそうだ。


 そうして歩みを進めていった先……先程と同じように、誰かの人影らしきものが再び姿を現した。

 先程と同じフードの少女……エトナと呼ばれていた彼女が、今度はフードを外した状態でたたずみ、ボクのことを待っていた。


 暗闇の中、エトナはボクが彼女の前にたどり着くや否や、どこか優しい笑みを浮かべながら指を鳴らす。

 するとボクとエトナの周辺、ほんの半径2メートルほどの円形範囲に丸太とたき火が現れ、エトナはボクに腰掛けるようにという意を示してくる。

 指示通りにボクが丸太に腰掛けると、たき火をまたいであるもう一つの丸太にレルレが腰掛け、ボクの目を見ながら話を始めた。


「自己紹介をしよう。僕の名はエトナ――君がさっき見た通りすでに死人さ。色々あってね、ああしてもらうしかなかった。最も、結果的には失敗したようなもんなんだけど……」


「死人……? じゃあ、今ボクの前にいる貴女は……」


「おや? 外で聞いただろう。ここは怨念という怨念が集まる地。死人の一人くらいいてもおかしくない……程度に思っておいてほしい」


「は……はぁ……」


 なんだか腑に落ちないがまあ、そう言うことにしておこう。

 今更何が起こったところで早々驚くことでもない。

 ボクは改めてエトナの目を見ると、彼女はどこか悲しげな表情で話を続けた。


「僕とレヴが争い、僕が死んだ後……彼は王に魔王が死んだことを伝え、世界は平和を謳歌する時代になった。人々はみな笑い、希望を持って生きていく。レヴはかねてから願っていた夢を叶え、元の世界に帰るため、召喚主のもとを訪れる―――ハズだった」


「……それって」


「そこからが地獄の始まりさ。召喚主はいなくなっていた――彼の失踪と共にレヴは帰る方法を見失い、放浪の旅が始まった。

 平和な世界を眺め、時には讃頌を受け、また時には祭りが起こり……改めて、世界が平和になったんだということを確認した。

 そして同時に、彼の心にぽっかりと開いてしまった穴は、どんどんと彼自身を蝕んでいき、僕を殺したことが正しかったのか……世界は平和になってよかったのか……そう思い始めるようになった。

 そんな時だ。レヴは名もない盗賊に襲われた……当然、勇者であるレヴは彼らなど造作もなくひねりつぶすのだが、同時に彼の勇者としての心は急降下していった」


「…………」


「……とうとう彼は、小さな名もなき村を焼け野原に変えた。荒んで行った彼の心はもはや、平和になった世界を憎んでさえいた。

 あの時僕を殺さなければ、違う道を選んでいれば……そう考えても既に遅い。

 レヴは人目を避けながら世界中を彷徨い、やがてかつての決戦の地にたどり着いた……そしてそこで、世界の果て――欲望の渦を見つけた。

 レヴはその禍々しい得体のしれない渦に躊躇なく飛び込み、すがる思いで祈った――〝この世界を消し去りたい……そしてもう一度、僕に会いたい〟と」


「……それで……?」


「願いは叶えられた―――しかしレヴの魂は召喚のルールにより元の世界に返され、体だけが異形と化し、世界を闇に包みこんだ……そして同時に、多くの魔人(ゴーレム)たちが誕生した。

 レルレという魔人(ゴーレム)もその時生まれた……しかし彼女は、他の魔人(ゴーレム)たちとは違うところがあった。

 エトナと同じ姿を持って生まれたレルレには、初めから意思と感情が備わっていた……そして知っていたんだ。自分がどうして生まれ、エトナと言う存在が何をしてきたのかを。君の世界で言うところのクローンってやつだ」


「クローン……だって……?」


 つまり、組織上はエトナとレルレは同一人物……ということでいいのだろうか。

 しかしそれがなんだというのか。

 エトナがしてきたことなど、そんなことは今の今まで一言たりとも説明されていない。

 そもそもそれとこれと一体何の関係があるのか、さっきからさっぱり答えが見えないではないか。


「……まあ、回りくどいのはこのくらいにしておこう」


「―――!!」


 エトナはまるでそれが自分の意思ではないような……どこか他人行儀なものを感じさせる口調で以ってこう言った。


「ネーア、君に五つ目の願いを教える」





 ――――世界を、壊してほしい。







 つづく。

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