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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第4章:本: 始まりを告げる終わりの音
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74話 『〝答え合わせ〟 その2』

 召喚魔法。

 確かにそう書いてあった。

 つまり今見えているのは、メリィがまだこの魔法を使う前……。


「過去の……?」


 でも一体どうして?

 そう考えているうちにも、メリィはうれしそうに魔法書を抱え、出口に向かって飛んでいく。

 ボクも後に続いて図書館を出るとまたしても風景が大きくねじ曲がり、ミネルバの町とは全く違う風景が飛び込んできた。


「……―――!! ここは!!!」


 空にかかる電線、それをつなぐ多くの電柱たち。家々が連なるこの風景――ああ、覚えている。

 ここはそう、間違いなく……ボクが生まれ育った場所。

 辺りを見てみると、視点がやたらと高い。出てきたのはどうやらどこかの屋根の上のようだった。


「にゃーう……ふあぁぁぁ……」

「!!」


 足元から聞こえた猫の声。

 どこか退屈そうにあくびをした猫は、じっと屋根の上から何かを見つめている。

 ただじっと、何か面白いモノでも通っていかないかと、下に見える人通りの少ない道をしばらくの間見つめていた。


「…………ニャ?」


 何か見つけた。

 そんな風に、猫が耳をピクつかせて起き上がる。

 そうしてぴょんぴょんと、軽々屋根をいくつも飛び越えていき、とある二階建ての家――その二階の屋根の前で立ち止まった。

 ボクもその後を追っていくと、丁度追いついたところで猫の様子が一変する。

 先ほどまで退屈そうにしていた猫が、突然きょろきょろと首を動かし始めたのだ。

 時には屋根の上をぐるっと一周したり、首を傾げて何かに目を凝らしていたり。

 そして終いには―――。


「うーん、いまいちピントが合わないのさー」


「ふえ!? しゃ、しゃべっ―――!!」


「ま、いっか!」


「…………えぇ」


 まるで何かが乗り移ったかのような動きを見せる猫は、そのまま家の窓をコンコンと叩いて見せる。

 一体何をしているのかと思い、ボクも猫が叩いている窓をのぞき込む。


「……え!?」


 目を疑った。

 まさかと思い、今いる屋根――その家へと目を向ける。


「間違いない……」


 16年、生まれ育った家……そして猫がノックする窓の向こう――顔は隠れて見えないが、彼の周辺に確かに描かれている……大きな魔法陣。

 そして、魔法陣のある場所を修正している、その手の動き。

 間違いなく〝あの時〟の風景だった。

 ――そして。


「……行くよ、ボクは勇者になりたい」


「ほい来た!いくよおおおおおおおおお!!!」


 瞬間、ボクの視界が真っ白い光に奪われ、三度目の前の光景が変化を見せていく。

 真っ白く、これ以上はないというほどに視界が白く染まった後、だんだんとそれが黒みを帯びていき、じわじわと、じわじわと……。


 気がつけば、辺りは再び真っ暗闇に閉ざされていた。

 しかしそうして、自分がまだあの渦の中にいるのだという自覚が改めて生まれてくる。

 ……となれば。


「――――っっっ」


 ゴクリ。

 唾をのみながら一歩、足を踏み出す。

 先ほどはこれで真っ逆さまに落ちていったのだから、どうしても警戒はしてしまう。

 俗にいうタマヒュンというやつではあるが、真っ暗闇でそれをやられてはただの恐怖でしかない……そもそも、ヒュンとするモノが今はない。


 そんなつまらない冗談を思い浮かべつつも、ゆっくりゆっくりと、確実に足を進めていく。

 するとしばらく歩いた先に、うっすらと人影の様な者が現れてくるのが分かった。

 少し歩く速度を上げ、その人影に向かっていく。

 まるでボクを待っていたかのようにたたずんでいるその人物は、深いフードの下から不敵な笑みを浮かべた後、小さく口を動かしているようだった。


「―――を―――――しい」


 ほんの数秒足らず……恐らく一言だけボクに何かを言いたかったのだろうが、耳を澄ましてもうまく聞き取ることはできない。


「……え、えっと……」


「――――――」


「あ! ちょっと!!」


 もう一度聞こう……そうした瞬間に、フードの人物は後ろを向き、まっすぐとどこかへ歩き出してしまった。

 ボクも慌ててそのフードの人物を追うが、なぜか相手は歩いているにもかかわらず、どんどん差をつけられて行ってしまう。

 やがてその影が再び暗闇の中に埋もれ、ボクの足も自然と歩く速度を落としていく。

 そして……。










「―――――はっ!?」


 紅い空、黒い大地に、特徴的な岩々……渦の外?

 何の前触れもなく、突然その景色が目の前に飛び込んでくる。

 しかしどこかおかしい……横に見える。そして頬に感じる、ごつごつとした感触。


「……どうして、ボクこんなところで……寝てた?」


 魔大陸のどこか――体はそこに横たわっていた。実際今起き上がったのだから間違いない。

 ボクだけどこかで倒れてしまったのか?

 じゃあさっきまでのは? 全部夢? あの黒い渦は?

 ここが魔大陸のどこなのか……流石に土地勘がない上、どこもかしこも同じ様な風景だから判断しかねる。

 唯一わかることと言えば……遥か遠くに海が見えていることくらいだろうか。


「一体……何が何だか………そうだ!」


 唯一の手掛かりとなりうるもの。

 魔王の城だけは、この大陸のどこからでも見えるような設計になっていた。

 だとしたら方角くらいならなんとか―――――。


「………え?」


 城は確かに見つけた。

 しかしそれは背後……巨大な湖と岩山。それらを超えた先に見える小さな影には見覚えがあった。


「じゃあ、ここは……」


 大分形が変わってしまっている気はするが、面影がある……ここは恐らく、ボクが先程までいたその場所。

 DEMA-01と呼ばれていたその場所だ。

 しかしそうなのだとしたら、ここは何の物体の面影もない、真っ白な砂漠が広がっているはずだ。こんなにはっきりと大地や岩が見えているなど、絶対あり得はしない。

 そう、レルレの言う通りならば、遥か5000年も昔から、この地は……。


「5000年前……? そう言えば、今まで出てきたのも、全部過去に実際に起きたこと……?」


 メルオンさんがいない寂しさでメリィは図書館へ赴き、一冊の本を抱え、そしてその本に載っていた魔法を使い……ボクを召喚した。

 今まで視たものは、恐らくこの一連の流れだった。

 それとこれと一体何の関係があるというのか。

 ……そもそも、どうして今になってこんなものを?


「…………いや、まてよ……?」


 レルレは言っていた。〝答え合わせの時間〟だと。

 だとしたらボクは今、何かしらの答え合わせをしているはずなのだ。


 ―― 一体何の?


 今までの流れが何か関係している……?

 黒い渦?

 真っ暗闇の空間?

 メリィが起こした行動?

 退屈そうにしていた猫?

 あの時描いていた魔法陣?



「…………〝願い事〟?」



 それ以外、思い当たる節はなかった。

 メリィは『話し相手が欲しかった』

 ボクは『来るテストに対する現実逃避』それから『勇者になりたいという思い』

 ……猫も術者に入ると?

 仮に入るとしたら、一体何だというのだろうか……見た限りではすごく退屈そうにしてたし、『何か面白いこと』……とか?


 そうだとしてここまでで〝4つ〟。対して世界の果ては五つ……一つ足りない。

 答え合わせと言う意味がこの推測通りなのだとしたら、残りの一つは今、これから明らかになるということになる。


 この場所……それが本当に5000年前のDEMA-01なのだとしたら、それが一体、願いとなんの関係があるというのだろうか。

 そもそも、5000年前のことを持ち込むには無理があるのでは……?

 正史においては、その5000年ということさえはっきりと分かってていないらしいではないか。やはり違うのか……?

 しかし頭で色々考えても仕方がない。

 それよりも、今から起こることを、この目に焼き付けておくことの方が重要なのではないだろうか。


 そうして意識を頭から自身の目線の先へと集中させると、少し先に二人の人影があるのが見て取れた。豆粒ほどの大きさだったが故、さっき見渡した時は気が付かなかったのだろう。

 ボクはその二人に近づこうと足を進めていく。

 するるとその片方の人影は、先ほどのフードであることが分かった。

 もう片方は全然記憶にない人物だったが、どこか歴戦の冒険者という風格のを感じさせるものがある。そして何故か、懐かしいような気さえした。


「……どうしても、やるというんだね」


「ああ。お前を倒して、俺はこの世界での使命を果たすだけだ」


 フードの問いかけに応えた冒険者風の男が、腰から剣を抜く。

 するともう片方がため息の後にフードに手をかけ、その素顔を明かす。


「えっ……!? いや、なんで?」



「さあ、最後の戦いだ―――〝エトナ〟」


「そうだね……もう終わらせよう―――〝レヴ〟」


 フードの方……〝彼女〟の顔を見てから、開いた口が塞がらない。

 その後の二人のセリフを聞き、余計に頭が混乱する。

 だって、本当に意味が分からないのだ。

 エトナ―――聖女の名前で呼ばれたその人物はどう見ても――――。


「レルレ……?」






 つづく

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