71話 『魔王の国デルスタン』
===[デルスタン魔王国] 港===
魔大陸――かつてより魔人に侵された地、魔王が支配する地、別世界の地。
名前の所以は様々とされている大陸の南側、その唯一の港にたどり着いたネーアたちは、目の前に広がる光景に圧倒される。
「……我々は一体どこに来てしまったというのだ……?」
「本当、別世界……まるで――」
魔界。
そう比喩するのにふさわしい。
大陸の肌は黒く染まり、突き出た岩々は槍のように鋭い。そして紅い空にはカラスのような鳥型の魔人が空を飛び回っている。
遥か彼方に見える魔王の城の影なんか、まさしくRPGのラストダンジョンであるようにしか見ないのだ。
この地に降り立った全員がみな同じように驚き、その圧巻の風景に目を奪われる。
それほどまでに別世界。
ネーア個人としても、また別の世界に召喚されたのかと錯覚してしまいそうだった。
「皆★様★方! よーぉこそおいでくださいましたぁ!」
「「――!!!」」
魔王の城が見える方角。
北東の方からその聞き覚えのある声とともに、一人の長い男――バタシがやってくる。
「魔王様の側近であるこのバタシィ、皆様がご★到★着! なさったとお聞きしてお迎えにあがった所存でございますぅ!!」
「お……おう、そうか。ありがとう」
「ねえネーア、この前もそうだったけどこいつなんか腹立たない?」
「えっ!? あ、あはははは……」
若干ではあるが、敵意をむき出してバタシを睨みながら言うアネラ。
その様子にバタシは気が付いていない……というよりも全く気にいしていない様子で話を進めていく。
「ではでは早★速! ですがぁ、皆様を魔王様のお城へとご★案★内! させていただきますぅ。どうか、バタシから離れぬようお気を付けくださいませェ」
出★発★進★行ーー! と、バタシはいつもより楽し気に先導し始める。
ネーアたちはその姿に一瞬だけ顔を合わせ首をかしげてしまうが、あれこれ言う暇もなく、まっすぐ魔王の城へと進むバタシの後を追っていくのだった。
=========
「さあさあお待たせいたしましたぁ! こちらが歴代魔王様のお住まいになられた由緒正しき御★城! 魔王城デルスタンでございますぅ!!」
「……やっとついた……」
「時間かけすぎでしょ……」
「はっはは、まあそう言ってやるな。大事なことだぞ?」
ここまでどのくらいかかっただろうか……普通に歩いたら精々2時間ほど。
ネーアたちはこの場所へ、おおよそその倍以上の時間をかけてたどり着いた―――というのも、バタシが道を通りかかる魔人たちと必ず挨拶をし、何やら話をしてから歩みを進めるためものすごく時間がかかってしまったのだ。
しかし道端(道かどうかも怪しいが)にいるような野良の魔人に意思や感情はない。無論言葉も通じない。つまりはほぼ無意味な行為なのだから、ツッコみたくなるのも仕方がないだろう。
「……にしてもここ」
「うん。普通はあるよね……城下町とか」
「ん!……そういえばないな。町」
「ないさ!」
「……ど、どういうことなのでしょうか。バタシ殿」
そう、町がない。
野良の魔人は普通に道端で見かけるほど多いのだが、集落というものが全く見当たらなかった。あるものと言えば、目の前に堂々と構える、禍々しさを持ちつつも威厳と歴史を感じさせるラストダンジョン――もとい魔王の城ただ一つ。
「そうデスねぇ……しかし外でお話するのもなんですぅ。続きはお城の中で、と致しまショゥ!」
バタシがそう言って城の大扉の前に立つと、「ココン ココン コンコンコン」 とリズムを取りながらノックをする。
すると数秒後、5メートルはあろうかという大扉が、重々しい音とともにその大きな口を開いた。
===[魔王の城] 3階会議室===
城の中に入るとすぐに大きな広間と、城に駐在しているらしきメイド服とタキシード姿の魔人たちに迎えられた。
人型の者から亜人種や魔物まで、ありとあらゆる形状をした魔人たちを横目に見ながら、バタシは足を止めることなく3階の会議室までネーアたちを案内する。
野良の奴らには散々立ち止まって挨拶をしていたというのに、一体何の違いがあるというのか……そんなツッコミを入れる間もなく、長い円テーブルの椅子に腰かけたネーアたちに、バタシは早速話を進めようと口を開いた。
「えーまずはァ? なぜ町がないのか……でしたねぇ。理由は至★極★簡★単! でございますゥ。」
「……といいますと?」
「我々、魔王様に意思を与えられた魔人はこの城におります200数名ノミなのですぅ! 我々はそもそも魔王様の身の回りのお★世★話! をするのがその役目……生理現象というものがない我々には食事も必要ありませんしぃ? あ! 娯★楽! として楽しむことはできますがぁ! ……――言ってしまえば、意味をなさないのですぅ。魔人は存在するだけで抑★止★力! と成り得ますしぃ? 意思を持つ者は増やしすぎても戦乱の火種となります故……ご理解いただけたでありましょうかぁ?」
意味がない。
そう言ったバタシの表情は、いつもと変わらずの笑顔にもかかわらずどこか寂しげであった。
意思を持つ――感情を持つということが何を意味するのか、彼はきっと理解し、自分の中で折り合いをつけたうえでこの話をしているのだろうと、ネーアはこの話を真剣に心に刻み込む。
ファンタジーRPGの敵側……魔王軍と呼ぶべき側の気持ちというものを、少しだが理解できたような気がした。
「―――と、我々のコトはこの辺にしておきましてェ! 本★題! に入らせていただいてもよろしいでございましょうかぁ?」
「えっ……あ! はい!」
そうだった。
すでにここに来るまでに5日……約束の日はすぐそこまで迫っていた。
バタシにはレルレが待っているという〝特定監視区域DEMA-01〟へ入るための手続きと、周囲の異変がないかの調査をしてもらっていたのだ。
「侵入許可は既にバタシの権限を行★使! 致しまして取得済みでございますぅ。先日も申し上げました通りぃ? 監★視★区★域! になっておりますので手荒な真似はなさりませぬようご注意ヲ……と、してその場所なのですがぁ……ヒトツだけ気になることがございましてェ」
「……気になること、ですか」
「はいィ。 指定の場所――DEMA―01ピッタリその位置にですぅ。バタシが帰★国!しぃ、確★認!を行ってからずーーーーーっと……その場所に生体反応がございましてェ」
「ずっと……それってつまり、一日中ずっと……ピクリともせずにそこにいるってことですか!?」
「その通りなのでございますゥ」
バタシが帰国してから……といことは、少なくとも三日はそこにいるということになる。
レルレなら平気な顔をしてやりかねないが、一体何がそこまで気になるというのだろうか……?
「反★応! はぁ、レルレサンであるコトに間違いないハズなのですがァ……彼女は魔人兵長時代から落ち着きがなく、城のモノというモノを破壊する常★習★犯! でしてぇ。果たしてその彼女が三★日! もその場に留まるなどあり得るのでショウカと不安にぃ」
「は……はぁ……」
色々ツッコみたいがまあよしておこう。
しかし彼の話からして、レルレは魔人兵長であったころから少なくとも何かしらの変化があったということが伺える。
一体何がどうして彼女を行動させているのか。始めにレルレと関わることになった案件……例の〝耳〟のコトも含め、何か明らかになればいいのだが……。
「では、我々は明後日……約束の日にどうすれば?」
グルッドがバタシに問いかける。
それにバタシは頷きながら待てという仕草でもって話をつづけた。
「ご★心★配!には及びません。予定通り、明後日に皆様を指定の場所へご★案★内! させていただきますぅ! ……ですがぁ」
「……ですが?」
「バタシを最後まで、ご★同★行! させて頂ければと思っておりましてェ、その確認ヲバ」
「む……! その程度でしたら、構いません。しかしバタシ殿は一応この国の要人であられる身……危険を感じたら、すぐにお逃げください。 皆も、それでいいだろうか」
グルッドの答えに対し、ネーアたちが首をあわせて頷いて見せる。
「ムムムム……!! 感★謝! 致しますゥ……!! このバタシ、責任を持って皆様をご★案★内! するとお約束致しますゥ……!!」
大げさにも涙しながら言うバタシに、ネーアたちの顔に思わず笑みがこぼれ出る。
それからは全員があらためて場所と注意事項の確認を行った後、各々用意された部屋へと案内され、城の中で一晩を過ごした。
それから翌日は一日、ネーアはアネラとともに城の中を見て回り、メルオンはバタシの元に着き監視の手伝いを、グルッドはメリィとともに城内の書斎で調べ事に費やし、アレルは一人、城の上から魔人たちの動きを観察をして――迫る約束の日を迎えるのだった。
―――そして。
===指定監視区域 DEMA-01===
「……やあ。よく来たね」
レルレは宣言通り逃げも隠れもせず、その場所に待ち構えていた。
つづく
第4章スタート!
また拙作新作「TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?」連載開始しました!
3話公開済み、明日以降もガンガン更新しますのでどうぞよろしうに!
http://ncode.syosetu.com/n6600eg/