70話 『約束の場所』★
===[王都メフィル] 王座の間===
「ひとまずはお帰りと言っておこう。……ぶしつけだが、しっかり休めたかな」
スイレンの町から帰還したネーア達に向けて、ルーダスが問いかける。
そのまま彼は視線をちらりとグルッドに寄せると、グルッドはどこか気恥ずかしいというか、申し訳なさそうに頭を下げて口を開いた。
「はっ……! お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。この王剣のグルッド、陛下の命とあらば如何なる任務も遂行する所存にございます!」
ルーダスとグルッド以外の面々が顔を合わせ、彼が放った言葉に安堵した。
グルッドが顔をあげ、それに頷いて答えたルーダスは、次にアネラへその首を向けて続ける。
「事の経緯は爺様から聞いている。アネラ、君もよく頑張ってくれた。引き続きネーアの護衛の継続をお願いしよう。後任予定だった騎士団の総轄はグルッドが復帰次第帰属させる……すまないが、それまではアネラ、君に頼みたい」
「――――――」
黙って、視線は合わせずにアネラが縦に首を振る。
相変わらずなアネラに、ルーダスは微笑を浮かべながらもため息に似た吐息が漏れた。
そのまま数拍置いて気を取り直すと、次はネーア達ミネルバ組に向けて言った。
「君たちもご苦労だった。少し待たせてしまったが本題に入ろう―――例の手紙を見せてもらってもいいかな?」
「……! あ、はい!」
例の手紙――あの時、火山でレルレが渡してきたものだ。
ネーア自身も受け取ってからまだ一度も中を見ていなかったが、そこに書かれているもの……一週間後にレルレが待つ場所とは一体どこなのか。
ネーアが前に出てルーダスにその手紙を渡す瞬間から、周囲の緊張感が一気に高まった。
高まる緊張感の中、ルーダスが慎重に手紙の封を切り――中を取り出す。
「……! これは……この場所は!」
「陛下? 如何なされましたか」
「グルッド、至急研究室に! ――滞在中の魔王殿とバタシ殿をお連れするんだ!」
「!! ――はっ!」
ルーダスがそう告げると、何かを悟ったらしいグルッドは大急ぎで行動に移す。
そして待つこと数分、グルッドの案内の元に寝ている魔王と側近のバタシが王座の間へと足を踏み入れ、ルーダスの前に跪いた。
「大★変! お待たせいたしましたぁ! 魔王様及び側近であるこのバタシィ、ルーダス国王陛下の命の元馳せ参じた所存にございますゥ!!」
「うむ。よく来てくれたバタシ殿……それから、魔王様も」
「…………」(スピー)
二人に一言だけ短く言うと、ルーダスはネーアから受け取った手紙を全員に見せるようにして、真剣な声色で告げる。
「この手紙に書かれた場所――正確には〝座標〟だが、ここには《DEMA-01》と書かれている。……バタシ殿ならこの場所が何処か、心当たりがあるのでは」
「場★所! でゴザいますかァ? フムぅ……ムゥ? D★E★M★A! …………ハッ!!??」
記憶をたどり、何かにたどり着いたらしきバタシの顔色が明らかに変わる。
何か禁忌にも触れるかのような、そんな表情を見せるバタシにルーダスは頷くと、バタシは後ろを振り返ってその場所についての説明を始めた。
「オッホン……! バタシがご説明いたしましょゥ! D★E★M★Aー01トハ! かの大魔王レヴ・ルフィリオン様の生まれし地―――つまりィ」
「……世界の果てが……初めて見つかった場所―――!」
「ソゥ!! その通★り! でございマスゥ!! 決して〝デ★マ〟! などとはお読みにならないようお願い致しマスゥ! してその場所……ナゼかはのちほどお聞きすると致しましてェ、五日後に皆様をお連れすればイイと……ソユコトでございマスかァ? 国王陛下ぁ」
「……ああ、その通りだバタシ殿」
ルーダスがそう頷くと、再びバタシの顔色が変わる。
そして一度魔王に一瞥すると、再びルーダスへ跪き口を開く。
「陛下ァ……失礼ですがかの地は特★定★監★視★区★域! に指定されてゴザいますゥ……お連れすることは不可能ではございマセンがシカシシカシィ? 少々手続きが必要とナリマスが故、魔王様共々一時帰国の御許可を頂きたく存じますぅ」
「ああ、構わない」
「そしてェ? もう一つ進言させて頂きマスとォ、勇者様のご同行をお勧め致しマスとだケ」
「了解した。バタシ殿、早速だがそちらの準備の方、進めていただけると助かるが」
「ハッ……! では失★礼! 致しますゥ!!」
ルーダスが感謝の意と共に頷くと、バタシは魔王を連れて王座の間を後にする。
王座の間の大扉が開かれ二人が去っていくのを見送ると、ルーダスは咳払いと共に全員に向けて一度視線を送る。
そして何かを納得したように頷くと、改めて表情を少し硬くして口を開いた。
「では、聞いていたと思うが、君たちには五日後デルスタン魔王国へと赴いてもらうこととなった。アレルにはわたしから連絡をつけておく! かの国は遥か北の地、エートス港からこのグレードライア大陸を迂回しつつ南を突っ切る形になるだろう。バタシ殿の報告は恐らくギリギリになると思われる……そうだな、二日後正午ここにいる面々とアレルでエートス港に集合、それまでは各々準備を進めておいてくれ。何か異論はあるかい」
グルッド、アネラ、メルオン、メリィ、そしてネーア。
全員の顔を見ながら、合意の確認をとる。
「―――よし! では繰り返すようだが二日後、エートス港に集合、集まり次第デルスタンに向かってくれ! 解散!!!」
「「 はっ!! 」」
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「……ああ、そういやよ」
王座の間から退室した後、広い廊下を歩きながら何かを思い出したようにメルオンがネーアに声をかけた。
「? はい、なんでしょう」
「二日後だろ、これからすぐミネルバに帰っても大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫ですけど」
「ご主人、なにかあったさー?」
メリィが不思議そうにメルオンを見て言うと、メルオンはどこか上機嫌な声で笑顔を見せながら言った。
「ああ! 頼んでたモンが完成したってな、レレンから連絡があったんだ。いやーナイスタイミングだぜ全く」
「「ひっ……」」
レレン。
その女性を示す固有名詞に反応して、ネーアとアネラが声を合わせてしまう。
続いて二人は顔を合わせて苦笑いするが、きょとんとしたメルオンとグルッドとも目が合ってしまい、直後に場が笑いに包まれる。
「はははは そういやお前らに会ったって言ってたもんなあ。大変だっただろ」
「う……うぅぅ」
「お……思い出させないで……!」
「よ……よくわからんが、オレは一度騎士団の皆に顔を出しておかねばならないので失礼する。アネラ、お前はネーアの護衛があるだろう。陛下はああ仰っていたがオレが何とかしておく。一緒にミネルバの町に行ってくれて構わないがどうする」
「えっ あ、うん……わかったわ。じゃあお願いしようかしら」
「おう、また二日後な。」
アネラの表情が少し嬉しそうだった。
グルッドと別れ、その背中を見送る。そして見えなくなったところでメルオンが「よし」と言いながら三人の視線を寄せる。
「――じゃ、オレらもさっさと行こうか」
そうして一行は城を後にし、一時ミネルバの町へと帰っていく。
あっという間の二日間。
準備期間としてはギリギリのその時間は瞬く間に過ぎ去っていった。
―――そして
===[二日後] エートス港===
「……おせぇ!」
「ゴメンってアレル!」
「女の子は準備に時間がかかるものよ。そのくらい理解なさい!」
「誰だテメェ!!」
いち早くその場に到着していたアレルはイラつきを隠さず貧乏ゆすりに勤しんでいた。
実際準備に時間がかかっていたのはアネラだけなのだが、アレルの怒りの火の粉は容赦なくネーアに飛んでいく。
「アルフェトラン時もこの……なァ!!」
「え、ええ……?」
「まあまあ落ち着けアレル。待たせたのは悪かったが、今はそれどころじゃねえだろ」
「ッ……チっ」
場が荒れる前にメルオンが静止に入る。
やれやれと頭を悩ませ、助けを請うようにグルッドと顔を合わせると、そのグルッドもやれやれと苦笑いでもって返して見せる。
「とりあえずだ。揃ったんだからやることは一つ! あんまりモタモタしてる余裕もないからな、さっさと乗り込むぞ」
アレルはネーアににらみを利かせながらも、再度舌打ちをしながら船へと足を運ぶ。
「何アイツ。あれが勇者ってホントなの?」
「うん。まあ……悪い人じゃないよ。……多分」
「ホントにー?」
ネーアはアネラの質問に苦笑いで答えながらも二人で船の中へと入っていく。
二人が乗り込んでいくのを見送ると、最後にメルオンがグルッドと共に舵の前で待機している船長に合図を送り、乗り込んだ。
ネーアは早速甲板に出て、段々と遠くなっていく大陸を目にしながら、真新しいコート型の衣装と長い髪を潮風に揺らめかせる。
そしてまだ見ぬ魔王の治める地への意気込みを新たに、その声を青空に響かせるのだった。
新たな荒波の始まりを、微かに肌で感じ取りながら―――。
「―――よし、行こう!!」
間章 睡蓮ノ華 完。
第4章に続く
間章、ありがとうございました。
4章開始には新作準備も含め、少々お時間頂くと思います。主に挿絵の更新……いい加減3章から溜まってるラフを清書していきますよ!
ではでは4章、ここから大きく、やっと動いていきます!よろしくお願いします!!