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69話 『再会の夜』

 どうやって帰る?

 いやまあ、帰ることはできるのだろうが、スイレンの町は地図にもそこそこ大きく載っていそうな湖を挟んだ遥か向こう側、先にこの火山からの下山。

 今日はもう暗くなってしまっているし、野宿して明日出発したとしてどれだけ時間をかけることになるのか。

 ただでさえ一週間しかない猶予を移動に費やすのは大変よろしくない。


「と、とりあえず寝られる場所まで移動します……?」


「そうだな。グルッド、これ巻いとくか」


「ん? ……ああ、ありがとう。貰っておこう」


 メルオンが腰のポーチから包帯を取り出し、グルッドに手渡す。

 それを左腕に巻き付けるのを待ち、グルッドが「よし」と呟くのと同時に全員が顔を合わせる。

 そして全員が移動を始めようとしたその時。


「……!」


「ネーア、今」


「うん」


 ネーアとアネラだけが何かを聞き取ったような反応を示す。

 二人は声の主を探そうと辺りを見回すが、何か動くものが見える気配はない。


「ン……? どうした二人とも、何かあったのか?」


「今、何か声が聞こえたんです。アネラも聞こえたみたいですから、気のせいじゃないはずなんですけど――」


「ネーア!見て、上よ!!」


 何かを見つけたらしいアネラが遥か上空を指さして声を上げる。

 ネーア達もアネラが指さす方へと顔を上げると、確かに小さな影が一つ、ウェスレ火山の上空を旋回しているのが見て取れた。

 そして影は旋回しながら次第にシルエットを大きくしていき、その姿形を露わにしていく。


「ね、ネーア……あれってまさか……」


「……うん」


「おいおいおいおい」


「見間違い……では、なさそうだな……」


 そうしていいるうちにもネーア達に接近してくる影はまだまだその大きさを増していく。

 実に100メートルにも達しようというほどになったところで、影の巨体が5人の頭上を暴風とともに通り過ぎていく。

 大きな一対の翼にトカゲのような胴と長い尻尾。下からでものぞかせる何者も寄せ付けない力強く鋭い瞳。そう、紛れもなく、間違いようもないそれは――。


「ど……ドラゴンさーーー!!?」


「バカ!メリィ声がでけえ!」


「皆ふせろおォーー!」


 再び大きく旋回し接近してくるドラゴンに対し、伏せるようにグルッドが促す。

 全員がその場に伏せた直後、先ほどと同じように強い風が頭上――ではなく横。火山の外側から吹き、ネーア達の髪と服を揺らした。


「安心せい。誰もおぬしらを捕って食ったりはせんよ」


「「「「 !!!! 」」」」


 風の吹いた方から聞き覚えのある老人の声がした。

 恐る恐る伏せている体を起こして声のした方へ顔を向けてみると、そこにはドラゴンの背に立ち、長いひげと眉毛を携え、神職と言わんばかりの衣装に身を包む老人の姿があった。


「「し……」」


「神官さん!?」

「神官殿!?」


「なぜ貴方様がここに……!?」


「さー!?」


「……誰?」


 ネーアとメルオンが声を合わせ、そのあとにグルッドとメリィが続く。

 面識のないアネラだけが首を傾げそうつぶやくが、神官は彼女に軽く微笑むように顔を向けるとドラゴン――竜雲の背から飛び降り、ネーアの元へ寄る。


「――うむ。チカラは戻ったようじゃな」


「へ? あ、はい……多分」


 神官の言葉にネーアが頷くと、神官は帽子を取り中に潜ませていた何かを手に取り、これをネーアに手渡した。


『……ぷっはぁー暑いし蒸れるしなんなのニャ!!蒸しネコになったらどーするつもりだったのニャァ!!』


「こ、この声……!」


 手のひらでひたすら神官に向けて怒りをぶつけている声の主。

 その青いゼリー状の生物を見たネーアは、思わず感極まって抱きしめ、涙さえ出てしまいそうだった。


「スマ―――!!!」


『ふごー!なんニャー!!暑い!暑いのニャ――!!』


「うむ。しかし感動の再開をしたところですまないがの、この続きは町に戻ってからがよかろう。みな、竜雲の背に」


 ネーアに一言だけそう断り、神官は5人を順番に竜雲の背に乗せる。

 全員が乗ったところで神官が先頭に立ち、杖を竜の鱗にトンと軽くたたくと、竜雲は軽めの雄たけびとともに再び夜の空へと翼を羽ばたかせた。



 =========


 ネーア達はしばし空の旅を楽しんだ後、スイレンの町へと戻っていった。

 念のため近場に一度降りてから町に移動したが、夜の闇が幸いして竜雲の姿を目撃した者もいなかったようだ。

 華の湯へたどり着いたネーア達は新たに神官が泊まる部屋の手配だけを済ませると、一度メルオン達の部屋に集まり、神官に状況の説明をしていた。


「――なるほどのう」


 ネーアがアルフェトラへ向かってからこの場に至るまで、そしてメルオンとグルッドの実に起きた出来事、レルレがスイレンに現れて取った行動の数々。

 粗方を聞き終えた神官は長いひげを擦りながら少しばかり考えた後、口を開いた。


「大体は把握した。……というのも、経緯は前もって四世のヤツに聞いてはおったのじゃ。一応、確認のためにの」


「陛下に……? ということは、神官殿は陛下のご意向でこちらに?」


 メルオンの問いかけに対して神官は頭を横に振る。


「そうとも言えるし、違うとも言えるの。元々城へ赴いたのはネーアが戻ったと小耳に挟んだからなのだ。何故ミネルバでなくメフィルなのかと思っての。そうしたらメルオンが重傷を負い、レルレに兵を500も、ほとんどいっぺんにやられたと言うではないか。それで居ても立っても居れんくての、ついでに預かっておったスライムを連れてきたのは正解じゃったわい」


「なるほど……」


「それでじゃ、お主――アネラだったかの」


「ひゃ、ひゃい!?」


 神官がベッドの裏に隠れるアネラを杖で刺して言う。

 その返事に神官は不思議そうな顔をするが、メルオンは思わずクスリとしてしまいそうになるのをこらえながら神官に言った。


「すみません。コイツ男と顔をあわすとまともに話せないんですよ。どうかご容赦ください」


「む……そ、そうなのか? まあよい。お主の任務についても多少四世のヤツから聞いておる。親書を預かっておるから、目を通しておきなさい」


 神官がそう言いベッドに親書を置く。

 それをアネラが影からそそくさと手を伸ばし取るのを確認すると、頷いてから視線をアネラから戻し、コホンと咳ばらいをしたのちに話をつづけた。


「うむ、では次は全員に向けてじゃがな。――明日は各々休暇とし、明後日に王都メフィルへ帰還せよ。とのことじゃ」


「な! しかしそれでは時間が……!!」


 神官の言葉にグルッドが異を唱える。

 しかしこれに神官はため息をこぼし、杖をグルッドに向けて続けた。


「グルッドよ。おぬし何故ここにきておるか忘れてはいまいか? 元々はお主とメルオンの体を休めるのが目的じゃぞ?」


「ぬ……! そ、それは」


「何、焦るでない。明日休んでもまだ6日猶予がある。わしが一足先にメフィルへ戻り伝えておくでの、お主らは明日くらいゆっくりしとりなさい」


「へ、陛下のご命令とあらば……承知しました」


 グルッドが若干の迷いを見せながらも返事をする様を見て、思わずネーアとメルオン、アネラをも笑みをこぼす。

 この分なら、王都に戻って元の任に就いても大丈夫だろう。


 神官は続いてメルオンに目配せをし、進行を入れ替わるようにその場に立ち上がった。


「では、わしはもう部屋に戻るとするでの。また明後日、王都で会おう」


 短くそう残し、神官が部屋を後にする。

 全員が彼を見送り、ドアが締められるのを確認すると、メルオンは4人に向き直って口を開いた。


「よし。じゃあオレらもここらで解散としよう。一応警戒するに越したことはないが明日は自由行動。明後日の早朝、朝一の馬車で王都へ向かう。それに間に合うようにロビーに集合だ」


 ネーア、グルッド、それからメリィが頷き、少し遅れてアネラがベッドの陰から「了解」の意を示した。

 相変わらずのアネラに少し苦笑いをしてしまうメルオンだったが、抑えるように一拍目を閉じ、開けるとともに「よし」と力強く発音する。

 そしてメルオンは最後に一言、つかの間の休息で忘れてしまわぬよう、意思と覚悟を精一杯に乗せた声で、その場を締める言葉を口にした。



「では――解散!!」






 つづく

 次回は幕間、一応続きですが休憩回ということで幕間扱いにさせてもらいます!

 多分1回で収まるはず……?

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