60話 『さて、休憩時間は終わりです』★
「ふえ……え!?」
一体アネラは何をしてる?
覚悟を決めたところにいきなり耳を押さえつけられ、何を意図したのか全く理解できない。
「―あまー、――――で」
「な……なんて?」
耳が塞がれていて、聞き取ろうにも何を言っているのか分からない。
「だからー」と再度言おうとするアネラ。
しかしその矢先に自分の手を見て、ようやくことに気が付いたのか、片手を放してから口を開いた。
「聞こえなかったねゴメンゴメン。……リラックスしてってことよ。せっかくの温泉だよ?そんなカチカチになってたらもったいないって」
「う……うん、まあ……確かに……」
それはそうなんだけども、そういかないから困っているのだ。
だが実際言っていることは間違っていない。
とりあえず、ひとまずは落ち着こうと、肩を落として軽く深呼吸をして見せる。
ついでにあれこれ考えるのはやめにして、とにかく力を抜く。
「…ふー……」
「どう?少しは落ち着いた?」
「うん……結構楽になったかもニャ!?」
「まだ表情が固い!」
さっきからなんなんだ!?
アネラが耳に当てていたもう片方の手を放し、尻尾を鷲掴みししだしたのだ。
いくら力を抜けと言えども、流石にそれは力技すぎやしないか!?
腰が抜けそうになるのをどうにかふんばって耐える。
と、踏ん張りながらも前傾姿勢になったその視界の端に、水に濡れ重量の増したアネラの尻尾が目に入った。
「……くっそ……やめな、ひゃい!」
力を振り絞って、その重たそうな尻尾に手を伸ばす。
その拍子に自分自身は体勢を崩してしまったが、どうにか尻尾を掴むことには成功した。
―――が。
「――(ニッコリ)」
「へ?」
効いてなかった。
けろりとしている。
それどころかすごく笑顔だ。
アネラはネーアの尻尾を片手に掴みつつ、動けないネーアの頬を嬉しそうにつつきながら言った。
「ニシシ。私はちゃんと訓練してるから、その手法は通じないわよ。て言っても完全にってワケじゃないんだけど」
「そ……そんな」
どうしよう。
アネラの顔が怖い。
その表情はなんというか、いたずらっ子の顔そのものだった。
アネラは仰向けに押し倒されたような形になったネーアにまたがると、その手をあやしくうごめかせて迫り来る。
「や……ちょっと、おちつこ?……ひやん!!」
「うるさい!仕返しには仕返しよ!こんなおっぱいしおって!恨めしいわ!」
その言葉もむなしく、アネラはたっぷりと嫉妬のこもった言葉を吐きながら、ネーアの胸をむぎゅっと鷲掴みにかかった。
結局そこからはスキンシップだと称してめちゃくちゃいじられた。
胸をはじめ、耳の先端から尻尾、つま先までとにかくやりたい放題にされた。
我ながら情けない、女の子の喘ぎ声というものが自身の喉から出てきているのかと思うと死にたくなった。
そして――
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「どう?流石におちついた?」
「お……おひついたら、ない……あぁもう……」
アネラが動きを止めた時はすでにへとへとだった。
一線を越えられなかったのが不思議なくらい、あちこちをいじくりまわされたのだ。
途中からのアネラの目は、そんな発情した雌のように見えてしまった。
今はもう正気に戻っているようだったが、一体なぜ急にそんな風になってしまったのか……顔が赤いアネラを見て口を開く。
「でも……確かに、だいぶ楽になったかも。でもどうしてこんなこ……」
「そ、それはよかったわ!私は後でいいからさ、せっかくなんだから浸かりましょ!ね?」
聞こうとした途端に話を切り替える。ものすごくあやしい。
しかしこれ以上は詮索するものでもないと、そっと頭の片隅にだけ置いといて、従っておくことにした。
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改めて汗をかいてしまった体をさっと湯で流し、温泉に身体を浸からせる。
なんでも3階の露天の効能には体力回復と解術効果の他に、五感強化なるものがあるらしい。
本当だったらすさまじいものだと思うのだが、人があまり寄り付かないのはそもそもをれが必要ないからなのか、それとも景色以外に何か寄り付かないワケがあるのかは知る由もない。
「ねえ、アネラ。ここの効能って――」
でもやっぱり気になるので聞いてみる。
「どうして効能はすごいのに景色の方に人が行くのかって?」
「あ、はい……」
「ここの宿って意外と値が張るのよねー。似た効果の宿も下にあるしで、そっち目当ての人はあんまり来ないのよ」
「な……なるほど」
青い空、眼前に広がる大きな湖、数々の火山から成る立派な山脈。
ここからでも十分綺麗な景色が観れるのだが、上からだともっとすごいのだろうか。
そんなことを思いながらも、先程までの疲れを癒し景色を楽しむ。
女性として温泉に入ること、女性の裸体を客観的に見ることにすごく緊張と拒否感を抱いていたが、実際心を落ち着かせてみるとこんなものかと、綺麗な景色を眺めながら思った。
これが自分にとってどうとらえていいのかは分からないが、決して悪いことではないと、少しばかり安心感を抱くネーア。
心身共に落ち着きを取り戻したネーアを見て、アネラもホッとして湯船に体を任せる。
「ネーア……さっきはごめんね」
「へ?な、なんでまた」
「それはッ、その……私、尻尾は訓練してるからーって言ったじゃない?」
「うん……」
何やら顔を赤くし出したアネラを不思議に思いつつも、先程のことを思い起こしながら話を聞く。
「完全じゃないって言ったの、あれ……その、少しだけど、は、発情しちゃうのよ……少し」
「は!?はつッ!?」
どうやら見解は間違っていなかったらしい。
あのままだったら本当に一線を超えられていたかもしれないということに恐怖すら覚える。
それが画面上の百合展開だったらまだしも、本来男である自分がそうなるのは御免だ。
もちろん自分自身が精神的同性愛者とか、決してそう言ったことではない。
女としてそういう目には会いたくない。ただそれだけだ。
「少し!少しだけよ!!はい、この話もう終わり!本当にゴメンって!ね!」
「あ、あはははは……うん」
自分から言い出したのだが……それを言うのは野暮というモノだろうか。
まあ、おいておこう。
気をとりなおして、心ゆくまで温泉を堪能する。
先ほどまでどうしても気が散って気が付かなかったが、確かに体が癒される感覚とともに視覚・聴覚・嗅覚・触覚が強くなってきている気がする。
味覚は何も口にしていないから流石にわからないが。
「……――!!」
――しかし早速、研ぎ澄まされた聴覚と嗅覚が何かを察知し、無意識に顔がそちらを向いてしまう。
どうやらアネラも同じく気が付いたようで、ネーアと同じ方向――脱衣所の方をじっと目を凝らして見つめている。
ただの客だったらいいのだが、ネーアはかすかに察知したその〝匂い〟を知っていた。
一体何の匂いだったか、そこまでは思い出すことができないが、〝嫌な予感〟が頭から離れない。
だからこそ、リラックスしていた体を再び強張らせる。
さすがにもうわかっているのだ……自分の嫌な予感は当たるものだと。
それから3分ほどの沈黙が続いたのち、ガラガラガラと引き戸が開かれ、黒い影が中に入ってくる。
「……は?」
「アンタは……!?」
その大きな、明らかに女性のものではない体格の影は、何の躊躇をすることもなくネーア達が浸かっている湯船までやってきて、かけ湯をするとそのまま中に浸かっていく。
そして2人の目の前までやってきて、ニコニコと見つめているのだ。
「ど……どういうこと…!?どうして貴方が……ここ女湯ですよ!?」
「何のんきに言ってるのよ!こいつとうとう壊れたわね!!斬るわ!!!」
「ちょ、ちょっとおちついて!!」
ネーアが説得しようとするもむなしく、アネラはやってきた男性――グルッドに魔力刃で斬りかかった。
つづく
規制を恐れて表現抑えたやつがいるらしい・・・(´・ω・`)
それはそうとお待たせしました。連載開始から初めて1週間開いてしまいました。
活動報告の通りDQ11をやっていたのですがPS4版は裏ボスまでクリアしまして、これから3DS版をやるのでもう1,2週間くらい週1更新が続くかもしれません。どうかお許しを・・・語り合いたい・・・