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53話 『戦いの小休止』★

「お、温泉……ですか!?ホントに急ですね……嫌いではないですよ」


 思いもよらない、そして大したことのない質問に拍子抜けしながらも、ネーアはルーダスにそう答える。

 ルーダスは申し訳なさげに笑みを浮かべると、広げたままの地図上のある場所を指さした。


「ここ、王都から見て東に《温泉町スイレン》という町がある。君にはメルオン殿とグルッドを連れてそこに行ってもらいたいんだ。」


「メルオンさんと……グルッドさんですか!?」


 さっきまでの話は一体どこへ行ってしまったのか。

 保護するために呼んでおいて、大男を2人つれて温泉町に行ってこいとはこれまた全く持って理解しがたいお話である。

 そんなことをしたら相手さんの恰好の的ではないか。

 この王様は一体全体何を考えているのか……そんなことを思いながら発する言葉を選んでいるうちに、先にルーダスが口を開いた。


「というのもだ。わたしがこんなことを言ってしまうのも何なのだがね、今我が首都の残存兵力は正直言ってかなり心もとないんだ。とてもではないが、レルレから君を守り切るほどの兵力はないだろう……」


「そこまで―――……」


「情けない話だがね。……そこでだ、君には〝ギルドの冒険者として〟2つ頼みたいことがある」


「2つ……ですか?」


 大男を2人も連れてするお使いとは一体何なのか。

 まあ保護される側の身に頼むことだ。命の危険や大けが何てことはないのだろうと、その依頼内容を肩の力を落として聞き入ることにする。


「そう、まず1つ。メルオン殿とグルッドの傷を癒すため、スイレンの温泉に連れて行ってほしい。あそこの温泉の効能は我が国でも評判でね、グルッドは特に、心身共に落ち着かせる必要がある。メンタル面でのケアという意味でも、彼には一度自分を見つめなおす機会を与えないといけないんだ。」


「そ、そんなにひどいんですか……グルッドさん」


 ネーアはそう問いかけるように口にしながら、過去の自分の精神状態をグルッドと重ねる。

 もちろん具体的な症状は全然違うものなのだろうが、聞いた限りでもグルッドの精神状況がかなり辛いものであることは想像に難くない。

 ルーダスは深刻な表情で頷き、話を続ける。


「ああ、今はとても騎士団を任せられるような状態じゃなくてね……一度任を解き、自宅で休養を取らせているよ。――で、次が大事なんだ」


「……と、おっしゃいますと」


 大事と言われて、出来る限りリラックスしようと意識していたネーアの体が少しばかり強張る。


「温泉町スイレンに駐屯している一人の人物を連れてきてほしいんだ。ワケあってスイレンの騎士団支部を任せているのだが、グルッドのこともあってしばらくは君の護衛も含め、彼女に騎士団本部を任せておきたくてね。……とそうそう、名前は《アネラ・イースデル》。伝達は既に行ってるハズだから、支部にこれを持って行ってくれたまえ」


 ルーダスはそう言うと、懐から丁寧に封をされた親書を取り出しネーアに手渡した。

 ネーアは渡された封書を折らないように、気を付けながらながら懐にしまう。


 要するに今回のお使いは手練れの負傷者2名の療養と、おそらく手練れであろう騎士様をお迎えに行くこと。ボクをスイレンに行かせるのは、王都にいるよりもそちらの方が安全だから。陛下の言うことからしてお迎えに行く騎士様は女性だ。護衛という意味も含めて、常に近くで見張っていられる同性の方が都合がいいのだろう……しかしそれなら。


「一つよろしいでしょうか」


「ん?なんだい、なんでも言いたまえ」


「その、言いにくいことではあるのですが……アネラさん、でしたか。その方にボクの護衛も任せたいと仰いましたが、それなら何故先に彼女をここに召集しなかったのかなと思いまして」


 ネーアのその質問を聞いた後、ルーダスの顔がなんとなく青ざめた気がする。

 ルーダスはすぐに気を持ち直すように目を閉じ、表情をリセットさせるが、しかし汗だけは隠せずに少しだけ流しながら、やれやれという具合で口を開いた。


「うん、全く持ってその通りではあるのだが……す、少しワケがあってね。その……まあ、会えばわかるよ」


(ああ、なんだか面倒事の匂いがする)


 ネーアはその表情を苦笑いに変えながら「ははは……」と小さくつぶやく。

 会えばわかるか。ああ、本当に嫌な予感しかしない。

 しかしだ、そんなことを思っていても仕方がない。どうせ行かなければならないのだ、覚悟を決めよう。


 心の中で両の頬を叩き気を引き締めると、苦笑いを普通の笑みに変え改めてルーダスの目を見る。


「わかりました。出発はどうしたらいいでしょう」


「ああ、出来れば早い方がいい。おそらくだがレルレはまだ君がアルフェトラにいると思っているハズだ、グルッドにはわたしが直接伝えておく。君さえよければ明日にでも我が軍で迎えを送るが、どうする?」


「では、それでお願いします」


 ルーダスがネーアの返答に頷く。

 そして広げたままの地図を丸めると、ソレもネーアに渡すように差し出した。


「一応、コレも渡しておこう。まだ案内することはできないが、君を信頼してね―――また後程見てみてくれ。幸運を祈っているよ」


「あ、はい!ありがとうございます……では、ボクはこれで失礼します」


 ネーアはそう言って王座に腰かけなおしたルーダスに一礼すると、王座の間を後にする。

 王座の間の大きな扉が閉じ、ネーアの姿がルーダスから見えなくなると、ネーアは大きく肩を落胆させてため息をついた。

 いけないいけないと頬を叩いて足を動かすが、それでも肩は上がり切らず重しを乗せているように落としてその長い廊下を行く。


「まず医務室……メルオンさんにこのことを伝えて……あ」


 これから明日までどうするか。

 それを頭の中で整理しつつ口に出したところで大事なことを思い出す。

 あまりに急いでここまで来たものですっかり頭から抜けていた。


「今日、どこで泊まれば……」


 ルーダスは迎えを寄越すと言っていた。

 となればどこか宿でも用意しておいてくれていてもおかしくないのだろうが……。

 そんなことを考えているうちに医務室の扉までたどり着いてしまう。


「うーん……まだ城の中だし、まあ何とかなるか」


 ひとまず宿のことは頭の片隅に避けておいて、そのドアノブに手をかけた。

 ネーアはカーテンで区切られた区画の一つ、メルオンがいる窓際のベッドへ向かうと、先ほどは力なく横たわっていたメルオンが起き上がって帰りを待っていたようだった。


「おかえり嬢ちゃん、そろそろだと思ったよ」


「起き上がって大丈夫なんですか!?一応安静にしてた方がいいんじゃ……」


 ネーアがベッド脇の椅子に腰かけてそう言うと、メルオンはネーアの短剣を返すように差し出して口を開いた。


「ああ、おかげさまで大分楽になったよ。話はあらかた聞いてる、出発はいつだい」


「そうだったんですか……!?あ、明日ですが大丈夫ですか?」


「おう!まだ力は入らんが歩けはするだろ!」


 先ほどまでの力ない声がウソのように、いつもの元気でそう答えるメルオン。

 どこか吹っ切れたようなその表情と声に少し心配になるネーアだが、同時にホッとして吐息を漏らす。

 その動作の際、右手に握ったままの地図が視界に入ったネーアは、丸められたぼろ紙の間に真新しい白い紙が挟まっているのに気が付く。

 その小さな紙にはこう記されていた。


 メフィル北街 A23-9

 宿場セイラン 303


「北町にある小さな宿だな」


「おわっ!?」


 そのメモを見た覗き見たメルオンが横から口を挟み、ネーアは思わずたじろんでしまう。

 しかしまさかこんなところに宿泊先のメモを挟んでおくとは。


「陛下もよくよく気を遣うお方だ。口に出して聞き耳でも立てられないように、そうして小さな紙切れに記しておいたのだろう。その辺は大きな宿も多いからな、万が一でも助けが呼びやすいだろう。よほど嬢ちゃんのことが心配なんだろうよ」


「な、なんかやりすぎな気もしますけど……」


「まあそう言うな、折角の陛下直々のご厚意だぞ?」


「そ、そうですね……」


 それはそうなのだが。なんだかこう、少しばかり悪寒がする。

 しかしながらそんなことをどうこう言っても仕方がないので大人しくその場所へ行くことにはなるのだが。


「そうとなれば、ボクは日が暮れる前に行きますね。」


「ん。ああそうだな、また明日!バタバタしてたろう、ゆっくり休めよ!」


「ははは、そうさせてもらいます」


 ケガ人に休めと言われると少しおかしな感じがするが、ネーアはそんな思いを軽い笑い声に乗せて医務室を後にした。




 ===[温泉町スイレン] 大国騎士団支部===


「ほ、報告します!出迎えの馬車は明日到着、護衛の任も予定通りとのことです!」


「ン」


 緊張気味に声を張る兵士をちらりと見ることもなく、支部団長アネラ・イースデルは短く1語だけ返す。

 1枚の書類にくぎ付けになっているその女性をよそに、その短い返事を聞き取った兵士は、一礼をしてその場を後にした。


「…………」


 パタンと団長室の扉が閉じられた音を聞き取ると、それと同時にちらりと扉へ向けて視線を動かしたアネラは、その書類を手に持って掲げ口を開く。


挿絵(By みてみん)


「〝ネーアちゃん〟かあ……」



 =========


 ===翌日 宿場セイラン前===


「お待たせしました!」


「さあこちらへ、責任をもって我々騎士団が皆様をスイレンまでお送りします」


 宿から出てきたネーアにガタイのいい兵士がそう言うと、先にメルオン、グルッドが乗っている馬車へと案内された。

 ネーアは馬車に乗り込むと、ただ茫然と窓の外に視線を向けるグルッドがまず目に入る。

 その布1枚の薄着で座り込む男からは、生気というモノがほとんど感じられなかった。


「グルッドさん、立ち直れますかね……」


 グルッドの対面に座るメルオンに、そう小さく囁きながら隣に腰掛ける。

 心配そうにグルッドを見るメルオンは、腕を組みながらまた小さく返そうと口を開いた。


「さあな……スイレンの支部団長にはオレも一度だけあったことがる。彼女がきっかけをくれればいいが」


「…………」


 そんな淡い希望をのせ、4人小隊を引きつれた馬車はスイレンへと旅立つ。

 一つはそこに構える大きな戦力を迎え入れるために。

 一つは、万全の体勢を備えるための小休止をとるために。

 先につのる不安を押し殺しながら、ネーア達は馬車に揺られる。






 第3章 Back to Zero 完

 間章につづく

 3章、ありがとうございました!

 前回も書きましたが……モヤっとします(´・ω・`)


 それはさておき、お分かりかと思いますが新キャラ登場です。アネラさんも中々特殊なキャラだと思うのですが、アレル君の二の舞にならないよう気をつけます……多分、ダイジョウブダトオモイタイ。

 そんな間章、よろしくお願いします!

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