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49話 『世界をつなげる樹の話 その2』

 ネーアは目が覚めると、まずは簡単に辺りを見回した。

 清潔感のあるベッド、医療関係の本がいくつも並べられている本棚、薬の入っている棚……すぐに自分がどこかの医務室にいるのだということは理解した。

 自身の体に少なからず違和感を感じつつ、右手のすぐそばで寝息を立てているメリィの頭を擦りながら、隣に座るリリーの顔を見る。


「リリ―、メリィ、ありがとう。心配かけてゴメン……ボクどのくらい寝てたのかな」


 この体……ネーアになるのも主観的には一か月ぶりになる。

 こちら側ではどれほどの時間が経っているのか、まずはそこを把握しておかなくてはならない。

 質問に対してリリーが部屋の丸時計にちらりと目を向け、口を開いた。


「今は明け方の4時、君が気を失っていたのはほんの半日足らずだよ」


「は……半日!?」


 少なくとも数日はと考えていたネーアは、動揺を隠せずに顔と声にはっきりとその意を露わにする。

 リリーはメリィの頭を擦っているネーアの右手に両手を添え、じっと彼女の顔を見て言う。


「話してもらってもいいかな……あのあと、君が脇道に入ってから今まで起こった出来事」


「えっ?う、うん」


 何故そのことを知っているのかはさておいて、ネーアはあの泉であったこと――主観ではもう一月も前になることを、戻ったばかりの記憶を掘り返してリリーに話す。

 するとリリーはどこか渋い表情を見せる。

 ネーアがそれから中心世界セントラル・ビギニングでの出来事から元の世界での一か月を放し終えると、リリーは渋い表情のまま口を開いた。


「そっか……。あの伝説は本当だったってことだね……」


「あの伝説……?」


「聖女エトナと世界樹の伝説。この大陸に住む者ならほぼ必ず耳にしたことがあるであろうお話」


 エトナと世界樹……アサギが語っていたあの話のことなのだろうか。

 そんなことを考えていると、看病に疲れ果てて寝ていたメリィが目を覚ました。


「んん……なんだか頭の上が重いのさ」


「ああ、ゴメンゴメン」


「―――!!!ネーア!!!」


 ネーアとリリーがメリィの頭から手をどけると、メリィは大きな声で叫びながらそのままネーアの胸元に飛び込んだ。

 そのメリィの声に反応してか、直後に医務室の扉が大きな音を立ててあけられ、アレルがネーアのいるベッドの元へ駆け寄ってくる。


「あ、アレル!?」


「おやおや――クスっ」


「オイリリーてめえ、何が可笑しい」


 あまりの反応の速さに思わず顔の筋肉が緩んだリリーにアレルが過剰反応する。


「いやあ、アレル君ずっと外で起きてたのかい?だったら中に居ればよかったのに……心配していてもたってもいっれないとか……プークスクス」


「殺スぞてめぇ」


「アレル顔真っ赤なのさ」


「まぁまぁ皆落ち着いて……」


 すごく賑やかになりそうな3人を仲介しようとネーアが口と手を動かす。

 リリーが「ごめんごめん」としぐさ付きで一言言うと、ネーアが抱きかかえているメリィを笑顔でなでてから話を始めた。


「丁度役者がそろったし、ネーアの話からして、私もちゃんと教えておかないといけないね。きっと謎だらけだろう?」


「う、うん……正直、何が何だか」


 ネーアがリリーに続いて言うと、リリーはアレルも椅子に座るように促す。

 アレルは相当いやそうな顔をしながらもい言う通りに腰かけ、リリーはよしよしと頷いて話を進めた。


「じゃそうだね……どこから話そうか。ネーアに起こったことを説明するなら、まずは世界樹のことからかな」


「せかいじゅ……?大樹とは違うのさ?」


「ちょっと違うね。世界樹は霊峰の本当の姿……その昔、聖女となる前のただの人間だったエトナに門を破られるまで、あの大きな山は一本の巨大な樹だった。それは世界をつなげると言われる樹。この世界――フォグラードが危機に瀕したときにだけ開けることを許された、世界と世界を繋ぐ門」


「世界を……繋ぐ?」


 そのワードにネーアは強く反応する。

 なぜあの場で気絶した自分が中心世界にいざなわれたのか、少しだがわかったような気がした。


「そう。世界樹の中を抜けた先には向こうの世界――ネーア、君の故郷がある。でもただ扉の先が向こうの世界につながってるわけじゃない。世界と世界と繋ぐため、間に位置するのが世界樹の中……その正体は」


「中心世界……」


 ネーアの口からその単語が零れ落ちる。

 リリーはその答えに頷き、ベッドに立てかけてあるネーアのポーチから一つの小ビンを取り出した。


「その通り。ただそれだけが、ネーアがそこに誘われた原因じゃないよ。もう一つ、そうなるために必要なアイテムがあるんだ」


「……ンだそのビン」


「!!――エルクシル!?」


「そう。エルクシルは今は大樹からとれる雫を原材料としているけれど、もともとは世界樹の雫をもとに作られるもの。大樹は世界樹の幼体だからね。これを体内に吸収することで、ほんの数日の間だけど世界樹と共鳴できるようになるみたいなんだ」


 なるほどこれであの時中心世界に飛ばされた理由は発覚した。

 しかし問題はそれだけではない。中の問題、門の先のことまでは流石に誰も分からないだろう。

 そう考えたネーアは、外……いくつか気になっているうちの一つを口にする。


「あいつ……アサギはボクをわざとあの場所――ボクを中心世界に行かせようと仕向けたように感じたんだ。世界樹のこともよく知ってる風だった。リリー、アサギについては何か知ってることってないの?」


「……多分それは〝守人〟の一族だから、じゃないかな」


「守人…?」


「そう、守人。ただ小耳にはさんだ程度であまり詳しくは知らないんだけどね……彼らは代々世界樹を見守り、その伝説を伝える役を担う者。それがどうしてあんな指名手配犯に成り下がったのかは分からない。ただあの一族には怪しい話があるんだ」


 その言葉に、その場にいた全員が関心を示す。

 リリーは少し何かを思い出すようにしたあと、いつになく真面目顔をして話を続けた。


「何でも彼の一族は中心世界……その管理者と浅からぬ因縁みたいなものがあるって、昔物知りな詩人から聞いたことがあってね。世界樹の守人の任も、その因縁に関係してるとか、霊峰が立ち入り禁止になったのもその一族が関与してるとか、そんな話が後を絶たないんだ。勿論、こんなこと極秘だけどね」


「因縁……あれと……一体どんな」


 流石にそこまでは知らないと首を横に振るリリー。

 少し謎が解決したかと思えば、それ以上に新しい謎がわんさか出てくる。

 これを知りたければもう一度、アサギと直接会わなければならないのだろう。

 そしてその因縁というのは、自分が無事に元の世界へ、今度こそちゃんと帰るためにも必要なことなのではないかと、ネーアは何となくだか感じていた。


「今回の件で私が教えられるのはこのくらいかな。まさかあの男にそんな秘密があっただなんて……正直、情報としてはかなり不足していたんだ。戦力と言う意味では君たち2人なら太刀打ちできると思ったんだけど……」


 ――バタン!!!


「「「!?」」」


 リリーが俯いて己を責めようとするところに、医務室のドアがまた大きく音を立てて開かれた。

 中に入ってきた大国ルネレディアの兵士らしき男は、一瞬きょろきょろとしたあと、ネーア達を見つけるや否やものすごく急ぎのように駆け寄ってきた。


「ネーア・ラウルスティン殿ですね!?急ぎルネレディアへ!!!王都メフィルへお行きください!!!」


「ど、どうしたのですか急に!要件をしっかりと話してください」


 まるで人が変わったかのように真面目モードで言うリリーに、兵士は荒い息を深呼吸で正し、跪いてから再度口を開いた。


「メルオン・ラウルスティン殿が瀕死の重傷を負い、王城で集中治療を受けてらっしゃいます!国王陛下が貴女様を至急つれてこいと!」


 時刻は明け方5時半頃―――突然訪問してきた兵士の言葉に、医務室の誰もが言葉を失った。







 つづく

 正直説明したいこと全部は仕切れたないのですがここで新展開突入です。

 さて、次回でこの作品も50話を迎えます。例の如く何か描きたいので描くんですが、原稿やらなにやらの都合で早くて今週中、遅ければ来週までかかってしまうかもしれません。ナニトゾナニトゾ


 そしてガラッと変わりまして新作のお話です。

 少しづつ書いてまだ2000字程度なので全然公開のめどは立たないのですが、夏~秋のうちにそれなりに書き溜めて公開出来たらなあとか思っております。例によってTSモノでエルフです。いいよねエルフ。

 まあ、その時が来たら報告はしますので、どうぞよしなに。

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