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46話 『あの日見た記憶』


「…………」


 6月ももう終わりを迎えようという日、期末テストが数日後に迫ってきていた日の朝。

 いつも通り3人での登校中、ボクは考えながら足を動かしている。

 というのもこの一か月ほど。どうにも頭の中から変な違和感が拭えないのだ。

 原因は何かわかっている。それは前回、中間テスト前日に描いた魔法陣……中二心を思い出して全力で描いた後から翌日目が覚めるまでの記憶がすっぽり抜け落ちているのだ。

 これ以外に身に覚えは一切ない。でもその手掛かりとなるものも一切ない……果たしてどうしたものか。


「なー○○。なんかお前、最近静かだよな」


 隣を歩く谷田がボクにそう話しかけてくる。

 ボクの名前だけが上手く聞き取れなかった気がしたが、これはまあ気のせいだろう。


「ん……そうかな?いつも通りだけど」


「谷田ー、考えすぎだろー……はぁーもう!早く放課後カモーーーン!!」


 こんな事友達であろうとそうそう相談できるような事ではない。

 平静を装って谷田に返すと、成瀬もいい感じに後ろからフォローを入れてくれる。まあ彼のこれはただの本音なのだろうが。

 しかしこの3人での付き合いもかれこれ10年近くなる。

 何かを感じ取ったのか、谷田は立ち止まってボクの顔をのぞき込むと、少し悩まし気な表情ををして口を開いた。


「お前さ、もしかして最近なんか変なことでもした?」


「は?なんだそれ」


「いや何となく。今のお前の顔見てたら思い出したんだよ。中二病全開だったころ、お前色々やってただろ?何しても何も起こらなくて、次の日になってまた新しいこと考え更けて……そん時の顔に似てた」


 こいつは人の黒歴史をこうも平然と語ってくれるな。

 ああそうだよ変なことしたよ。もう一か月も前だけどな。

 こいつを思いっ切り殴ってやりたい。しかし登校中にまでこんな体力を使いたくはない。

 そう自分に言い聞かせておく。


「なーはやくいこーぜー。今日結構ギリギリだから遅刻すんぞー」


 そんなところに、いつの間にかボクら2人を抜いていた成瀬が振り返って言った。

 その言葉を聞いて、谷田も諦めの表情を見せて足を動かす。

 しかしボクの視線は、そこから見えた小さな路地にくぎ付けにされていた。


「ン……どした?」


「ああゴメン、先行ってて。ボクもすぐ行くからさ」


 それだけ言い残してボクはまっすぐ、路地へと足を向ける。

 特に何かすごいことがあったとか、そう言うことではない。

 しかし何かが見えた。そしてそれは、絶対に追わなければいけない気がした。


「ハハハハ……あの一件から中二病、再発しちゃったのかなぁ」


 そんなことをつぶやきながら、ボクは住宅街の狭い路地を走る。

 途中何度か分岐があったが、そこは勘に任せて何となく進んでいく。こんな時だ、きっと正解の道を自然と言ってくれているに違いない。


 気がつけば登校時間など忘れてひたすらに影の正体を暴こうと追っていた。

 そうしてこんなにも使命感を感じているのか。ここ最近の違和感が何なのかを暴いてくれると信じて、ひたすらに走る。そして――


「……―――あれ?」


 走り抜けた先、商店街の大通りに出て、その影を見失ってしまった。




 ===[アルフ城] 医務室===


 メリィが起き、ネーアが倒れているのを認知してから1時間。

 彼女の体は今、アレル、メリィ、リリーの3人に見守られながら医務室のベッドに横たわっている。


「ッつー訳なンだが、なンかわかンねえのかリリー」


 アレルが一通り状況を説明し終えると、リリーは頭を悩ませる。

 それはそうとして、そんな2人のやり取りを聞いていてメリィは開いた口がふさがらなくなっていた。


「……ンだよ団子」


「な、なんだよじゃないのさ……無礼者は怖いさあ……」


 ただでさえ人間であるアレルがこの場にいること自体例外中の例外であるのに、その国の女王にタメ口とは流石のメリィも恐れ入った。

 どんな罰が待っているのか恐ろしくなり、自然と体を縮こませてしまうと、リリーが笑いながら口を開いた。


「ウフフフフ。いいのいいの!彼は特別だよ。勇者は体の構造こそ人間そのものだけど、匂いとか潜在能力とか、その枠に当てはまらないモノが多いんだよね。だから彼に関しては、この国じゃそもそも人間として扱われないんだよ!」


「な、なんかそれはそれで可哀そうな気がするさ……」


「フン」


 戸惑いを隠せないメリィにアレルが鼻を鳴らすと、リリーは「コホン」と咳払いをして本題に移らんとした。


「ネーアももう私の友達だからね。一応心配で監視はしてたんだけど、途中から何かに邪魔されて見えなくなっちゃったんだ……まさかこんな事になるなんてね」


「……なンか知ってンのか」


 アレルが不機嫌そうにそう言うと、リリーはこくりと頷いてネーアの胸元――心臓のあたりに手を置く。


「この子は今、とても危ない状態にある。このまま放っておいたら……きっと、明日には死んじゃうよ」


「「――――ッ!?」」


「どーゆーコトだオイ!!!」


 驚き目を丸くするとともにアレルはネーアを挟んで向かい側に座るリリーの胸倉をつかみ、大きく取り乱すように声を荒げる。

 リリーはアレルに真剣な眼差しを向け続けた。


「落ち着いてアレル。ネーアは今、中心世界セントラル・ビギニングの管理者に魂を半分ばかり売っちゃってる状況。正直、私たちは手の出しようがないんだ」


「ア?ンだそれ……」


「いいかい?信じて待つんだ。きっと帰って来る。今はそう信じてあげて。彼女がちゃんと帰ってきた暁には、改めてお話をしようじゃないの」


「ネーア……」


「……意味わかンねェ……」


 3人は無言でネーアの手を握って祈る。

 既に夜も更けた頃、その温かくも弱弱しく脈を打つ手に、希望を乗せて。




 ===6月末日 午前11時頃===


 ボクは小さな隙間も見逃さないように、ひたすら商店街を駆けまわっている。

 あの影は一体何だったのか、確かめずにはいられない。

 しかしもうこの辺りを調べ始めてから早2時間。もうそろそろ探せるところも少なくなってくていた頃。


「……ん?」


 この町はずれの商店街でも一層人気のない、さびれかけている路地裏から何か物音が聞こえた。

 ボクは人ひとり通るのがやっとなその路地裏の奥地に足を踏み入れる。


 湿り気が強く、あまり日も当たらないそんな場所の奥。

 そこには、蹲っている人影があった。


(見たことない服装……つかこれ、コスプレか?)


 明るい水色を基調としたいかにも2次元キャラが来ていそうな服だ。

 キャラメル色の長い髪、そして体格からして女性か。一体どうしてこんなところで蹲ってるんだろう。

 少し面倒ごとに巻き込まれそうな雰囲気があった。


「あの……大丈夫、ですか?」


 しかしなぜか放っておくこともできず、ボクは名も知らない彼女に手を差し伸べた。

 その人はちらりとボクの方を見ると、大げさにも体勢を大きく崩して驚いて見せた。

 そしてその拍子に目に飛び込んできたものに、ボクの目は奪われる。

 くねくねとうごめく尻尾、頭の上に生えた耳、そして微かに光を反射している夜行性の目。


「あ……えっと、その、これは」


 取り乱した少女が、おどおどとして小さく口にする。

 しかしそれもつかの間。ボクの顔を見た少女は、それよりも大きく顔をゆがめ、目を見開いて口を開いた。


「は…………?い…いや……なん……で…」


 これは流石にまずいんじゃないかと思い、ボクは再度彼女に問いかける。


「だ、大丈夫ですか?どこか悪いなら救急車……」


「あああああああああああああああ!!!!!!!」


「あ!!ちょっと!?」


 その少女はボクの手を払いのけ、商店街の方へ走ってどこかへ行ってしまう。

 ものすごい勢いで手をはらわれてボクの体勢も崩れた際に、胸ポケットから飛び出た生徒手帳がそのままとられてしまった。

 流石にあんなになってしまっては放ってもおけないので、ボクは彼女を追う。

 そして確信していた。あの影の正体は彼女なのだと。

 どうしてかは分からない。ただこのまま追わないでいると何か、何かもっと良くないことが起きてしまいそうな気がしたんだ。






 つづく

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