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41話 『新たなる力』

 大蜘蛛は右前脚をアレルにめがけて振り下ろす。

 それをアレルはギリギリの間合いで右へ1回転しながらよけた。


「ッッ――ぉおオオおーラぁ!!!」


 その勢いをつけたまま、振り下ろされた足に向かって回し斬りを加えてやる……が。

 剣は大蜘蛛の足に傷一つつけることなく弾かれてしまい、アレルは大きくのけぞる。

 大蜘蛛はのけぞったアレルに大きな牙を見せかぶりつきにかかる。

 アレルはこれも間一髪のところでブリッジをするような形で避け、そのままバク転の要領で大蜘蛛の牙を蹴り折った。


「ぐっふぅぉおお!!」


 今度は大蜘蛛が無気味な悲鳴とともにのけぞり、折れた牙が蜘蛛の巣を突き抜け岩壁へ突き刺さる。

 アレルはそのままバク転を繰り返してネーアの元まで戻った。


「くッそかッってェなア……!牙の方が脆いたァ一体どーなッてやがる!!」


「あ、アレル!!足!」


 ネーアがアレルの足元を見てそう言う。

 アレルはそれが何なのか確かめるために自身の足に目を落としてみると、つま先から10センチほどの部分までが爛れ、血に染まっている。


「――!!……毒かメンドクセぇ」


 ネーアは顔はアレルの足に向けながら、目だけ顔を見る。

 アレルの額にはじわじわと汗が現れ、顔をつたっていた。

 歯を食いしばって毒に耐えているように見えるその顔から、ネーアは視線を少し後ろにいるメリィに移して言った。


「メリィ、回復か解毒できる?」


「か、簡単なのなら……」


 この世界の魔法は、初級の簡単なものでも重ね掛けをすることで中級や上級の魔法と同じ効果を得ることができる。

 メリィのその言葉を聞いたネーアは腰から短剣を抜き一歩前へ出て口を開いた。


「じゃあお願い……ボクが出る!」


「オイテメェ!!出張ってンじゃ……」


 アレルが前へ出たネーアの腕を掴みそういうと、ネーアはアレルの目を睨み付けた。


「そんな苦しそうにして何言ってんの!どう見ても毒回ってきてるでしょ!今アレルに死なれたら困るのわかってるよね……分かったら回復に集中してて」


「……クソッ………」


 アレルが目をそらし、不服そうながらも手を放しその場に膝をつく。

 すぐにメリィがアレルのそばに寄って解毒を始めると、心配でしかたがないという表情でネーアの方を見た。


「ネーア、本当に大丈夫さ……?オイラ……」


「大丈夫。多分、負けないと思う」


 なぜここまで自信がわいてくるのか。

 ネーアの身にはただ一つ……そう、一つだけ変わったことがある。

 それは今首に下げているペンダントをアレルから譲り受けた時――すなわち、ネーアの体内からマ素が無くなった時だ。


(あの時から何か……大きな力みたいなものが体の中を廻ってるのがわかる。きっとこれが2回目の能力開花なんだろう)


 ネーアの力強い表情を見たメリィは、頷くとアレルに当てていた両手の内左手をネーアに向ける。


「《アムド》!《サランド》!」


「!!」


 メリィが唱えると、ネーアの体に赤いオーラと青白く薄い膜が現れた。

 それを確認してから手をアレルに戻すと、簡単に魔法の説明をする。


「アムドは筋力強化、サランドは異常軽減の魔法だよさ!……頑張ってさ!!」


「……ありがとう!」


 ネーアは大蜘蛛へ向き合ったまま短くお礼を言う。

 そして大きく深呼吸をし心を入れ替える。


「――よし!!」


 掛け声と同時に地を蹴った。

 大蜘蛛はアレルの時と同じように右脚を振り下ろすと、ネーアは持ち前の瞬発力で大蜘蛛の内側にステップを踏み懐に入り込んでいく。

 そのまま右手に逆手で持った短剣を大蜘蛛に突き立て、自身に廻っている力を集中させる。


「はあああああああ!!!」


 すると短剣が魔力の刃を纏い、チリチリと風を切るような音を発しだした。

 切れ味が数倍にも増したその刃が大蜘蛛の顎に突き刺さり、そのまま腹部に向かって走る。


「ぐおおおっふおおおおおおお!!!」


 が、腹部に届こうかというところで大蜘蛛は大きく跳躍しそれを逃れる。


「つッ……浅いか!――うぉわあ!!」


 飛び上がった大蜘蛛を見上げると大粒の毒の雫が落ちてきた。

 これをバックステップで避けると、下に落ちたそれはジュウウという音と煙をあげ、岩の地面を溶かし30センチ四方の大きな穴が出来上がる。


「――ッ!!」


 そして地面に落ちて飛び散った毒がネーアの腕をかすめる。

 すると、毒の触れた部分だけ魔法の青い膜が綺麗に消え去り、少しだが肌が赤く焼けている。


「なるほど〝軽減〟ね……出し惜しみしてる余裕はなさそうだ……」


 ネーアの額から汗が滴る。

 大蜘蛛は岸壁――毒牙が飛ばされた壁へ着地し、キレイに突き刺さっているそれと折れた部分を合わせる。

 すると接合部がジュワジュワと沸騰したように煙と泡をあげ、極画を引っこ抜くように顔を上へ上げると、アレルに折られた牙が綺麗に溶接されていた。


「ふしゅううううう……」


 大蜘蛛は警戒しているのか何なのか、壁に留まったままネーアをじっと見つめている。

 その岩壁には、大蜘蛛の顎の切り口から流れている体液らしき黄色い液体がじわじわと糸と岩を溶かしながら流れている。


「でもやっぱり蜘蛛は蜘蛛……本体の方は柔い―――な……?」


 なにやら大蜘蛛の様子がおかしい――というか腹部が見えない。


(何だ?何がどうなってる……いや、何が来ようと次で決める。ここに時間を割いてはいられない)


 ネーアは短剣に込める魔力を大幅に大きく、そして鋭くイメージする。

 すると魔力の刃の刀身が伸び、アレルの片手剣ほどの長さまでリーチが伸びた。


「うぐッ……流石に消耗が激しいなコレ……!いくぞ!!」


 リーチの伸びた剣を構え、大蜘蛛を見据える。

 そしてネーアが動いた瞬間、大蜘蛛がその上体をぐんと上げ、その陰からは大きくへこんだ岩癖――の中にすっぽりと収まった腹部が姿を現す。

 大蜘蛛は自身の体を無理やり折り曲げ、腹部に力を蓄えていたのだ。

 腹部の先端、糸出突起をネーアの方へ向け、そのから大きな、鈍く赤い光を放つ丸い塊が急に現れる。


「ぐっふあああおおおおお!!!」


「―――!!!!!」


 大きな雄たけびと同時に、赤い塊……魔力で煉られた毒性の糸の集合体が巨大なビーム状になって放たれた。




 ===[アルフ城]タイジュの間===


「……なるほどねえ」


 リリーは水晶玉を右て手に、魔法越しにネーア達の動向を見ていた。

 左手にもう一つ水晶玉を持っているが、こちらには何も映し出されていない。


「あの子に廻るあの魔力……通りで〝彼女〟が欲しがるワケだよ」


 そう言うとリリーは右の水晶玉に念じ、映像をネーアのアップにする。

 そして左の水晶を右の水晶にくっつけ、目を閉じて集中する――すると。




『君の言う剣と魔法のファンタジー世界、来るか来ないかさ!』


 フォグラードではない世界の六畳間が映し出された。


『ほ……本当に行けるの?……』


 部屋……勉強机やタンスと言った家具も含めていっぱいに描かれた魔法陣の上には、10代後半とみられる男の子、そしてそのすぐ近くにはネコが座り込んでいる。

 少年はごくりと息をのむと、そのネコの目をよく見て少しばかり震える声で口を開く。


『……行くよ、ボクは〝勇者〟になりたい』




「……ネーア、君は2つの願いを持ってこの世界にやってきた。そして今、この世界に存在する勇者は〝1つだけ力が欠けている〟……これが偶然なのか必然なのかは分からないけど……1つだけ確かなことがあるね」


 リリーは左の水晶玉から手を放し、タイジュの間にガラスが割れるような音が響く。

 その音を聞いたのか、すかさず近衛兵が部屋の中へ駆けつけてくる。


「な、何事でありますか女王様!!」


「いえ、何でもないですよ。お騒がせしました、警備に戻ってください」


「はっ!失礼いたしました!!」


 近衛兵が慌てて出ていくのを見送った後、右手に映る――大蜘蛛と戦うネーアを見て呟いた。


「ネーア……残念ながら君は、全ての願いをかなえることはできない」






 つづく

6月の更新予定をざっくりですが活動報告の方へ掲載しています。よろしければどうぞ。あともうしばらくしたら新作書き始めるかも

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