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40話 『霊峰エトナルスタと黒い影』

 ===翌朝===


「ふあ……-ん……水……」


 ネーアは喉の渇きと共に目を覚ますと、すぐ目の前にある木製の壁に置いたポーチの中へ手を突っ込む。

 起き上がって取り出した水筒に口をつけると同時に、朝日が染みて目を細める。

 水を飲むのと同時に狭い廃屋の中を見てみるが、アレルの姿はおろか、メリィも見当たらない。


「ぷはー!……もしかして寝すぎた?外にいるかな……」


 ポーチを腰に付けたネーアは、小さな不安と共に小屋の外へと出てみる。

 ……とりあえず粗末な扉の先――目の前にはなにも見当たらない。

 が、そのままキョロキョロと辺りを見回してみると、アレルが両手をポケットに突っ込み小屋に寄りかかって立っていた。

 そしてその具具隣、メリィは寄りかかったまま座り込んで寝ている。


「お……おはよ」


 気まずいながらに朝の挨拶をしてみた。


「…………」


 しかし返事が来ることはなく、アレルはチラッとだけネーアに目を向け、そっぽを向てしまう。

 その瞬間、彼の顔が何かマズいモノでも見たかのようにしかめっ面になったように見えた。

 そんなアレルにネーアは少し可愛いヤツだなんて思い、自然と笑みがこぼれる。

 ――ふと、ネーアはアレルの右頬に貼られた布が目に入り、口を開いた。


「昨日はゴメン。急に決闘なんて言い出して。……どうしても譲れなかったんだ」


「…………」


 相変わらずだんまりを貫くアレルだが、右ポケットから何か取り出し、その握りしめた拳を彼から見て右にいるネーアにむかって押しつけた。


「……ん」


「え……あ、うん」


 そっぽを向いたまま差し出してくるソレを受け取る。

 見てみると、それは西洋のアンティークの様な装飾を施されたネックレスだった。

 その先にはめ込まれている真紅の宝石からは、太陽のエネルギーでも封じ込めているかのような大きな力を感じた。


「アレル、これ……うあぁッ!?」


 突如、その宝石が大きな輝きを放つ。

 ネーアは何が起こってるのか必死に目を細めてみてみると、どうやら黒い何かがその宝石に向かって吸い込まれて行っているようだった。


「何か吸い込んで……!?どこから……!!?」


「…………」


 寝起きの目にかかる刺激を必死に耐えながら、その黒いモノの出どころを流れから確かめる。


「え!?……これ、でも…」


 ――黒いモノの出どころは、ネーアの体全体だった。

 宝石は吸引力の変わらない例の掃除機の如く黒いものをズイズイと吸い込んでいき、1分ほどでその輝きを失った。

 透き通った真紅の色がウソのように黒く濁る。

 それを見て戸惑っているネーアに、そっぽを向いたままだがようやくアレルがその口を開いた。


「ソイツは〝マ晶石(ましょうせき)〟ッつーマ素を吸収する石だ。本来は使い捨てだがオレがソコに溜まッたヤツ吸収すリャまた使える」


 そう言うとアレルは器用にマ晶石の前に手をかざし、そこに溜まったマ素を吸収する。

 どうやら前回暴走した時、あの一撃だけでは全てのマ素は吸収しきれず、その残りカスが宝石に吸収されたらしい。

 元の輝きを取り戻した宝石から手を引いたアレルは、再び手をズボンのポケットに突っ込んで言った。


「あッた方がイイだろ……ソーユーの」


「う、うん……えっと、その」


「イラネ―なら返せ!」


 まるで焦るかのような大声を上げるアレルに、ネーアは体をビクッとさせる。

 ネーアは慌ててブンブンと首を横に振って言った。


「いるいるいるいる!!」


 そして照れ隠しをするように笑顔を作ると一言、心の底から思ったことを口にした。


「―――ありがと!」


「ネーア?……急になにいってるさー?ふあーぁあ」


 アレルの大声で目を覚ましたらしいメリィが、ネーアの笑顔を見て言う。

 アレルにした笑顔をまじまじとメリィに見られたネーアは、顔を真っ赤にしてネックレスを隠すように腕を後ろに回した。


「な、何でもないよ!?うん、何でもない!!!」


「そうさー?なんか汗かいてるさー」


「……モタモタしてンじゃねエ。起きたンならいくぞ」


 一晩して頭を冷やしたのか、アレルは冷静に一言だけ言って北へ歩き出す。

 思わぬ一言に何が起こったのかと見入ってしまうネーアだが、改めて自分を認めてくれたのだと気が付くと、今度は自然と笑みが零れた。


「―――うん!」


 ネーアは「出発」の意でメリィの頭をポンとひと叩きすると、ネックレスと改めて首にかけ、その後を追う。





「……誰だあの男」


 廃小屋の陰から3人を見ていた黒ずくめの男は、嫉妬深い声でそう呟いた。




 ===2時間後 [霊峰エトナルスタ]入り口===


「なんだこれ……鳥居?いや、違うな……なんだ?」


 霊峰にたどり着いたネーア達を出迎えたのは、鳥居によく似た何かだった。

 鳥居と言えば鳥居に見えなくもないのだが、なんだかうねうねしている。

 その謎の物体に目を奪われていると、アレルがネーアに話しかけてきた。


「オイ、アクしろ。置いてくぞ」


「え!?へ?は、はい!」


 すでにネーアより50mほど前に進んでいるアレルとメリィを必死に追いかける。


 その山肌は完全に岩でできており、所々にコケが生えていた。

 ――上を見上げれば果てしない。


「ね、ねえ……これ、この山明らかに雲より高いよね?…ほんとにそんなとこにいるのかなあ」


 追いついたネーアがアレルにそう問いかける。


「知るかンなコト!さッさと足動かせ足!!」


 アレルはそう言い捨てて歩くスピードを上げる。

 しかしそれもごもっともと思いながら、ネーアとメリィも彼の後に続いた。

 その山道はまるで舗道されているかのようにひたすらに一本道の歩きやすい坂道になっていて、ネーアはものすごく不安になる。

 いくらなんでも怪しいだろう、罠でもあるんじゃないか、そんなことを何度も思っていると、横からメリィが口を出してきた。


「怖がらなくても大丈夫さ!この山は大昔に聖女様が降り立ったって言われてて、この一本道も聖女様が下山しやすいようにそうなってるって、どっかの本にそう書いてあったさ!!」


「へ、へー……そーなんだ……」


 そんな大昔の神話を当てにしろと言ってくるこいつをドラゴンにでも食わせてやりたい。

 そんなことを思いながらもひたすら前を見て足を動かす。

 そうして30分。どうやら一度休憩ポイントになりそうな平地にたどり着こうというところでアレルがピタッと立ち止まった。


「こ……コイツぁ…」


 すぐに追いついてアレルと足を並べると、信じられない光景がネーアたちの目に飛び込んでくる


「え……なにこれ……」


「ひえぇ……」


 3人が見据える先には3m程の小さなドラゴン―――を捕食している同じくらい大きなまだら模様の蜘蛛の姿があった。

 周りをよく見てみるとその全長100mの楕円形の広場は岩壁が一面極太な蜘蛛の巣で覆いつくされており、ドラゴンだけでなく、同等に大きな猫や鳥のような骨格の骨が大量に散乱している。

 それらすべてがこの蜘蛛に捕食された野かと思うとゾッとする。


「オーバード・プライクタラテクト……!!」


 アレルがそう呟き剣を抜く。

 そしてそれと同時に、その大蜘蛛はネーア達に気が付き、食べかけのドラゴンをまるで冷蔵庫へいれるかのように素へ放り投げる。

 どうやらやるしかないようだ。

 ネーアも後に続いて短剣を抜き臨戦態勢に入る。


「全く……中ボス戦とかいらないんだけどなあ…!!」


「ウダウダ言ってンじゃねェ!!やるぞ!!!」


 冷や汗を流すネーアにそう言って、アレルは大蜘蛛めがけて地を蹴った。






 つづく

なんでアレル君はネックレスなんて持ってるんでしょうか。その入手経緯は2章の番外編をドウゾ

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