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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第1章:序: 帰路と幻想と理不尽と
4/80

 4話 『初めての人里 その2』★

 ―前回までのあらすじ―

スライムに名前を付けたらメリィが胸にダイブしてきた。

「わっ!ちょっとグリグリすな!痛いって!!」


 ネーアはそう言い放ってメリィの脇腹を掴む。

 引きはがすと、メリィは結構マジな感じで泣いていた。


「えっ、いや、なんでそんな泣いてるのさ」


 若干引き気味にネーアが問いかけると、メリィは彼女の手を振り払ってメリィは再び胸元へ全力ダイブする。


「全然目覚まさないたから心配してたのさああああ!うわああああん!!」


「だから痛いって!離れなさい!!お前の涙なんかべとべとする!」


 再び引きはがしてメリィを隣に置く。

 そしてため息をついたところに、外出していた男が帰ってきた。

 何やら大きな袋を一つ抱えているようだが、買い物にでも行ってきたのだろうか。


「おうおう泣きわめきおってからに。メリィが迷惑かけたな」


「メリィのこと……ご存じなんですか?」


 ネーアが男にそう問いかける。

 すると男は、これでもかと大笑いしながらネーアに応えた。


「ガッハハハハ!!そういえば言ってなかったなあ、そいつはウチのペット兼マスコットだ!」


「はっ!?今なんと」


 ペットって言った。今絶対ペットって言った!

 自分を召喚したヤツがこの大男のペット!?

 どうにも現実を受け入れられずに口をあんぐりとさせているネーアに、男は思い出したとばかりに視線を外し、持っている紙袋を渡しながら言った。。


「ま、まあ、積もる話は着てからだ。この町一番の職人に頼んで見繕ってきたオーダーメイドだぞ」


 その袋の中に入っていたのは、いかにもファンタジー世界にありそうな衣類が一式。

 冒険者っぽい厚底のブーツや指ぬきグローブなんかはすごく中二心をくすぐるものがある。

 女性用という一点を除けば、手放しで喜んでいたところだ。


「じゃ、オレたちは外出てっから着替え終わったらそのまま出てきてくれ。町の案内ついでに寝てた時のこと話してやるからよ!ほれ、いくぞメリィ」


「ふあぁ~いさ~」


 そう言って2人は再び外へ出て行った。

 二人を見送ったネーアは、手渡された袋を改めてまじまじと見つめ、ため息混じりに小さく口を開く。


「…………着替えか」


 改めて自身の体を意識して顔を赤らめるネーア。

 今までそこまで意識はしていなかったが、鏡を見てみると中々スタイルは悪くない。

 胸はそれなりにあるし、イイ感じにくびれてて、顔も……正直結構好みだ。

 しかしそれが故に、ピュアな心が興奮と同時に羞恥心を何倍にも増幅させる。

 眉間にしわを寄せ、袋の中と身体を往復して何度も何度も見続けた。

 ……あと一歩、勇気が足りない。


『何してるニャ、はよ着替えるのニャ?にゃあもそろそろ外に出たい気分なのニャ』


「おわ!そういやお前いたの忘れてた……変な目で見るなよ」


『人間のメスの着替えなんて興味ないニャ~、さっさとするニャ』


「はいはい分かりましたよ……あーもう!」


 少なくとも元の世界に帰るまではこの体と共に生活していくしかないのだ。

 それに自分の体だ!見ようが触ろうが自分の好き勝手にすればいい!そうだ何が悪い!!

 必死に……半分開き直るように言い聞かせながら袋の中から女物の衣類を取り出し、慣れない手つきで身に着けていく。

 ……しかし〝ソレ〟を手にして袋から出した時、再び手が止まってしまった。


「……いやまあ、何、何も不思議なことはないんだけどさ……これ、穿くの……?」


 手にしたものの正体―――ソレは紛れもなくスカートそのものだった。

 男だったら物好き(というか変態)でもない限りほぼほぼ身に付けたりしないソレを前に、再び躊躇するネーア。


 ――これを穿いてしまったらボクの中の何かが欠落する気がする――!


 しかし穿くしかない。穿くしかないのだ。

 どうしようもない葛藤と絶望感に襲われながら、ネーアは再び手を動かす。

 そしてホックを留めベルトをした時、達成感と共に色々な〝何か〟を失ってしまった悲しみが涙となって彼女の頬を伝ったのだった。


「もぅマヂ無理……おうち帰りたい……」


 着替え終えてからこぼれ出た、正直な一言。

 大量の喪失感と先への不安を胸に、かなーり重い足を動かしベッドから降り、立ち上がる。

 そして違和感の拭えない下半身をなるべく意識しないようにしながら、男とメリィが待つ外へと繰り出していくのだった。


挿絵(By みてみん)




  ===[ミネルバの町] ラウルスティン家前===


 ネーアが家の外に出ると、メリィと男がなにやらコソコソと話をしていた。


「で。どうだったんだ?嬢ちゃんの胸の中は」


「それはそれはもう、聖女サマの様なぬくもりと柔らかさが……」


 そこまで言いかけて、メリィがネーアの存在に気付く。

 まあ、元男の身としては気持ちはわからんでもないので、あまり言及するのはやめておこうと、ネーアはそんな二人を真顔で眺めていた。


「ね、ネーア!これは違うのさ、えっと」


 慌てふためくメリィを見て男も気づいたのか、すごくマズイ!という感じの表情でネーアを見ている。

 こうしてみるとさっきまでとは打って変わって、見た目相応のおっさんに見えてしまって仕方がない。


「はぁ……名前はもういいけどさ、メリィ。お前ボクが誰か知ってるだろ?そりゃあ、気持ちはわからないでもないけど流石に気持ち悪いぞ」


「じょ、嬢ちゃん!何を言っているかは分からんがこれには深い深いワケが……」


「おじさんも、別にそこまで気にしてませんから……お世話になってる身ですし。そういえば、まだお互いに名前も全然知りませんでしたね」


 こんな話をしているのもある意味諸刃の剣……なので話を切り替えようとするネーアに、男もハッとしたように納得する。


「そう言えばそうだったな!オレはメルオン・ラウルスティン。このミネルバの町を拠点に冒険者稼業をしている。」


「ね…………ネーア、です。そこのメリィに召喚されてきました」


 ああ、名前が思い出せないのが恨めしい。

 仕方がないのでメリィに付けられた名を使うことにするネーア。

 そして彼女の一言を聞いたメルオンは、驚愕の眼差しでメリィを見つめていた。


「め、メリィ。お前が…嬢ちゃんを…………??」


「だからそうだって最初から言ってるのさー、もっとご主人のペットでありマスコットであり相棒でもあるオイラを信じるのさ」


「いやだってよ……信じられないだろう?流石に」


 召喚魔法とは、召喚するものによって掛かるコストが異なる。

 人間サイズともあれば、本来ならメリィ一人では必要分の10分の1にも満たないのだ。


「ま、まあ今はそれは置いておこう。町案内と行こうじゃないか、嬢ちゃん」


「え……あ、はい。よろしくお願いします」


 少し気になる話をしていたので続きが聞きたかったネーアだが、今の本題はそこではなかったのでひとまず諦めることにする。

 きっとそのうち知ることができるだろうと信じて、ネーアはフォグラードに来て初めての人里。ミネルバの町へと繰り出して行った。






 つづく

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