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37話 『面倒は面倒を呼ぶ』


「????????」


 ネーアはあまりに訳が分からなさ過ぎて顔のパーツがすべて〝?〟になってしまう。

 目の前でのびのびとしているのは女王様ですよね?

 この国の女王で、一族の長……なんですよね!?

 さっきまでの女王然とした態度と風格はどこへ行ってしまったのか。

 そのながーーーい伸びを終えた女王が、改めてネーアの顔を見て口を開いた。


「いやーごめんごめん!私昔からあーいう堅苦しいのだめでさー。楽にしていいよ!私のことはリリーって呼んで!」


「リ……リリー、様」


 ネーアは混乱しきっている頭でなんとか彼女の言葉を理解し、その名を呼ぶ。

 が、女王――もといリリーは最後の2音に敏感に反応して顔をムスッとさせて言った。


「リリーよ!呼び捨てでいいの!話すときも!軽くていいから!ね!!」


「そ……それは、流石に………」


「いいの!!」


「ええ……」


「返事!」


「はいいい!!」


 急な上によくわからない流れに飲み込まれていくネーア。

 しかし流石に動揺していることに気が付いたのか、リリーは少し離れて地べたに座り込むと口を開いた。


「いやーホントごめんねー。若い子に会うの久しぶりでさー!……と、また話逸れそうになっちゃったね。えっとわかってるよ。エルクシルでしょ?」


「えっ…はい!……うん」


 急に本題に入りだすリリー。

 ぎこちない返事を返すネーアに少し顔をしかめるが、すぐにその美しい顔を笑顔に戻して続けた。


「あげてもいいよ!」


「は!?」


 さっきからそんな驚きの声ばっかりあげている気がするがそれどころではない。

 今リリーは確かにあげると言った。

 そしてそれが聞き間違いではないことを裏付けるかの如く、リリーはパチンと指を鳴らし、どこからともなく1本の小ビンを召喚する。

 そしてその青白い光を放つ小ビンをネーアに渡した。


「え、えっとさっきから何が何だか全然わからないんで……だけど」


「んー?安心して!そのエルクシルはザールーンが貴女から没収したやつだから」


「い、いやそういうことじゃなくて……」


 もらえるならそれはそれで構わない。

 が、こういうものには大体面倒事が付いて回ってくる。

 そしてどういうことかわからないが今ネーアには不幸があまりにも連鎖してきているのだ。

 つまるところ、嫌な予感しかしない。


「普通に、定価で買いたいんだけど……それじゃダメなの?」


 それを聞いたリリーは、困り顔で首を横に振る。


「それこそゴメンよー!エルクシルは転売や密売にホント厳しくてねー。売っちゃうとそこに触れちゃうんだよー。だから、あげると言ってもこれは報酬の前倒し。一つ頼まれてくれないかな!」


 ホラ来た。

 ここまでくれば大方の予想はつく。

 こんな時に前払いでまで報酬を渡すとしたら……。


「君にエルクシルを売りつけようとした密売人を捕まえてほしいんだ」

(あの黒ずくめを捕まえろ……だろう?)


「ア………ですよねー…」


「あれは昔からエルクシルの転売や密売だけでなく、強盗や殺人もやるやつでね。最近ようやく尻尾がつかめてきたんだけどなかなか難航してるんだ。どうかな?もちろん、エルクシルだけじゃ報酬として心もとないからね。別で特別報酬もつけるよ!」


 リリーはそう言いながら、懐から1枚の手配書を取り出してネーアに手渡す。

 それは黒ずくめの肖像が書かれたものだった――懸賞金は500万E。


「ん?……あれ、この手配書どこかで………?」


 よく見ると、どこかで見たような気がする。

 いや、つい数時間前に直接会ったので当たり前ではあるのだが。ここではないどこかで、確かにこの手配書を見たことがあった。

 というか手配書を見たのは王都メフィルに行ったとき、大通りの掲示板で通貨の読みを教わったあの一回だけだ。


「あー……あの時ね……なんだ…」


 なぜかすごく残念な気持ちになるネーア。

 それをリリーがのぞき込んで首をかしげる。


「何々?なにかしってたりする!?」


「い、いや全然!うん、全然知らない……というかちょっといい?」


「なになにー?なんでも聞いて!」


 リリーがえっへんと胸を張る。

 それに対してネーアは、眉間にしわを寄せ、かなり険しい顔でリリーの目を見て言った。


「この人……懸賞金500万の首なんだよね?それならかなり戦闘にも長けてるでしょ。そんなのにボクが行って太刀打ちできると思えないんだけど」


 ネーアは腰に携えた短剣の柄を握りしめる。

 不安の色を濃くしたネーアの顔を見て、リリーはチッチッチと指を振って口を開いた。


「そりゃもちろんそうさ。安心して!心強い助っ人を呼んであるからさ!」


「助っ人……?」


「そ!まあ会えば分かるよー……で、どーするー?まだ答え聞いてないよー」


 リリーは意地悪な顔をしてネーアに問いかける。

 ぐぬぬぬとどこかやるせない表情を見せて、ネーアはリリーに言う。


「どのみち、やらないといけないんでしょ?やるよ…もう」


「そーこなくっちゃ♪懸賞金の方は山分けになるけど、特別報酬は期待してていいよ!……とネーア、大陸の地図はもってる?」


「えっと……」


 今持っているのは、ライオンに貰った首都アルフの地図のみだ。

 ネーアは首を横に振ると、リリーがまた指を鳴らして大陸地図らしきものを出した。


「それも召喚魔法の一種?なんだよね?……すごい便利そうだなぁ」


 ネーアがそう言うと、真面目に地図に何か書き込んでいるらしきリリーは、少し顔をにこやかにして口を開いた。


「これは召喚術。根本から召喚魔法とは原理が違うんだー。召喚魔法には複雑な魔法陣と贄が必要でね、その代りに大きなものや人間でも召喚できる。召喚術はあらかじめリンク先を設定しておいて、自分の魔力で通り道(ゲート)を作ってやる。その出口を自分の手のひらの上とか、そういったところに開いてあげるんだ」


「ほー……」


「あと大きな違いと言えば、向こうの世界と繋げるのが召喚魔法。そうじゃないのが召喚術、かな!……っと、できたよ!はいこれ」


 リリーはネーアに地図を渡すと、そこに書かれたメモを指さして言った。


「その丸が潜伏地点と思われる場所。この町から北……霊峰の山頂付近だね。随分昔から立ち入り禁止区域になってるんだけど、最近魔物が棲みついてるって噂もある。気を付けて!」


「う……うん」


 RPGでよく見たお馴染みの展開。

 そんな展開に胸躍らせる反面、命を危険にさらすことに対する緊張感がネーアを襲う。

 地図をポーチにしまうと、やるぞと言う意思表明の如く、エルクシルの入った小ビンの線を抜き、中をがぶ飲みする。


「おー!いー飲みっぷりだー」


 何かに使えるかもしれないそのビンをひとまずポーチにしまうと、ネーアの体が青白い光に包まれる。

 まだ確認しようもないが、どうやら無事に力が戻ったようだった。

 その光がおさまった後、改めてリリーの顔を見て口を開く。


「じゃあ……行ってくるね」


「うん!助っ人は大樹の前に待機してると思うよー。さっきも言ったけど、特別報酬は期待しといて!」


 そうして、ネーアはまた一つ面倒ごとを抱え、神秘的な城をあとにした。



 =========


「はぁーーー……」


 大樹の中から出てきたネーアは、まず大きなため息を漏らす。

 が、そんなところを助っ人に見られるわけにもいかない。

 見つかる前に頬を叩き気を取り直す。すると…


「ネーアー!!!」


 メリィがネーアの胸元に飛び込んできた。


「め、メリィ!?よかった、すぐ合流出来て……ん?」


 ふとメリィが来た方向を見ると、そこに立っている人物にネーアは目を丸くする。


「な!?……なんでここに!?だってここは……」


「……う、うるせエ!仕方なくだ仕方なく!!勘違いすンじゃねェぞ!!」


 この喋り方、そのいで立ち……間違いない。

 そこには、苛立っている様子の勇者――アレル・ソル・ヴァルケリアが立っていた。





 つづく

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