36話 『どうしてこうなった!?』★
===[アルフ城]地下牢・尋問室===
アルフの城は、大樹の中に創られている。
と言っても人口物ではなく、その空間自体は神に与えられたかのように自然精製された不思議な空間だ。
黄金に輝く光の河がひたすら上に昇っている中に、睡蓮の葉のような光の足場が作られており、その広大な空間に城が浮かんでいる。
ネーアはそんな大樹の城に繋がる大扉の脇。
根と根の間に掘られた階段を下った先にある地下尋問室に連れてこられている。
「さて、詳しく聞かせてもらおうか」
ネーアを連行したリザードマンが机に手を組んで言う。
向かいで萎縮しているネーアは、彼の目を見、納得がいかないとばかりに尻尾をピンと逆立てて口を開いた。
「誤解です!!ボクは密売なんてしてません!!」
「じゃあ、これは何なんだ?」
リザードマンが机に置かれた子袋を指さす。
「あの黒ずくめに押し付けられたんですよ!!お金も払ってないですし、断ったんです!!それはお返ししますから解放してください!」
「断った……とは?」
必死に弁明するネーアに対して、1フレーズ気になったことを質問し返す。
ネーアはどこまでも疑ってくるリザードマンに嫌気がさしつつも、ため息一つで我慢し、経緯を説明した。
「普通にエルクシル買いに来ただけなんです。でもどこも売り切れてて……そこにあの黒ずくめが話しかけてきて、絶対怪しいと思って断ったんですよ!」
「………」
リザードマンは、なおも怪しい目をネーアに向ける。
負けじとネーアもまっすぐリザードマンの目を見る。
耳と尻尾をピンと逆立て、背筋を若干前に倒し、両手の拳を膝に置いているその様は、まさしく威嚇する猫のようだった。
そんな状態が5分ほど続くと、リザードマンは「はぁー」と大きなため息をついて言う。
「ウソは、ついていなさそうだが……フム」
リザードマンは腕を組んでネーアのことをじっと見ると、何かを思い出したかのように悩みだした。
「な、何ですか………?」
「貴様、エルクシルが欲しいのだったな」
「そう、ですけど………」
リザードマンは子袋の中身……蒼白く光る液体が入った小ビンを取り出し、机に置きなおす。
そしてその蓋を人差し指で抑え、口を開いた。
「ことと場合によっては、こいつを貴様にくれてやることもできる……女王様に謁見する気はないか?」
「―――!?」
突然出てきたリザードマンの言葉にネーアは息をのむ。
意味が解らない。なぜそうなる?
「いや、普通に買えればそれでいいんですけど……」
「次の精製はしばらくかかるが。それでもいいのかね?」
よくない。それは実によくない。
女王様に謁見すること自体は別に構わない。
エルフの女王様というくらいなのだ、さぞかし美人なのだろう。一目見てから帰りたいとは思う。
「…………」
「どうするのかね」
―――どうやら行くしかないようだった。メリィを木陰に置いてきてしまったのが気がかりだが、今は行かせてはもらえないのだろう。
「わかりました。行きます」
「いいだろう。ではついてきなさい」
どうしてこんなことに……。
ネーアは大きなため息をつきながらリザードマンの背中を追った。
===その頃 東住宅街入り口付近===
「んあ……オイラ、ねむっちゃってたさ?………!?」
目を覚ましたメリィは、既に空が赤く染まりかけているのを見てその場で飛び上がる。
「ネーアどこさー!?エルクシルはどうなったさー!?」
その場で大声をあげるが、辺りにネーアがいそうな気配はない。
メリィは心配になってよろずやの方へと飛んでいく。
「ネーアー…どこいっちゃったさー……」
店に入ると老人が店内の掃除をしていた。
メリィは老人に向かってネーアを知らないか問いかける。
「おじいさー、これくらいの青い服着た人獣の女の子知らないさー?」
老人は手を休めることも、メリィの方を見ることもなく口を開く。
「しらん!もう今日は店じまいじゃ、冷やかしなら帰っとくれ」
「ご、ごめんなさー!」
慌てて店を飛び出すと、そのまま大樹の方へとまっすぐ西に飛んでいった。
出来るだけ辺りを見回し、その特徴的な耳と服装を目印にネーアを探しながら。
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「ネーア……」
ひたすらに探し人の名前をつぶやきながら進む。
大樹に近づいていくにつれて人が増えていくが、それらしき人物は見つからない。
「うう……おなかへったさあ」
すっかり空も暗くなり、雲一つない星空へと変貌している。
上からは闇夜を照らす光属性の魔法の街灯が、地面からはあふれる魔力がシャボン玉の様な光となって点へと昇っていく。そこはまさに幻想的といえる空間になっていた。
―――ごぎゅるるるるるるる
が、それとは別に否応なくメリィの腹は鳴る。
既に探し始めて3時間は経過している。
ずっと探していたために、その小さい体が体力の限界を感じ始めていたころ。
ごつん
「あ?んだテメェ」
何者かにぶつかったメリィは、そのままふらふらと地面に倒れてしまう。
メリィはうつぶせに倒れた状態で、どうにか謝ろうと声を振り絞る。
「ご、ごめんなさー……でもオイラ、もぅ限界……さ‥‥」
その一言で力尽きたメリィは、そのまま気を失った。
「ん?………この白いのは確か‥‥」
===[メフィル城] タイジュの間===
大樹の中に造られている城は、大樹の中にめぐる魔力の光で夜でも非常に明るかった。
リザードマンにその王座の間に当たる部屋―――円形の大広間へと連れてこられたネーアは、女王の美貌に見惚れていた。
(なんだこれは!!つやつやとして美しく結われている長い髪!何もかもを包み込むような優しい目!美しくぷりぷりとした唇!大きすぎず小さすぎず、そしてみただけでもふんわり弾力が感じられるような形の整ったバスト!引き締まったくびれに程よくでたヒップ!なんだこれは!!)
お嫁に貰いたい。そう思った。
まさしく2次元嫁がそのまま出てきたような美貌を見せつけられたネーアの頭は、エルクシルどころではなくなっている。
この世界に肉体的同成婚は認められているのか!?しかし相手は女王様。とても自分では手が届かない…!
(まあ、元の世界帰るのにこっちで結婚とかありえないけど……)
そんな妄想と冗談を脳内で繰り広げているところに、リザードマンの大きな手がネーアの頭を鷲掴みにする。
「何をしているのだ貴様は!?だれの御前にいるのか分かっているのか!?」
「あっ!!えと、すみません!!」
謝罪の言葉と共に跪き頭を下げる。
リザードマンはやれやれと頭を抱えると、女王は微笑を浮かべながら口を開いた。
「ウフフ。いいのですよ。初めて私とお会いした〝殿方〟は大抵そのように我を忘れてしまうのです。そこの彼、《ザールーン》近衛団長もそうでしたから」
「うっ……」
笑顔で綴られた最後の言葉にリザードマン――もといザールーンが複雑そうな顔をしながら頭を下げる。
何無理はない。それほどに美しいのだ。このエルフの女王様と言うのは。
「申し遅れました。私はここアルフェトラの、一応国王を務めております。エルフ族の長、《リリーフリューレ・ソル・フォーレイスト》と申します。よろしくお願いいたしますね、〝ネーアさん〟」
「へ!?あ、は、はい‥‥・・」
(ボ、ボク名乗ってないよね!?なんで!?)
謎が深まるばかりであるが、そんなことはお構いなしに淡々と状況は変わっていく。
女王はザールーンに目を移して言った。
「ではザールーン。私はこの方と二人でお話したいことがありますので、よろしいですか?」
「はっ!!」
「へ!?え!?」
ザールーンが完璧な敬礼と共に返事をするのに対して、全くもって訳が分からないネーアは戸惑いの声が隠せない。
そのままザールーンが出て行ってしまうのを見送るしかできなかったネーアに、女王が席を立って近づいてくる。
ネーアは何が起こるのか分からない展開に冷や汗を幾筋も伝らせるが、女王が彼女の目の前まで立ったところで大きな伸びをし、部屋全体に響くような大声をだした。
「あーーーーもう!めんどくさーーい!!!」
「――――!?!?!?!?」
つづく