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35話 『エルクシルはいずこ?』

 ===[アルフェトラ精霊国]首都アルフ===


「でっかい樹……スカイツリーくらいあるんじゃないか!?」


「?……すいかつり?って何さ?」


「スイカじゃね……な、何でもない!いくよ!」


 アルフは大樹と呼ばれる全長600mにも及ぶ樹を中心とした円形の巨大な町で、連日観光客が大いににぎわいを見せている。

 船を降りたネーアとメリィは、早速霊薬エルクシルを求めて商店街へ繰り出して行った。



 ===5分後 港前商店街===


 港から一番近い商店街に足を運んだ2人。

 一番近いというだけあって土産屋やら名産品を取り扱う店が多いが、一応武具屋なども一通りそろっている大きな商店街だ。


「霊薬だろ?……薬屋とかかな?」


「人多いから売り切れてたりするかもさー」


「え、縁起でもないこと言うなよ!急ごう!」


 人がごった返しになっている中、店の看板を見ながら走っていく。

 亜人ばかりなその中には、ウロコが生えている人や全身毛むくじゃらな人だったり、はたまた大きな羽が邪魔になって謝りながら進んでいる人だったり、実に多種多様な亜人の人々が見て取れた。

 看板と同時にそんな景色を見ながら急いでいると、突然、人の波がすぱっと途切れた区画が目についた。

 なんぞや?と思いその看板を見てみると[道具屋]の意を示す単語。


(やはり人が多いと言えども観光地。一般的な道具屋はあまり儲からな……)


 そんなことを思いながら視線を店内へ落とすと、カウンターから覗く鋭い視線に気が付く。


「何かめっちゃ見られてる気がするんだけど…」


「ネーア、なんか寄って来るさ!」


 ずんずんと大きな足音を立ててその店の店主らしき男がネーアめがけて歩いてくる。

 メリィはそれにおびえてネーアの陰に隠れてしまった。

 そしてそのライオンの様な姿をした身長3mはありそうな大男は、眉毛に隠れた赤い目をギラつかせて口を開く。


「何だおめえ。ウチになんか用か」


 その迫力に若干後退りそうになりながら、ネーアはライオンの鋭い視線を見て答える。


「えっと……その…」


「なんだ、早く答えねえか」


「え…エルクシルを、探してまして……」


「エルクシルか……一歩遅かったな」


「へ!?」


 腹をすかせた肉食獣のような顔を一変、残念そうにして答える。


「いやあ、うちはオレの見た目がこんなんだからよ。見ての通り人が寄り付かなくてやってくのも精一杯なんだが…エルクシルはこの辺じゃうちだけしか置いてなくてな。ついさっき売り切れちまったんだよ。すまねえな」


「そ、そんな……」


「げ、元気出すさー、また探せばきっとあるさー」


 落胆したネーアを見たメリィが、陰から出てきて彼女の頭を擦る。

 ライオンもネーアの頭にその手をぽんと置いて続けた。


「そうだぜ。ここらじゃうちだけだが、もっと上の……そうだな、大樹の東側にも置いてる店があったはずだ」


「東‥‥ですか?」


 ライオンは頷くと懐から1枚の地図を取り出す。

 その地図の右側……中心の大樹から東側の中心あたりに印をつけてネーアに渡した。


「これは?」


「おう、見た感じネーちゃん地図持ってなさそうだからよ、それやるよ。その印のよろずやだったら古ぼけた店だが一本くれえ置いてるはずだ。その辺は住宅街だから人は救ねえと思うが、急ぐといい」


「おー!」


「あ、ありがとうございます!!」


 ネーアはライオンに笑顔でお礼を言って大樹の方へ走っていく。

 ライオンはその後姿を手を振って見送ると、「あっ」としまった顔をして言う。


「言ってなかったな……。まあ、あんないい笑顔できる娘が手だすこたあねえか………」





 ===1時間後 大樹から東に2km地点===


 地図を見ながら休み休みに1時間。

 景色を楽しむ間もなく、ようやくそれらしき住宅街へとたどり着いた。

 洋風な造りの家々が並ぶ中、ネーアは目線の先…一軒だけ木造の看板を指さして口を開く。


「あーもう汗だく……あれかな、よろず屋って」


「たぶんそうさー…オイラもう動きたくないさあ」


「待ってていいよ。ボク行ってくるから」


 メリィに一言だけそう言い近場の木陰に休ませたあと、中々目立つ木造建築へと足を運ぶ。

 建物自体はなんの変哲もない2階建ての中は、よろずやと言うだけあって色々なものが取りそろえられている。

 武器や防具、簡単な薬など目を通していると、誰もいないカウンターの奥から一人のエルフらしき老人が姿を現した。


「むむむ、お客さんかね珍しい」


 老人はネーアの元へ駆け寄っていき彼女が今見ていたそれ―――黄色い液体の入った小ビンの説明をしだす。


「そいつはわし特製の魔法薬でな?それを飲めばたちまち元気が……」


「いえ、これはいらないです」


 こういうタイプは絶対に話が長い。

 そう思ったネーアはぶった切るように老人にそう言うと、老人は口を3にしてそっぽを向いてしまう。


「む、なんじゃお客さんじゃないのか?冷やかしなら帰っとくれ」


 シッシとあしらうようにネーアを店の入り口へと押す。

 老人のその対応に、ネーアは慌てて言葉を返した。


「いえいえそうではなくて!ここはエルクシルを扱ってると聞いてきたんですが!!」


 霊薬の名前に眉をピクッとさせた老人。

 押すのをやめてネーアの顔をじっと見た老人は、空いている台座を指す。

 その台座には〝霊薬エルクシル〟と書かれた立札がたてられていた。


「そう言うことなら早くいわんか……が、ついさっき若い男が来ての。全部売ってしもうたんじゃよ。ひと月に1回、3本しか入らん。しかもこの大陸内でしかもたんものをそんなに買ってどうするかは知らんが……スマンのう」


「え……ええ……」


 ここまで来て無駄足。

 偶然なのか誰かの策略なのか、いずれにせよ肩から力が抜けてしまう。

 そして次に老人が放つ言葉が、そんなネーアに追い打ちをかけた。


「うーむ、あとこの町でエルクシルを扱ってるところと言ったら港の商店街くらいじゃと思うが……何分希少価値が高いものじゃからのう」


 つまりもう市販ではしばらく手に入らないということ。

 ゆっくりして来いと言われているとはいえ、そこまで待っている時間もない。


「えっと……市販以外の入手方法ってあるんですか?」


 ここまで来たからにはなんとかして手に入れなければならない。

 老人は頭をしばらく悩ませると、首を横に振ってこたえる。


「スマンのう・‥‥そこまではわからんのじゃ。心当たりがないわけではないが、よそ者には難しいじゃろうて」


「そうですか……ありがとう、ございます…」


 肩を落としたまま、ネーアはよろず屋を出る。

 これからどうするか。というかいくらなんでも不幸が続きすぎでは……?

 そんなことを思いながらメリィが待つ木陰へ足を運んだ。


「メリィー、ダメだった。とりあえず………あれ」


 少し待たせてしまったせいか、メリィは疲れて眠ってしまっていた。

 ひとまずいつまでもこんなところにいるわけにもいかないので、地図をひらいてどこか近場に宿はないかと見る。

 すると、何者かがネーアの肩を叩く。


 何事かと振り向いてみるとそこには若い、全身黒の装備に身を包んだ目つきの悪い青年が立っていた。

 その男はショルダーバックから子袋を取り出すと、ネーアに差し出して言った。


「聞いたぜ。姉ちゃんエルクシル探してるんだってな!1本10万でどうよ!」


「は!?」


 エルクシルの定価は5万E。実に倍額だ。

 そんな値段で売りつけられると言えば転売ヤーか密売か、はたまた偽者か……。いずれにせよどう考えても危ない橋だ。

 ネーアは断ろうとしたところに、青年はまた口を挟んできた。


「いいのかい?今年は原材料が不作でコレ逃したら次はもう〝半年先〟って噂だよ?それでもいいってんなら無理は言わないけどな!」


「ッ―――!」


 惑わされてはいけない。これは罠だ。


「け、結構です!お引き取り下さい!!」


 必死に意思を保ちながら叫ぶ。

 しかしもし本物だったら‥‥本当に次手に入るのが半年後なのだとしたら……。

 そんな思いも頭をよぎる。

 自分を言い聞かせるように歯を食いしばると、青年がネーアの後ろに何かを見てギョッとする。


「やべっもう来たか!……じゃあな姉ちゃん!縁があったらまた会おうぜ!!お代はもういいやー!」


「へ!?や、ちょっと!?」


 青年は子袋をネーアに押し付けて遠くへ逃げてしまった。

 何が何だかわからず立ち尽くしていると、再び何者かに肩を叩かれて後ろを見る。

 その犯人らしき分厚い鎧を身にまとったリザードマンは、肩に置いた手をそのままネーアの手首へ持っていき、無理やり渡された子袋を奪い取って言った。


「エルクシル密売の現行犯だ。城までご同行願おう」





 つづく

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