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34話 『アルフェトラへ』★

 とげ頭がその剣をネーアに向かってふるう。

 咄嗟に尻尾を動かして短剣でそれを受けると、ネーアは短剣にはめ込まれた宝石が光っていて、何か力が伝わってきているのに気が付く。

 が、力及ばず短剣は弾かれ、尻尾が地に落ちると同時にネーアの左肩に剣が食い込んだ。


「いッ―――!」


「殺しゃしねえ。けど多少のキズは致し方なしだ!抵抗するなら……わかってんだろうな?」


 とげ頭は肩に剣を食い込ませたまま残る1人――メリィを掴んでいる細身の男に目配せをする。

 するとその男はメリィの首元に手刀を添え、その細い手から魔力の刃が姿を現す。


「く……」


 唯一の武器である短剣は飛ばされた上、人質なんてタチの悪いモノがハンデに追加されてしまった。

 ネーアは痛みに耐えながら、先程と同じ要領で尻尾を体の陰で動かす。

 短剣がどこに飛ばされたのかは分からないが、後ろ、それもそこまで遠くではない。

 せめてすぐ近場であってくれ――ただその薄い望みに縋りつく。

 その時。


「ひゃうっ!?」


 尻尾に強烈な圧迫感を感じ、その声と共に一瞬痙攣を引き起こす。

 そして次第に、ネーアの尻尾から力が抜けていってしまう。

 彼女の尻尾は肉厚な左手―――先ほど腰を抜かしたデブ男の左手でぎゅっと握られていた。


「あ……力、が」

(ダメだ、全然力が入らない…尻尾にこんな弱点が……!)


「フゥー!!フゥー!!フゥー!!!」


「よくやった。そのままにしてろよ?」


 身体の一切の自由を封じられ、ただただ目の前のとげ頭を眺めることしかできなくなってしまった。

 そこからは一方的だ。

 体の麻痺が解けても動けないようにただ一方的に痛めつけられる。

 尻尾を握っていた男はいつの間にか動かなくなり、尻尾にかかっていた圧迫感も無くなっていた。


「ぐ……あ…‥‥」


 麻痺はまだ解けないが、尻尾には力が入らない。

 とげ頭はその顔をニヤつかせて剣を鞘へ下げる。


「そろそろいいだろ……クックククク。多少の不幸はあったが?こんな上玉抱けるんならお釣りがくるわなあ?クッハッハハハハハハ!」


「お頭……」


「あ?なんだ?人が気持ちいい思いしてる時に」


 高らかに笑い声をあげるとげ頭に、メリィに手刀を向けたまま細身の男が言った。


「俺は獣混じりには興味ないんでいいですが。コイツ、どうしましょう。」


 メリィをみて細身の男がそう言うと、とげ頭はめんどくさそうな顔を見せて馬車の方を指さす。


「そいつは別に用がある。御者んとこにでも置いてこい。ちゃんと縛っとけよ?」


「へい、了解です」


 男が馬車の方へかけていくのを見送り、とげ頭はネーアへ向き直る。

 彼はネーアの胸元へ手をかけ口を開いた。


「待たせてしまったな。じゃ、始めようか…ククククク」


「ッ――――――!!!!!」


 体をまさぐられる感触と、迫り寄ってくるとげ頭の唇に、ネーアの体は萎縮する。

 恐怖に声も上がらなくなり、見たくもないその顔から逃げるように目を瞑った。

 そして間もなく、とげ頭の唇がネーアの唇へと接触しようというその瞬間、何か生々しい音がして、ネーアは目を開ける。


 そこには、頭を何かに貫かれたとげ頭が横たわっていた。


「さすがにやりすぎだね。僕は足止めするだけでいいって言ったはずなんだけど……どうやら勘違いされたみたいだ」


 西……森の方から1人の女性が歩いてくる。

 とても優しい目つきをした、髪を肩のあたりまで伸ばしている女性だった。

 女性はネーアの肩に手をかざして治癒の魔法を施し、口を開いた。


「ごめんね、君の邪魔をしようってワケじゃないんだ……まあ、状況によるけど。それよりエルクシルを買いに行くんだってね?僕はそれが知れただけで満足さ。あっちに行ってるもう1人も、今の君の力なら問題ないだろう。残りの小さな傷は、君の短剣の〝自動治癒〟があればすぐ癒える」


「自動治癒……?と、いうか…なんでそのこと……」


 大きな傷があらかた癒えると、女性はその質問には答えず、立ち上がってそのまま東の方へ歩いて行こうとする。

 ネーアはせめてお礼だけでも言おうと立ち上がった。


「あ、ありがとうございます!……あなたは――!」


「僕?僕はしがない観察者……名乗るほどの名なんてないよ。ふフふフ」


 少しだけ振り向きそう言い残した女性は、夜の平原へと消えていった。


「一体、誰な………あれ、体が」


 時間がきて麻痺が解けたのか、女性が解いてくれたのかは分からないが、すっかり体の硬直はなくなっていた。

 一体彼女は誰なのか。どこかで見たことがあるような―――

 それを考える前に、ハッとして視線を下に落とし、短剣を探そうと目を凝らす。

 そして思っていたよりも1mほど遠くに飛ばされ、突き刺さっていたそれ拾い上げると、再び宝石が光り、ネーアに残っていた小さな傷が癒えて行った。


「おお、ホントだ……そういえば護身用って言ってたっけ。確かに便利だなあ、今までなんで気が付かなかったんだろ」


「な………なんだよ、これ……」


 その声を聞いて馬車の方をみると、メリィを置いてきた細身の男が、何が起こったのかわからず立ち尽くしていた。その脚は、恐怖からかがくがくと震えている。


「やったのはボクじゃないよ。自業自得だ……逃げるなら追わないけど、どうする?」


 男を見て出た言葉。自分でも驚くほどに冷静だった。

 本来ならネーアは、彼のような反応をするのが大方正しいのだろう。

 人間の死体を見ても、とげ頭の返り血を浴びてもなんとも思わないのは彼に恨みがあるからか、はたまた自分の心が人間じゃなくなっているのかはわからない。


「う……うおおおおおおおお!!」


「っ……くるのかよ」


 若干発狂気味に、男はネーアに襲い掛かる。

 先ほどの女性が言った通り、冷静さをかいたその動きは大したことはなく、ちょっと横へ避けて足を引っかけてやると、そのままデブ男のほうへ倒れこんだ。

 そして起き上がろうとした男はまた死体を見て絶叫し、そのまま気を失ってしまった。

 ネーアは返り血をふき取り、とげ頭に盗られた金品をポーチに戻す。


「そんなになるならなんで夜盗なんてしたんだよ……まあいいや、とりあえず御者さんとメリィ助けないと」


 ネーアはすぐに馬車裏へと走り、御者とメリィを縛っていた縄をほどいて起こす。


「ん……ネーア?」


「――――おおおおらああ!!」


「うああっ!?」


 メリィが普通に起きたのに対し、御者は起きると同時にネーアに殴り掛かる。

 驚きながらもそれをよけると、正気を取り戻した御者はキョロキョロとあたりを見てから口を開く。


「ここは……!譲さん、服ボロボロじゃないか!!夜盗はどうなったんだ!?」


「み、見ない方が…いいですよ。それより少し移動しませんか?その……」


「っ!……そうか。そうだな、そうしよう」


「?何があったさ!?」


 ネーアの物言いに夜盗がどうなったかを察した御者は、彼女に言うことに賛同して馬車を移動させた。

 メリィはイマイチピンとこなかったようだが、黙って2人についていく。

 そして1kmほど北に移動すると、改めてそこで一夜を過ごすことになった。




 =========


「……ここ、で間違いないよね。でも」


 翌朝、ネーアは朝早くに起きて1人で夜盗の元へ行ってみると、そこには痕跡一つ残っていなかった。

 飛び散った血の一滴さえも、跡形もなく消え失せている。

 そして


「は!?え?いやなんで……?」


 自身の体を見てみると、襲われてボロボロになったはずの服も元通りになっていたのだ。

 あとで着替えようと思っていたので、間違いなくボロのままを着ていたはずなのに。

 それはまるで、夜盗そのものがなかったことになっているかのようであった。


 明らかに怪しい。

 そう思い頭を抱えるネーアであったが、今は本来の目的を優先することにして馬車へと戻っていった。





 ===[エートス港]数時間後 停留所===


 それからは無事、第一目的地へとつくことができた。

 エートス港は西の大陸へ向けて2本、北東の大陸へ向けて1本の船便がでている、ミネルバの町より少し小さい港町だ。

 町に入って少しのところに位置するその停留所で2人は馬車を降りる。


「ごめんなさい、面倒ごとに巻き込んでしまったみたいで」


「ごめんなさー」


 ネーアとメリィが御者に頭を下げる。

 御者はネーアの肩に手を置き、顔を上げて口を開いた。


「何気にすることはないさ。こんな仕事してたらそんなこともある。――それより土産話、たのしみにしてるぜ」


「!!……はい!」


 御者の言葉に元気づけられるように顔を上げたネーアは、最初に見せた笑顔を御者に見せる。

 そして笑顔を返す御者に見送られながら、ネーアたちは船がある方へと向かった。


挿絵(By みてみん)


 =========



 そのまま港へ走っていくと丁度船が出る時間だったようで、乗船券を提示した2人は船体にグレイ二スタ号と書かれたその豪華客船へと足を踏み入れる。



「アルフェトラ精霊国行き、出航致します。お乗りのお客様は――――」


 2人が船へ乗り込むとほぼ同時に、船内の各所に展開された魔法陣からアナウンスがながれる。

 そして2人が甲板へと出てくるのと同時に、船が動き出した。


「いってらっしゃい。帰ってきたら、また楽しませておくれよ――ネーアちゃん。ふフふフふ…」


 船着き場にたたずむフードの女性は、その優しい目で船を見送る。

 そうしてネーアたちは不穏なトラブルに巻き込まれながらも、アルフェトラ精霊国へと向かうのだった。






 つづく

最後の下りは急いで書いたのであとで書き直すかもしれないです!


5/27 4:35頃追記

決着後~大幅修正しました!大体の流れは一緒です

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