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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第2章 災禍の渦と勇者の伝承
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30話 『救済の可能性』

 ―前回までのあらすじ―

 しかし なにもおこらなかった?

 メリィが箱に触れても何も起こらなかった。

 その場にいた全員が目の当たりにした、疑いようのない事実である。

 そう、彼の身には何も起こらなかった。

 ―――異変が起こったのは、なぜかネーアの方であった。


「……レヴ・ルフィリオン……て、誰?」


 ネーアが頭を抱えながら呟いたその単語を、バタシは聞き逃さなかった。

 その異常性に気が付けるのは、この場ではバタシと、眠っている魔王ただ2人だけなのだから。


「オヤオヤオヤオヤオヤ???ネーアサン? 今あり得ない単語ヲ口にしませんでしたかぁ?」


 バタシは頭を下げたまま――脚の隙間に顔をのぞかせたままネーアにそう言った。


「ナ★ゼ!貴女が〝彼の名前〟を知っているのでショウ!? イエ! 答えずともバタシ、分かっておりますぅ!」


 「すぅ!」のタイミングで上体を起こす。

 そしてネーアを指さすと、バタシは目を細めて口を開いた。


「ネーアサン、アナタには今! トアル記憶が上★書★き!されましたネ?」


「え?……どういうことですか!?」


 自分が口走った単語含め、何がどうなっているのか全く理解できないネーア。


「どういうことか、説明してもらってもいいかな」


 ルーダスがバタシにそう言うと、バタシは頷いて咳払いをした。


「オッホン! 改めてご説明いたしマシましょゥ! ネーアサンに起こった異変……ソレは先々代魔王、《レヴ・ルフィリオン》様に関する記憶が一つ、宿ったのでゴザイますぅ」


「先々代……魔王?」


「ハイ。その名は惑う事なき先々代魔王様の名前でゴザいますぅ。我々の中でも、それなりに地位のある者しか、その名前は知らされないほどに、語ることすら禁忌とされた大昔の大魔王―――〝我々魔人(ゴーレム)の生みの親〟でゴザいますぅ!……そしてその記憶は今、中★心★世★界!セントラル・ビギニングに接触し、そこからもたらされたモノなのですぅ」


「?……なンかしンねえけど、効果はあったってことなのかぁ?」


 イマイチ、いや全然理解できない様子のアレルが初めて口を開く。

 他の面々も釈然としない様子でバタシを見つめるなか、その彼はウンウンと頷き、話を続けた。


「ミナサン!奪われた存★在!どうなるか考えたコト・・・ナイですよネぇ? バタくし共も推測でしかナイのデスがぁ?世★界★の★果★て!の中は奪われた存在・記憶で充満シテイルのですぅ。その箱は無理やりそこに接触しぃ? こじ開けるモノ。飽和状態のグラスに水を注げバ……ドウナリマスか!!」


 そう言ってバタシはグルッドを指さす。


「わっ私か!?……こぼれる。のだろうな」


「ソーウデス!! たった今! メリィサンが接触し、飽★和★状★態!の世界にその小さな手とイウ水が注がれた……ソシテあふれ出た存在の一部が! ネーアサンの中へと……入ってしまったワケですねぇ?コレはおそらぁく!メリィサンは存在が欠けていないカラ……そこを補うヨウに、ネーアサン。貴女の中へ入ってしまったわけデスぅ」


 つまりはこういうことだ。

 一見真っ黒な中心世界は、管理者が奪った召喚者の存在や記憶で埋め尽くされている。

 冥界の霧は無理やりそこへ介入し、溢れ出た一部を接触した召喚者へと還元するモノ……ただし、何が入ってくるのかは分からない。


「シカシシカシィ!何度も申しますが不完全なのですぅ!ネーアサンへ入った記憶も、時期に隙間を埋めるように中心世界へ戻っていってしまうコトでしょぅ」


 バタシは最後に残念そうにそう告げると、散乱した箱の破片をかき集めた。

 すべて集めるとそれを懐に納め、最初にいた場所へと戻っていく。


「バタくし共の目的はこの技術の共★同★開★発! 世界の果てが見つかったという情報を耳にしぃ! 助ケになればとの魔王様の進言でゴザイますぅ!! しかしぃ?プレゼンにはどうしても彼女のオチカラが必要であったため・・・手荒であったことを、今一度お詫び申し上げますぅ」


 ネーアに向けて再び頭を下げたバタシ。

 ルーダスは頷き、グルッドへ目配せをするとバタシへ向き口を開いた。


「うむ。わたしとしては大歓迎だ、是非お願いしたい。早速だが研究室の手配をさせよう。グルッド、お2人の護衛も含めて、頼んだ」


「はっ!!」


 グルッドに連れられて、バタシは魔王を抱え王座の間を後にする。

 見送ったルーダスは改めてネーア達に向き直り、口を開いた。


「……と、すまない、勝手に進めてしまったね。今更聞くのもなんだがどうかなネーア殿……たまにでいい、協力してもらえないだろうか。君が無事、元の世界に帰るためにも」


 ルーダスは立ち上がり、ネーアに手を差し伸べる。

 ネーア少しでも確率が上がるならとすぐに手をだそうとするが、メルオンに止められてしまった。


「陛下……その前にひとつよろしいでしょうか」


「む……何だいメルオン殿」


 ルーダスが首をかしげると、メルオンはネーアとメリィの頭に手を置いた。

 そしてルーダスの目を真剣に見据えて口を開く。


「嬢ちゃんが協力するというなら、恐らくこいつ………メリィも同じことを言うでしょう。しかし一つ、確約していただきたい。絶対に危険な実験には参加させないと! あくまで可能性を上げるため……逆になることはさせないと誓っていただきたい」


「メルオンさん……」

「ご主人……」


 ルーダスはこれに同じく目を合わせて頷き返す。


「ああ。約束しよう!男と男の約束だ」


「……感謝いたします!」


 メルオンが手を放して深く頭を下げると、ネーアは改めてルーダスの手を取った。


「ありがとう」


「いえ、こちらこそ……」


「……オレ帰る」


「え!ちょっとアレル!!君にはまだ……――行ってしまった」


 2人が手をつないでそうしているのを見ていたアレルは、なぜか機嫌を悪くして王座の間から出て行ってしまった。


「彼には別のことを頼もうと思ってたんだが……まあいい。ひとまずありがとう、ネーア殿、メルオン殿、メリィ殿。まだ研究は始まってすらいない。しばらく時間が空くだろうから、一度ミネルバの町へ戻ると良い……どうやら、城下町は不穏な動きがあるみたいだからね」


「……はっ!では次の連絡、お待ちしております」


 最後の一言が気になったメルオンだが、何も言わないということはそういうことなのだと言い聞かせ、頭を下げる。

 続いてネーアとメリィも一礼し、3人は城を後にした。





 ===[王都メフィル] 昼頃 中央大通り===


「嬢ちゃん、01(ゴールド)の試験、どうするよ」


 ギルドの前を通りかかった時に、メルオンがふと問いかけた。


「あ………そういえば忘れてました!!」


「だと思ったよ。心配するな、あれはミネルバの酒場でも取り扱ってっからよ。機会があったらまたやればいい。どうせ今は、それどころじゃないだろ?」


「オイラももうゆっくりしたいさー」


 メルオンが言うと、メリィもふらふらと飛ぶようにして言った。


「だね……ひとまずは、帰るのが最優先!」


「おう!今ならまだ何とか間に合うだろう。馬車借りてさっさと帰るぞ」


 ネーアは銀色のギルドカードを、天高く見上げる。

 明るい未来を見据えて――精一杯やってやるぞという意気込みを新たに。

 しかし彼女はまだ気が付いていない。自身に起こっている異変に。





 つづく

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