表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第1章:序: 帰路と幻想と理不尽と
3/80

 3話 『初めての人里 その1』★

―前回までのあらすじ―


 メリィ諸共スライムに飲み込まれた。



2017/10/04 全体を改稿しました。

「ん……まぶし……!」


(確かボクはスライムに飲まれて……それから……)


「―――!?」


 目を覚ますと、それが見知らぬ天井になっていることに気が付き、ネーアは跳ね起きた。

 一体あれからどうなってしまったというのか。


「ここは…どこかの民家……?」


「お、起きたな嬢ちゃん!心配したぜー?あんなところに裸で倒れてるんだもんよオ」


 隣から強そうな男の声がした。

 筋肉隆々でガタイのいい体躯に、ワックスで固めてあるかのように頭の後ろでツンツンとした髪、どこか優しく力強い目……そして顔の半分を覆うかのような大きなアザ。

 物騒な感じはするが、その目のせいか悪い男には見えない気がした。

 ……そうやらこの男が、ネーアをここまで運んできた張本人らしい。


「……――はッ!?裸!?」


 そんなことよりも、男の言葉にハッとして咄嗟に視線を落とすと、なるほど確かに何も着ていない。

 ……なぜ?

 心は年頃のピュアッピュアな少年であるネーアは、『裸の女の子が倒れていて、気が付いたら男の人と二人きり』というシチュエーションを脳内再生してみる。

 悪い男ではない……にせよ、そんなところに出くわしたらボクも理性を保っていられるか……――!!

 そして途中まで考えかけてから、慌てるようにかけていた毛布に丸まり顔を真っ赤にして、座っている男に視線を向けた。


「ボッ……ボクに何かしたんですか!?」


 真っ赤な顔で頑張って叫ぶ。

 必死なネーアに男はきょとんとしてしまうが、しばらく時間をおいて状況を理解したらしく、軽く頭を下げてから口を開いた。


「ああスマン!! オレの配慮が足りなかったな、何もしてないから安心してくれ」


「ホントですか……?」


「おうよ!!!」


挿絵(By みてみん)


 さすがに体が女になっているとはいえ、男に襲われるのは勘弁願いたいところだ。

 少し安心したネーアは、肩の力を落とすとまだ助けてもらったお礼を言っていないことに気が付いた。


「あっいえ、こちらこそ、ありがとうございます。助けてもらって」


「おう!」


 ピクピクと反射的に耳を動かしてお礼を言うが、心なしか左耳が重い。

 ――ていうか動かない。

 何かがはまっているような感覚を覚え、思い切って左耳を人差し指で触ってみる。

 すると、ずぼずぼと何かドロドロとした透明のものに消えていくではないか。


「……嬢ちゃん!!? 一体何を!?」


 男は驚愕と戸惑いの目でネーアを見るが、当の本人はため息をついてその指をぐるぐると回している。

 ―――すると。


『……おえっ』


「わっ!?はくなよ!?」


 ネーアの頭の中に不快なうめき声が響く。

 とっさに指を引っこ抜くと、左耳の中からげんこつサイズのスライムが落っこちてくるではないか。


「ま!魔物!?一体いつから!!!」


 男は突然現れたスライムに身構えるが、それを見たネーアが必死に止めに入る。

 少し半信半疑ではあったが、さっきの声に、この透き通った水色の体……間違いなく、あのスライムなのだろう。


「わ!悪いヤツじゃないんです!ボク悪いスライムじゃないよーってやつです!!剣をしまってください!」


「ぬ…?そうなのか、これはすまない」


 ネーアの言葉に対し、男が素直に剣を鞘に納めるのを確認すると、ネーアはスライムを頭の上に乗せた。


『ううう……からだのニャカはかき回さないでほしいのニャあ』


「そんなに嫌なのか?腕突っ込んだ時もすごかったよなー」


『身体の中こねくり回されて気持ちいいわけにゃいのニャ』


「そう…か、それを言われるとちょっと納得」


『わかればいいのニャ♪気を付けるニャ♪』


 スライムがそう言うと胸を張るようにのけ反る。


「それはそうと、なんでお前そんなちっちゃく……ん」


 スライムと会話をするネーアを見ている男は、呆然として見つめていた。

 どうやら彼には、彼女が独り言を言ってるようにしか見えないらしい。

 まさかスライムの声が聞こえてないとは思っていないネーアは、男に首をかしげて言った。


「どうかしました?」


「嬢ちゃんは…その、何かと話しているのか?」


 男は意を決してネーアに問いかけた。

 それを聞いたネーアは一瞬驚いたような顔をしてから、男がスライムの声が聞こえていないのだと察し、スライムを手のひらに乗せなおす。


「えっと、すみません。こいつ……このスライムとお話を」


「スライムと……会話…?」


 男は不思議そうに2人を見つめる。

 スライムが話せるようには見えない……そう言いたげな顔だ。


「不思議なこともあるもんだな……嬢ちゃんの話を疑うわけではないがにわかには……いや」


「いや?」


 男はそこで言葉を止めると、ネーアの顔よりすこし上を眺める。

 そして少し悩みこんでからネーアに向きなおし、頷いて言った。


「いやすまない、何でもないんだ。オレはちと外を見てくるから、ゆっくりしていてくれ」


「あ…はい。わかりました」


 そういうと男はそそくさと家から出ていく。

 ネーアはスライムをじっと見つめて小難しい表情をしていた。


「……お前の声、聞こえてないってよ」


『きこえてたニャあ、そんなの昔っから慣れっこだニャ、気にすることニャいのニャ』


 えらくポジティブなスライム猫だと思ったが、すぐ納得する。

 そうだ、こいつは向こうの世界で猫だったのだ。

 人と会話が成立しないことにはなんの違和感もないのだろう。


「そ…っか、お前猫だもんな。で、さっきの続きだけどなんでそんな小さいの?」


 ネーアは耳をぴょこぴょこと興味ありげに動かして言う。


『にょ?そういわれてみればおみゃあ大きくなってるのニャ?ニャんでニャ?』


「えぇ……」


 このスラ猫……小さくなっていることに気が付いていないときた。

 ネーアは少し呆れ気味になってから、仕方ないと説明することにする。


「ボクが大きいんじゃなくて、お前が小さくなってるんだよ。今のお前、雑草くらいの大きさしかないんだぞ」


 『ニャ!そうニャのかニャ!?道理であの時草が大きくなってくと思ったのニャ~』


「その様子だと、透明化も無意識か……なんかめんどくさそうだなあ」


 要はこのスライム、力の制御ができないのだ。

 まあ、突然そのような身体になってしまったのだから、何も解らないのは無理もない。

 暴走して被害が出ることを恐れたネーアは、スライムを頭の上に乗せなおして一つ提案をすることにした。


「おまえ、ボクの友達にならないか?どうせ行き場もないんだろ?頑張って一緒に元の世界に帰ろうぜ」


『ニャ? トモダチにゃ? それなら知ってるニャ~、にゃあはおみゃあの頭の上気に入ったニャ~。トモダチになれば、ここ占領してもいいニャ?』


 相当その場所が気に入ったらしく、スライムはその体をくねくねさせてネーアに問いかける。

 意外な反応にネーアも少し戸惑ってしまうが、「あはははは」と微笑を挟んでから、その条件に返答をした。


「ああ、いいよ。そこはお前専用だ――《スマ》」


『ニャ? スマってにゃあのことニャ? センスニャいけどそれでもいいニャ~♪』


「今センスないっつったかお前……まあそういうこと、よろしくスマ」


『ニャ~』


 ――バタン!!


 2人の話がひと段落したところに、大きな音を立て、乱暴に家のドアが開けられた。

 そしてドアの外から何やらものすごい速度で、小さな人影の様なものがネーアの胸元に飛び込むようにして飛んでくる。

 

「ふぇ!? な、なに!?」


 一体何事かと、ネーアは飛び込んできたソレに顔を向ける。

 真っ白な団子の様な頭と体に、小さな黒い羽……そして特徴的な一角。

 ――影の正体は、自称マスコットことメリィだった。




 つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ