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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第2章 災禍の渦と勇者の伝承
29/80

28話 『晩餐』

 ―前回までのあらすじ―

 おかえりネーアちゃん

 ===[王都メフィル]宿屋ステイラ 中部屋===


「んー……ふあーぁ」


 ネーアが起きた時には、もう日が沈みかけていた。

 あの後は各々、アレルの移動魔法で王都へ帰ってきた。

 そのアレルはというと、そのままバタシと魔王を面倒くさそうに城へ連行していった。


「起きたか嬢ちゃん……その、スマンな。偉そうに説教なんか垂れて」


「いえ、そんな……――おわ!?」


「でーーあーーーーごべんさーーーー!!!」(訳:ネーアごめんなさい)


 メルオンに続いて、メリィがネーアの胸元に飛び込んで号泣しながら謝る。

 彼は本当にずっと気にかけていた。

 ネーアの様子が変わってしまったのには自分に責任がある。

 それを自覚していたからこそ下手なことは言い出せず、ずっと何と言っていいのか分からずにいたのだ。

 ネーアはメリィの後頭部を擦りながら口を開いた。


「本当だよメリィ、お前にはちゃんとこの責任とってもらわないと困る。……だから」


「だから……?」


 メリィがネーアの顔を見る。


「次の世界の果て、見つかったらお前に行かせるからな」


「「え……えーーー!?」」


 2人が体制を大きく崩して驚いた。

 しかしそんなときもスマは、窓辺で寝息を掻いてピクリとも動かない。


「神官さんもいってたけど、ボクとメリィ。どっちも術者ってことになってるんだよね。つまりどちらも術者であり召喚者ってことだ。で、ボクの願いは一つ叶えられた……らしいけど、他にあと4つも願いがあるみたいなんだ」


「4つ………てことはさ?」


「そう、まだ最低でも……ん?いや待てよ・・?」


 まだ4つ、世界の果てがある。――そう言おうとして、ネーアは頭を悩ませる。

 2回目の〝接触〟は願いをかなえる前だった。

 管理者は、願いを叶えたとは一言も言っていない。

 そして世界の果ては、召喚者が接触すれば消える―――つまり。


「あと……〝3つ〟か!?」


「3つ?4つじゃなくてさ?」


「そう、3つだ!1回目はボクの願いを叶えて消えた。2回目は願いをかなえる前だった。その時に4つって言われたんだ……つまり元々5つの願いがあって、この世界には5つの世界の果てが現れた。ということは2つ消えた今、残ってるのは3つってことになる……ハズ」


 確証はない。

 仮に本当に消えているとして、1つの願いでこの世界に来た人が、願いをかなえる前に世界の果てへ入ってしまえば、その人は元の世界に戻れなくなる。

 だから考えたくもない対応措置として、全ての願いを叶えなければ延々と出現し続ける・・・なんてこともあるかもしれないのだ。

 だが本当にあと3つなのだとしたら……


「ボクは前回管理者と接触したときにさ、なんでかわかんないけど次の時は無償で願いを聞いてくれるって言ってたんだ……だからメリィ、次の1回をお前が通ってくれれば…」


「ネーアはこれ以上、何も取られなくて済むさ!!」


「そういうこと!責任とるんだろ?これくらいしてくれないと困るよ」


「おお……なるほど」


 ネーアとメリィの会話を聞いていたメルオンが、最後に納得の意を示す。

 メリィが世界の果てに入ることに対しては反論しないようだった。

 そしてメリィは再びネーアの胸元に飛び込み……そのまま押し倒して号泣する。


「う゛わあああああん!!そんなんでいいならオイラ全部ネーアに捧げてやるさああああああああ!!!」


「ちょっと痛い!メリィ痛いって!!それに捧げるのはボクにじゃないし!!ちょ、離れなさい!!」


 一本角(?)をぐいぐいと押し付けて泣き止まないメリィを必死に離れさせようとするネーア。

 メルオンはその光景を見て、不思議と笑いがこみあげてきた。


「ハハハハハハハ!!………やっと、戻ってきたな」


「メルオンさん!笑ってないでこいつ放れッ……ちょ!メリィだから痛いって!!!」


「ハハ……ああ、わかってるよ!」




 その夜、宿屋ステイラの2階の一角は、温かな笑いに包まれていた。


「……ふぅん、帰ってこれたんだ」


 陰からそれを見るローブの人物は、そう一言だけこぼしてどこかへ去って行った。





 ===[メフィル城]王座の間===


 アレルに連行されたバタシと魔王。

 2人は同じ時、改めて謁見の機会を設けられていた。


「バタシ殿と、魔王殿、苦労かけてすまないな。遅くなってしまった。」


 3人以外に誰もいない王座の間。

 そこで一言、ルーダスが2人にそう言った。


「イエイエイエイエ滅相もないィ!もとはと言えば我々が騒★ぎ!を起こしたせいですからこちらこそ申し訳ゴザゴザゴザゴザございません……謹んでお詫びを……魔王様寝ていらっしゃいますケド」


「すぴー……」


 バタシがずっと寝ている魔王に冷や汗をかきながらも、お土産の真っ黒い団子をルーダスに差し出す。


「彼はいつものことだ、気にしなくていいよ。大体はアレルが説明してくれたから把握はしている……ハズなんだけど、彼の言い方だとちと不安でね。今一度説明を乞いたいんだがいいかな」


「ぬぬぬっ!ソレはソレは喜んで―――かくかくしかじか…………」


 バタシは大よその事情、そして夜明けまでの出来事をルーダスに事細かに説明した。

 メルオンとネーアのやり取りは演技まで丁寧に。


「――あ、ありがとう。把握した。して、そのブツとやら……見せてもらっても構わないかね?」


「ム!イイですともイイですとも!どうぞ隅★々!!までご覧くださいませぇ」


 そう言ってバタシは、懐から例の箱を取り出してルーダスへ手渡す。

 その箱からは相変わらずドス黒いモヤが延々とあふれ出ていた。


「ふむ……一つ聞きたいんだが、これは世界の果てから採取したモノではないのかい?」


「イエイエイエ国王陛下、そちらのモノはバタくし共の技★術★の結★晶!!長年研究に研究を重ねてきた成果でゴザイマスぅ!」


「では、一から作ったものということでいいんだね」


「イェスですハイィ!」


 ルーダスは箱を顔に寄せてよく見てみる。

 溢れ出るモヤの隅々まで、舐めまわすようにじっくりと。


「わたしも一度穴倉のものを見た程度だが……すごいな、本物と全く見分けがつかない。これをネーア殿に触れさせて、どうしようというのかね?」


「ハイ。その質問をお待ちしておりましたぁ!しかしィ!それは彼女たちをお呼びしてからでもよろしいでございましょうカ?」


 バタシはその首を大きく100度ほど傾けて言った。

 それにルーダスは少し考えて「なるほど」と呟きながら箱を懐にしまう。


「それもそうだな。メルオン殿にはもう伝令が入っているはず。明日、会う機会があるだろう。その時で構わないかね?それまでこれは責任を持って預からせてもらおう」


「お心遣い、感★謝!いたします」


 バタシが首をそのままに深く深く、頭が床に突くほど下げてお礼をすると、ルーダスはパチンと手を叩いて口を開いた。


「うむ!ではひとまずこの話は終いにしよう。ディナーでも、御一緒にどうかな」


「む……ごはん」


 ディナーという単語につられて、魔王が鼻提灯を破裂させて起きる。


「ま!魔王様!しょんな失礼な目の覚まし方はだめでちゅよ!!めっ!!」


「バタシうるさい」


 魔王はそう言い放ち、王座に座っているルーダスの膝にハイジャンプする。

 魔王は彼の膝上で綺麗な正座を見せてこう言った。


「久しぶりルー坊、おっきくなったな」


「ええ、おかげさまで魔王様よりも背が伸びましたよ。積もる話もあるでしょうし、ご飯。はやくしましょう」


「うむ」


 笑顔の魔王とルーダスがそんな些細なやり取りをした後、ルーダスは鷹でも止まらせるかのように右腕を出し、そこに魔王を座らせる。

 そして口をポカンとさせているバタシをそのままに、食堂へ向かって王座から立ち上がって言った。


「バタシ殿もお早めに。待ってますから」


「エ………?は、ハイ」


 大国国王と魔王、そしてその側近。3人での会食は、それはそれは賑やかなものになったそうだ。

 翌日から始まる、不穏な影の動きを助長するかのように。





 つづく

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